インタビュア=吉村栄一

写真=Zakkubalan

坂本龍一さんにインタビュー。吉村栄一さんの連載「音楽遠足」では特別編として、坂本さんが2020年に「したいこと」「すること」を伺いました。3回連続の初回は、抱負とスケジュール。


──2020年もまた忙しい年になると思いますが、ご自身ではどういう年にしたいと考えているのでしょうか?

「子供のときから年の区切りとか、年頭の抱負とかを意識したことはあまりないんですけど、今年は珍しく抱負を持ちました。プロジェクトとプロジェクトの合間に1日、できたら3日間のオフを作るというものです」

──オフ、休みを取るのが抱負!

「これはぼくにとって大きな抱負なんです(笑)。というのも、これまでの人生では、プロジェクトとプロジェクトの合間にまったく切れ目がなく、それどころかいくつものプロジェクトが同時進行していた、いや、いまでもしているんですけど。今年はそういう状況を変え、ひとつのプロジェクトが終わったらちゃんとオフを取り、その後に次のプロジェクトに取りかかる」

──なるほど。

「また、単純にもっと本が読みたい。読みたい本がたくさんあるのに、時間がなくて読めないというのが長年の悩み。おもしろそうな本があれば、時間を気にせず手当たり次第に読めるような環境が本当にほしい。ただ、時間が貴重な上に目も悪くなってきたし、死ぬまでに何冊読めることか……。そういえば、還暦になったときに、死ぬまでに読みたい本のリストを作ったんですよ。でも、それから8年経ったいまはもっとシビアに冊数を絞ったリストを作り直さなきゃいけない。年に何冊かしか読めないということは死ぬまでにと考えると、あと10年だとすると……」

──10年ということはないでしょう(笑)。

「そうかな。ま、ともかく興味のありそうな本をふと手に取って読むなんていうのは本当に贅沢なことで、これだけは読んでおかなきゃいけないというリストを改めて作らなきゃ。でも同時にそうしたリストに縛られずにふと手に取った本を気兼ねなく楽しむという贅沢もほしい。それがいちばんのウィッシュなのかな」

──仕事以外の時間を作るということですね。

「そのため、たとえばSNSの利用は本当に減らしました。漫然とタイム・ラインを追うなんていうことは近年はまずない。Twitterはほぼ見ないし、Facebookも本当に減った。仕事で使う面もあるから完全にはやめられないのだけど、費やす時間は激減しました」

辺野古沖をグラスボートで視察。美しいサンゴ礁に心を打たれた 写真=KAB America Inc.

──そんな坂本さんの年間の活動、たとえば今年はどういうスケジュールなんでしょう?

「今年は、まず1月には、近々リリースされる、ぼくが昨年1年間に作った音楽の集大成ボックス・セットのボーナス・トラックになる新曲の録音をしました」

──『プロキシマ』や『ブラックミラー』など、いくつかの映画やテレビ番組の音楽などが入るアナログ盤ボックス・セット『Ryuichi Sakamoto 2019』ですね。

「そう、ボックスのデザインもすごく凝っていて、ヴォリュームもある分、値段が高くなってしまって心苦しいのですけど…。1月にはそれと日本のテレビ・ドラマの主題歌を一曲。また、アジア系アメリカ人の映画音楽を1曲」

──1月には沖縄での吉永小百合さんとのチャリティー・コンサートや辺野古の海の視察もありましたよね。

「そうそう。1月はそういう感じで、この2月には知り合いの会社が本社移転で記念の年になるので、その会社のテーマ曲と、そして香港の映画監督の新作のテーマ曲を2曲、それぞれ作曲し録音します」

──このインタビューを行なっているきょう(2月3日)は、夜にはローリー・アンダーソンさんのトリビュート・ライヴへの出演もありますよね。

「そう。世界中の人に“Ha”という声を録音して送ってもらったファイルを素材にちょっとへんなことをやろうと思ってます」

この3月には東京と福島で東北ユースオーケストラ公演 写真= Ryuichi Maruo

──年初にしてすでにプロジェクトの切れ目がない感じが(笑)。

「(笑)3月に入ると日本に行って、東北ユースオーケストラの毎年恒例の演奏会をやります(※注)。そこでは去年書き下ろした新曲“いま時間が傾いて”やベートーベンの第九を演奏する予定です。また北海道のアイヌの里、二風谷にトークをしに行ったり、そのほかには、ぴあが新しく大島渚映画賞を創設して、その審査委員長となったのですけど、その授賞式への出席や審査員の黒沢清監督、受賞者とのトーク・セッションもある。そうそう、1月には、この賞の受賞者を決めるために、黒沢監督らがニューヨークにいらして、一緒に選考会をやりました。ホテルの一室で何本かの候補作を観たのですが、そこで決まった受賞作の発表が3月なんです」

※2月17日、映画の未来を切り開く若い映画制作者に送られる第一回大島渚賞の受賞者が大阪出身の小田香監督と発表され、3月19日に授賞式、翌20日に小田監督最新作『セノーテ』の上映と、監督、坂本龍一、黒沢清監督、ピアフィルムフェスティバルのディレクーターである荒木啓子とのトークのイベントの開催も告知された。

※注 3月6日、一般社団法人東北ユースオーケストラ事務局は、「東北ユースオーケストラ2020」の中止を発表した。

 

このインタビューの続きは3月18日公開予定