インタビュア=吉村栄一
社会問題についていろんな角度から知る場所、総合的なイベントを──坂本龍一さんへのインタビューその2は、音楽イベントの発展形について。
──そして4月にはひさしぶりのソロ・コンサートもあるんですよね。
「はい、香港で。いま新型コロナウィルスがアジアを中心に拡がっていて、その頃には落ち着いているといいんですけれど。香港ではソロだけではなく、現地のアーティストとも即興セッションをする予定」
※3月3日、新型コロナウィルスの世界的な感染の拡大を受け、香港でのコンサートが9月に延期されることが発表された。
──切れ目がない(笑)。
「そうなんです。これらの合間に来年の6月ぐらいには公開する新作オペラの準備もどんどん進めていかないと。だけど、5〜6月には来年のある大きな仕事の音楽の作曲をやらなきゃいけない。これは作らなければいけない曲が大量にあって5月はこれにかかりっきりかな。あ、でも、6月に舞踏の田中泯さんがニューヨークでやる個展があり、その新作の音楽も5月中に作らないといけない。そして6月末から7月頭にはアルヴァ・ノトとの『TWO』のコンサートのヨーロッパ・ツアーがありますね。パリ、コペンハーゲン、トビリシの3か所」
──それが終れば多少の休息は取れそうですか?
「いえ、その後も日本や台湾で予定があるのでどうなるんでしょうか。でも今年の抱負ですから(笑)、それでもなんとしてでも各プロジェクトの合間には3日間のインターバルは取りたい」
──ですよね。
「ただ、映画音楽の依頼というのはいつどのタイミングで飛び込んでくるかまったく予想できないので、まあ、この調子だと気軽に引き受けられないけど、もし断りたくない依頼が来ちゃったら、う〜ん、まったく休めなくなっちゃうなあ……」
──こうして秋口までのスケジュールを伺っていると、インターバルには本を読みたい、休息を取りたいというウィッシュ・リストが本当に切実なものに思えてくるのですが、そうした個人としての願いとは別に世界や社会がこうなってほしい、こうなればいいという希望はありますか?
「う〜ん、難しい。そもそもこの世が天国だったらウィッシュはなにもない(笑)。でも世界の現状はそうじゃないじゃないですか。いろいろな問題が山積している。世界全体でもそうだし、日本だけとってもそう。もちろん、いろいろな社会問題の存在を知らなくても、きっとあれがしたい、こうなったらいいというウィッシュ・リストはできると思うんですよ。毎日幸せを感じて暮らしていても、よりハッピーを望むでしょうし」
──ただ、問題を認識してしまうとそうはいかないですよね。
「そう、現状がひどいからなんとかならないかという願いはつねにありますね。自分ができることはなんだろうかと考えてしまう。たとえば、2012年から去年までほぼ毎年『NO NUKES』という音楽イベントをやってきました。これまで8回かな。8回やって、いつも同じアーティストが出演して、同じお客さんが来ているというジレンマはここ数回ずっと感じていました。この形のまま続けていってもこれ以上拡がらないだろうと、今年は変化の準備のために1回休んで、3.11から10周年になる来年2021年に大きく形を変えて再開しようと思っています」
──どういう変化になるのでしょう?
「まだ具体的には決まっていないし、いろんな人と相談している段階ですけれど、若い人たち主導でやることにして、原発問題だけなく、社会問題についていろんな角度から知る場所、総合的なイベントにしたいと思っています。トークあり、ダンスあり、映像あり、音楽もある。クラブ的な空間もあるのかな。さまざまなテーマ、サブ・テントがあって、各界の講師やレクチャーの人も呼ぶ。そういうイメージをしています」
──音楽イベントというよりも、もっと幅広い?
「そう、そこでは原発の問題だけではなく、沖縄の米軍基地の問題や日本にまだまだ根強いいろいろな差別の問題も取り上げられるでしょう。男女間のジェンダー差別もあれば在日外国人への差別の問題もある。大坂なおみに対する攻撃や入管施設での長期収容と人権の問題とか、あれらも差別感情の顕れであり排外主義の問題でしょう。非正規労働者や若者が苦しんでいる経済的な格差の問題も大きい。いま日本でも世界でも経済的格差によるある種の階級制が復活しようとしているでしょ。そういういろんな問題を扱える様な枠組みのイベントにできたらいいなと漠然と思っています」
このインタビューの続きは3月25日公開予定