ソロアーティスト、作曲家、プロデューサーとして、また、LUNA SEA、X JAPANのメンバーとして音楽の世界で八面六臂の活躍をしているSUGIZOさんは、平和、人権・難民支援、再生可能エネルギー・環境、被災地ボランティアといった活動へも積極的にかかわっている実践主義者でもある。
SUGIZOさんは、喪失感が漂う時代にたいして「口をつぐむのはやめる。声をあげるべきときは遠慮なく声をあげる。行動すべきときは行動する」という。吉村栄一さんによるインタビューを4回にわたって届ける。
文=吉村栄一
──今年も原爆記念日には広島を訪問したんですよね。
「はい。8月6日に広島に行ってきました。原爆が投下されてから75年目の日です。「tenbo」という友人がやっているファッション・ブランドがあるんです。そのブランドはファッションを通して平和と人権と障がい者の方々の福祉を訴える活動もしています。そこが去年からは8月6日に広島で平和を願うファッション・ショー『Pray for Peace Collection』を始めたんです」
──そのショーに参加?
「そうです。広島には毎年、世界中からすごい量の千羽鶴が届きます。その千羽鶴を破棄するのがしのびないということで、それを再利用した素材でショーの服を作っている。千羽鶴の紙と布を使い、障がいを持つ子供達がモデルの中心となってその服を着るというもの。僕も去年からそこに参加しています。ただ、今年は新型コロナの影響で無観客のショーで配信オンリーだったのですが」
──原爆から75年目の今年の広島の空気ってどうでした?
「今年の夏はとにかくどこも猛暑だったじゃないですか。広島も身が焦げるような感じでしたね。ただ、去年も今年も原爆の日に訪れて、やはり哀悼の意という空気を町中から感じました。75年前に原爆が投下され、それ以降もずっと後遺症を引きずっている方々も大勢いる。二度と同じことを起こしてはいけないという決意と、哀悼の気持ちがどちらもしっかりと存在している。そうした中、自分の子供達にしっかり伝えていきたいという人もいれば、辛すぎる体験なので口を閉ざしたままの人もいる」
──なるほど。単純な話でもないんですよね。
「それでも僕がストレートにおかしいなと思うのは、世界では核兵器廃絶がまだ実現できていないどころか、この日本において広島の8月6日、長崎の8月9日、これらの重要な日ですら核兵器反対を口にするとバッシングを受けたりする風潮。これはおかしいよね」
──日本の一部の空気、確実におかしくなっていますよね。
「いまの時代は日本にも核兵器が必要だと平気で口にする政治家すらいる。いつ敵国が攻めてくるかわからないから、日本も核兵器を持って自衛すべきだ、と。僕も、いまは決して平和な時代じゃないから緊張感は持たなければいけないと思うんですよ。でも、侵略されたらどうするんだ、日本も核武装をと叫ぶ人達は、わざわざそれを8月6日に発信することはないじゃないかと思うんです。数十万人の人が命を落としたこの悲劇に対して、彼らはどう思っているんだろう」
──そういう勇ましい言葉が歓迎される一方で、リベラルな意見はなかなか声が大きくならない。
「そう、とくにいまの日本でははっきりとした言葉は政権から聞こえてこないじゃないですか。核廃絶にしろ、むしろ外国であるニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相のほうがはっきりと核反対の意見を表明できている。そういう風潮は残念で仕方がないという気持ちですね」
──リベラルの退潮は3.11以降、ますます顕著になってきたと思いません?
「思います。3.11以降、当時の民主党政権も含めて圧倒的なリーダーが出てきていない。第二次安倍政権も含めて、“この人はすばらしい”と思える人がいない。そういう一種の喪失感がある。国が傾いているという実感もあります」
──8月に公開されたカヴァー曲「昨日見た夢〜平和の誓い〜2020」のヴィデオがとても印象的でした。
「この『昨日見た夢』は、自分がちゃんと歌っている作品を公に出すという意味では15年ぶりぐらいかな」
──ふだんはインストゥルメンタルかゲストにヴォーカリストを迎えた曲ですものね。びっくりしました。
「この曲はもともと、2005年に、当時短期間だけやっていたThe FLAREというユニットがあって、そのユニットのシングルでカヴァーしたのがはじまりなんです。その後ずっとファンクラブのイベントでのアコースティック・ギター弾き語りで歌い続けてきたんです」
──原曲は1950年に発表された、エド・マッカーディというシンガー・ソングライターの曲だそうですが。
「そうです。ただ、俺が知ったのは1964年のサイモン&ガーファンクルのカヴァー・ヴァージョンが最初で、それを参考にカヴァーしています。原曲は1950年だから第一次中東戦争の頃なのかな。ちょうど70年前。そのときの心情を歌った素朴な歌詞なんですけど、非常に残念なことには70年経ったいままで、ずっとそのメッセージが有効で、世界に必要とされ続けているということですよね。変わっていないんです。たとえばアメリカなんてこの70年間で戦争行為をしていない年というのは1年もないでしょう。と言うより建国以来、ずっと戦争をしていますよね?」
──そんな普遍的な反戦歌を今年あらためて発表しようと思ったのは?
「今年あらためて自分で歌って公開しようと思ったのは、とりたてて大きな理由があったからじゃなくて、戦後75周年だし、自分のできることをやろうと。毎年、8月15日にはSNSなどでメッセージを発信しているんですが、そのタイミングでなにか作品も発表できればいいなという気持ちがありました。ただ、今回、あらためて自分で歌ってみて、以前にThe FLAREでカヴァーした15年前といまも世界の状況は変わっていないということに、非常に憤りを感じました」
──日本語の訳詞もされていますが、非常に優しくまっすぐな詞になっていますよね。
「原曲の歌詞は当然英語で、その英詞をかなり忠実に訳しています。そのうえで英語字幕版も作成しているので、世界の人達にとってもわかりやすいメッセージになっているんじゃないでしょうか。この歌の歌詞には、攻撃的な言葉や罵倒の言葉、誰かを非難する言葉はでてきません。むしろ優しい言葉が多いので、僕としては子供達に聴いてもらって、なにかを感じてもらえればなと思ってます。絵に描いたようなお花畑の歌でもある」
──映像も非常に印象的です。
「この優しい世界に、友人達(※)が撮ってきてくれた世界中の紛争地や難民の写真が入ることで、歌とあいまって伝わるものがあればいいなあと思ったんです。最初は僕自身の映像はいらないと思ってた。歌と友人の写真だけで映像を構成しようと。ただ、途中でメッセージを伝える媒介としての自分の姿も入れたほうがより広く伝わるんじゃないかと思い直してあの映像になりました」
※ フォトジャーナリスト佐藤慧、戦場カメラマン鈴木雄介、フォトグラファー田辺佳子
──難民の子どもと写っている写真が多いですね。
「難民の子どもたちと一緒にものは、いろんな時代の写真があるけど、去年のイラクとヨルダンに行ったときのものが多いかな。あとは一昨年のパレスチナに行ったとき。難民キャンプには2016年に初めてヨルダンに行き、その後足繁く訪れるようになりました」
SUGIZO_02 難民キャンプで音を奏で続けたい(10月16日配信)へつづく
INFORMATION
2019年、中野サンプラザで開催した自身初のBirthday公演『SUGIZO 聖誕半世紀祭〜HALF CENTURY ANNIVERSARY FES.〜』を、 ソロキャリア初のライヴアルバム化。 ゲストに迎えた盟友達とのセッションを含め、 Day1&2のSGZ ライヴパートを二枚組で完全収録。
豪華版(数量限定発売)
CD2枚組、Blu-ray、特製ブックレット
発売:2020年9月30日(HMV&Loppi限定商品)
通常盤
CD2枚組
発売:2020年9月30日
価格:3,850円(税込)
PROFILE
作曲家、ギタリスト、ヴァイオリニスト、音楽プロデューサー。 日本を代表するロックバンドLUNA SEA、X JAPANのメンバーとして世界規模で活動。同時にソロアーティストとして独自のエレクトロニックミュージックを追求、さらに映画・舞台のサウンドトラックを数多く手がける。音楽と並行しながら平和活動、人権・難民支援活動、再生可能エネルギー・環境活動、被災地ボランティア活動を積極的に展開。アクティビストとして知られる。
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