音楽遠足第2回は、東京という街から世界へ遠足に出かけ続ける偉大な音楽家、細野晴臣さんの記念の展覧会に遠足しました。

幼少の細野少年をメインとしたキー・ヴィジュアル

 今年デビュー50周年となった細野晴臣さん。

 昨今では日本のみならず、世界的に人気で、海外でも“日本のシティ・ポップの始祖”と評されているらしい。

 そんな細野さんのデビュー50周年を記念した展覧会、『細野観光』が六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー・スカイギャラリーで行われているのでさっそく遠足に!

オープニング・レセプションでのあいさつ

 この東京シティビューというロケーションは絶妙だ。日本の“シティ・ポップ”とはすなわち東京の音楽〜ポップスで、細野さんは一環して東京の音楽を作ってきたとも言える。デビュー初期のはっぴいえんどの“風街”からYMO時代の“TOKIO”まで。その東京が広い窓から眼下一面に見わたせる。

 そんな東京生まれで東京の申し子であるその一方、細野さんは同時に風来坊でありマドロスであり、常に世界を旅してきた。音楽も、東京を軸としながら、カリフォルニア〜ニュー・オリンズ〜インド〜ヨーロッパ〜アフリカなどなどと世界中を旅している。アンビエント時代は“彼岸の音楽”を自称していたのだから、この世以外にも足を伸ばしている。

 そんな展覧会、入り口をくぐると世界を旅する細野さんらしい、1976年のアルバム『泰安洋行』のジャケットをモチーフにした自撮りスポットが出迎えてくれる。

入り口にある、うれしい自撮りインスタスポット

 そう、この展覧会は細野さんの体験した、あるいは思い描いた音楽世界一周の旅でもある。スケールが大きい。

 そしていちばんに目に入ってくるのは一つの新聞記事。

「タイタニック号沈没 死者1500人」という見出しのアメリカの新聞。日付は1915年4月だ。有名な話だが、細野さんの父方の祖父はこのタイタニック号沈没事故の生存者である。

 旅の始まりは祖父の旅からスタートするのだった。

展示は年代ごとに分かれ、ここは1980年代前半のもの
YMO以降の歩みを紹介。ヒップ・ホップ~アンビエントと触れ幅が大きい

 会場で目を惹くのはたくさんの楽器類。これまで使用されてきた数多くの歴代、現役のギター、ベース類。ギターはタワー状に積み上げて展示されてもいて迫力だ。

 さらに、主にYMO時代から使用されたヴィンテージのシンセサイザー、サンプラー、ドラム・マシンなども。展示楽器のひとつひとつにキャプションも添えられており、その楽器にまつわる知られざるエピソードなども披露されているのでじっくり読んでほしい。

 圧巻なのは、長年に渡って収集された世界各地の民族楽器類。不思議な形のものもあり、どういう音が鳴るのか確かめてみたいところだが、当然さわることはできないので、音は想像してみよう。

長年に渡って収集している民族楽器の数々

 そしてこの展示会の主役とも言えるのが長大なヴィジュアル年表。前史である生誕のとき〜幼少〜少年時代から、デビューした1969年以降の音楽活動の歴史を詳細な記述と関連作品のジャケットやヴィジュアル、そして細野さん本人のコメントで構成されている。

 こちらにも多くの意外な事実があって勉強になる。日本のポップス史の重要な一面はまさにこの音楽家によって作られたということがよくわかる展示だ。こちらも時間をかけてじっくりと目を皿のようにして読みたい。

 その他、毎週のラジオの収録も行われているプライベート・スタジオの再現コーナーもある。近年の作品の多くはこのスタジオで生み出されてきた。細野さんの音楽の母港でもあるのだろう。

 さらには、数多くの創作ノートやメモ、手書きの歌詞など。YMOファンにはおなじみの、1978年2月19日に書かれた、YMOの結成とワールド・ワイドで大ヒットさせるという意気込みの決意書の実物もある。これまでモノクロ写真でしか公開されていなかったが、実物はカラーで、噴きあがった富士山から星、売り上げ目標数字の400万枚の鮮やかな赤色にはびっくりする。

 また、地味だけれども注目したいのは、蔵書コーナー。音楽書や映画の本、文学や漫画、思想や宗教に関する本、超常現象やUFO関係など、幅広いが、それらの影響が、細野さんの音楽にあらわれていることがはっきり再確認させられることは間違いない。

 野上眞宏、鋤田正義、桑本正士、三浦憲治、安珠など、細野さんを撮り続けてきた写真家たちによる時代ごとのポートレートは、それぞれ表情も状況も、もちろんヘア・スタイルやファッションもばらばらなのだけれど、どれもどこか飄々とした佇まいに見える。なにかしらのユーモアも感じる。

今年デビュー50周年を迎え、ますます元気な細野晴臣

 あまりの物量と密度に陶然となる展覧会だ。

 とにかく多岐に渡る。ぱっと見では雑然としているようで、しかしそれは細野さんという一つのパーソネル、人間のフィルターが通されることで大きな歴史の柱で貫通されている。ばらばらのようで芯がある。
そうだ、これはどこかで見た光景だ。

 秘宝館だ。

 昭和の頃、あちこちの観光地にあり、いまでも一部残ってはいるが、あの秘宝館。

 もちろん展示物は、こちらの場合は健全なものばかりだが、多岐に渡るジャンルを超えた展示物が、「細野晴臣」という一点でつながり(秘宝館の場合は非健全なテーマで)、ここには学術的に貴重なものもあれば、個人史においてのみ重要な記念品もある。

『細野観光』におけるそれら展示物は、まさに秘宝。細野さんの秘宝であると同時に、日本の音楽の歴史の上でも秘宝である。

 この展覧会はもちろん期限があるが、できうればこのままどこかの秘宝館、いや、博物館に常設展示としてそのまま移設してほしい。

 音楽遠足だけれど、家に帰らずにこのままここに泊まって合宿して楽しみたいと思わせる濃密な展覧会だった。時間に余裕を持って、じっくりゆっくりと!