文=吉村栄一

『聖誕半世紀祭 』初日(撮影=田辺佳子)

──日本も春先からずっとコロナ禍、パンデミック下での社会生活となっていますが、SUGIZOさんにも影響が大きかったでしょ?

「実は、以前からずっとスタジオに篭って仕事をするタイプなので、一見するとほとんど変わらない(笑)。ただ、LUNA SEAの30周年記念のツアーが、最初の2ヶ所が終わった段階で残りの日程を延期にせざるを得なかったたので、それはやはり本当に残念でした。政府からの自粛の要請がある前、コンサート・ツアーの延期を決めた2月14日からはずっとスタジオに入って制作をしていました」

──LUNA SEAのレコーディングもリモートでやってましたよね。

「LUNA SEAのみんなでこの状況でできる新曲を作ろうとなって、すべてリモートでレコーディングしました。そのあとには、大変な状況禍にある医療従事者の方々やフロントラインワーカーの方々をサポートしたいと思い、LUNA SEAが中心となって『MUSIC AID FEST. ~FOR POST PANDEMIC~』というプロジェクトを始めたのが4月。1カ月かけて共演したいアーティストにオファーしたり、制作に入たっり、調整をしながら5月31日に開催されました」

──そしていまはソロ・アルバムの制作?

「そう、『MUSIC AID FEST.』や機動戦士ガンダム40周年記念コンピレーションアルバム『BEYOND』制作作業などが終わってから、ようやく自分のソロにとりかかれたんです。まずはライヴ・アルバムの『LIVE IN TOKYO」のミックスと、映像制作。それが終わって“昨日見た夢”を作り、8月から新しいソロ・アルバムを制作しています。なので結局この数カ月のコロナ禍の中でもずっとメチャクチャ忙しいです(苦笑)」

──(笑)もともとやりたいことをいっぱい抱えているタイプですしね。

「まあ、そうですね(笑)。創作意欲がつねに湧いてあふれています」

──9月にリリースされるライヴ・アルバム『LIVE IN TOKYO』は昨年の聖誕半世紀祭の中野サンプラザでの2デイズ(7月7~8日)のライヴをまとめた作品ですよね。あのコンサートのときは、1年後のいまの状況は当然予想もできなかったわけですけれど、作業のためあのときの音を聴き直してみてどうでした?

「自分にとっては癒しの作業になった気もしますね。あのライヴのときの高揚感、戦慄、感動……。ミックスをしているときにはあの時間にこめられた生命力やエネルギーがとても刺激になりました。自分の1年前の演奏で、その1年後のいまの状況にいる自分にポジティヴなパワーを与える、与えてもらったという感覚かもしれない」

──くりかえしになりますが、1年後にこんな状況になっているとは……。

「そう、やっぱり僕のような人種はライヴがないと生きていけないんですね(笑)。それは音楽だけじゃなくて、演劇やダンスもそうだろうし、表現者がステージに立って生の表現をする、それをお金を払って観に来てくれる人がいる。ステージ芸術の存在意義というのかな。それをあらためてずしんと感じています。ライヴは単なるお遊びじゃないんだ、ここでみんな命を賭けてやっているんだ、ということをすごく再認識しました。多くのミュージシャンがそうでしょうけど、半年間の空白を経験するなんて想像もしていなかった。ライヴができないと精神的にはせっぱつまった感じになるし、ステージに立つということを本能レベルで望んでいるんだなって実感しましたね」

『聖誕半世紀祭 』2日日(撮影=田辺佳子)

──そんな思いの詰まった『LIVE IN TOKYO』の聴きどころを教えてください。

「ライヴ・アルバムとして、あるいは音響作品としてすばらしいものができたと思っています。音像をリアルに体感できるものになっている。音にぶっとばされてほしい。ヘッドフォンで爆音で聴いてもらうのも推奨します」

──ライヴ・アルバムならではの臨場感を感じました。

「いわゆる通常のライヴ盤よりもアンビエンスを少なめ、デッドめにしています。これは昔のYMOのライヴ・アルバムなどに影響を受けている。『パブリック・プレッシャー』や『フェイカー・ホリック』の音のデッド感、生々しさが好きなんです。21世紀に入って、ロック・バンドにおけるライヴ・アルバムの存在が揺らいでいますよね。そういう状況の中で半端なものは作りたくなかったので、音像を徹底的に追い込んでいます」

──コンサートでPAを務めていたダブマスターXさんの役割も大きいですよね。

「そのとおりです。ダブさんとのコラボレーションで、これを聴いてもらいたいという音像をライヴ・アルバムという形で結実できたのは大きかったです。その中でとくにうまくいったと思うのは、ガンガンのダンス・ミュージックとゲストの歌もの、いくつかのアンビエント曲が違和感なく共存していること。本来はなかなかないことだと思うんですけど」

──いろんなタイプの曲があるだけに難しいですよね。

「個人的にはライヴ・アルバムであっても、べつにライヴのドキュメンタリーにする必要はないと思ってます。僕の大好きなYMOの『パブリック・プレッシャー』もJAPANの『オイル・オン・キャンバス』も、ライヴのドキュメントとしてではなく、ライヴで演奏された音楽を素材として究極の音像を作っている。ライヴという空間でしか生まれない演奏のエネルギー、成分をそのままスタジオに持ち帰って、さらに精度をあげてパッケージにした。ライヴを録ってそのままで出したものじゃない。新たに昇華させたもので、このアルバムは僕にとってはそれらと同等の意味合いを持った作品。同時に近年の自分のベスト集でもあります」

──通常盤と豪華盤ではジャケットもちがいますよね。後者のほうは……(笑)。

「去年、中野サンプラザでライヴをやって、そのライヴ盤を作ろうと決めたときに思いつきました。中学生のとき、パブリック・イメージ・リミテッド(PIL)の中野サンプラザでのライヴ・アルバム『LIVE IN TOKYO』を愛聴していたし、中野サンプラザって昔は洋楽アーティストが必ずプレイする憧れの会場だったじゃないですか。そこで自分のソロ・コンサートができるということがまず感慨深くて、2デイズをやるならそれを二枚組のライヴ・アルバムにしたい。タイトルもPILにあやかって『LIVE IN TOKYO』とすぐに決めて、ジャケットもオマージュしようと」

P.I.Lリスペクトの豪華版ジャケット
通常盤ジャケット

──新宿東口で撮影されたあのアルバムのジャケット写真は衝撃的だったですよね。

「新宿で6月に撮りました。同じロケーションで同じ構図で撮ったんですが、40年近く前の新宿の一角と、2020年のいまの新宿の一角の、変わらないところと変わったところがそれぞれおもしろい。ドキュメントとしては背景の通行人がみんなマスクをしているというのも“いま”を切り取っていますよね。本当は、ライヴの1年後の今年の7月8日にリリースしたかったんですけど、コロナの影響でスケジュールが狂って、2カ月ちょっと遅れになっちゃった。それが残念」

 

SUGIZO_04 絶望的な状況の中で生まれる救済の音(10月23日配信)へつづく

 

 

INFORMATION
2019年、中野サンプラザで開催した自身初のBirthday公演『SUGIZO 聖誕半世紀祭〜HALF CENTURY ANNIVERSARY FES.〜』を、 ソロキャリア初のライヴアルバム化。 ゲストに迎えた盟友達とのセッションを含め、 Day1&2のSGZ ライヴパートを二枚組で完全収録。

豪華版(数量限定発売)
CD2枚組、Blu-ray、特製ブックレット
発売:2020年9月30日(HMV&Loppi限定商品)
価格:8,470円(税込)

通常盤
CD2枚組
発売:2020年9月30日
価格:3,850円(税込)

 

PROFILE
作曲家、ギタリスト、ヴァイオリニスト、音楽プロデューサー。 日本を代表するロックバンドLUNA SEA、X JAPANのメンバーとして世界規模で活動。同時にソロアーティストとして独自のエレクトロニックミュージックを追求、さらに映画・舞台のサウンドトラックを数多く手がける。音楽と並行しながら平和活動、人権・難民支援活動、再生可能エネルギー・環境活動、被災地ボランティア活動を積極的に展開。アクティビストとして知られる。

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