文=渡辺慎太郎

レクサスLCには発売以来最大規模の改良が施され、走りがさらに洗練された。同時にコンバーチブルも発表。クーペと共にレクサスのイメージリーダーとしてブランドの牽引役となる

トヨタとは一線を画すプレミアムブランド

 都内の一部地域では、相変わらずモーターショーさながらに世界各国のスポーツカーや高級車が普通に走っていますが、そんな中でここ数年、明らかに見かける機会が増えているのがレクサスです。トヨタが日本でもレクサスの販売を開始したのは2005年。当時はアリストを“GS”、ソアラを“SC”と呼んで売っていたので、「トヨタのバッジをレクサスに変えただけで数百万も高くなる」などと揶揄もされたものでした。しかしいまでは、少なくとも外観がトヨタ車とまったく同じレクサスというのは存在せず、レクサスはトヨタとは一線を画すプレミアムブランドとしての独自性を築いています。

 これだけレクサスがよく目に入るようになると、なんとなく気になるのは当然のことで「レクサスってどうなの?」という質問もよく聞かれるようになりました。そこで今回は、最新モデルを紹介しながらレクサスのいまについて解説します。

 「一線を画す」とは書いたもののトヨタファミリーであることには変わりなく、プラットフォームやエンジンなどでレクサスとトヨタが共用する部分は少なくありません。誤解のないように付け加えておくと、世界的に見てもプラットフォームの共用は決して珍しいことではなく、現代の自動車開発とは、おおむねそういうやり方が一般的です。ちなみにポルシェ・カイエンはそのプラットフォームを、アウディQ8やベントレー・ベンテイガやランボルギーニ・ウルスなどと共用しています。極端に言うと、「いまやポルシェもアウディもベントレーもランボルギーニも中身は一緒」という、ひと昔前なら信じがたいようなクルマ作りが実状なのです。

 

現行日本車の中でもっとも官能的

 レクサスLCは日本車では初となる1000万円超えのラグジュアリークーペとして2017年から販売を開始したモデルです。エンジンを縦置きにした後輪駆動のプラットフォームはこのクルマと共にデビューしたまったく新しい設計のもので、現在はそれをトヨタ・クラウンが共用しています。雅やかなデザインは日本のみならず世界各国でも好意的に受け入れられていますが、自然吸気のV型8気筒が奏でるエンジンサウンドはおそらく現行の日本車の中でもっとも官能的といっても過言ではないでしょう。いっぽう、もうひとつのパワートレインはV型6気筒エンジンとモーターを組み合わせた“マルチステージハイブリッド”と呼ばれるまったく新しいシステムで、それまではハイブリッドと無縁だった“スポーティ”な走りを実現しています。

 レクサスがLCを“スポーツカーである”とは言っていないように、基本的にはゆったり心地よくドライブできるラグジュアリークーペですが、サーキットへ持ち込んだとしてもそれなりに楽しめるポテンシャルを備えたクルマでもあります。今回、発表以来もっとも大がかりな改良が施され、ドライバーとの一体感がさらに増した乗り味になりましたが、何よりのビッグニュースはコンバーチブルが追加されたことでしょう。

 LCコンバーチブルは4層のソフトトップを身にまとっていて、オープンにしてもクローズにしても、LCのクーペが持つスタイリングの雰囲気を見事に継承しています。ソフトトップは走行中でも50km/h以下であれば開閉が可能で、クローズ時の室内の静粛性はクーペと比べても遜色ないレベルになっています。エンジンはV8のみですが、これには「ルーフを開けてもっとV8の音を楽しんで欲しい」という作り手側の想いが込められています。実際に走行中にソフトトップを開けてみると、それまでは後ろのほうから聞こえていたエンジンサウンドがまるでサラウンドのような臨場感をともなって室内に降り注いできます。室内への風の巻き込みも上手にコントロールされているので、頬を撫でる優しい風を感じつつ官能的なサウンドをBGMにして、すこぶる気持ちのいいドライブを満喫することができるのです。

コンバーチブルのルーフにはソフトトップを採用。走行中でも50km/hまでなら開閉できる。ボディもしっかり補強されているので、クーペとの走りの差はほとんど感じられない

新型はエクステリアデザインが一新

 レクサスISは“コンパクトスポーツセダン”として長きに渡って愛されてきたモデルで、新型ではエクステリアデザインが一新されています。プラットフォームはLCのそれを使うことも検討されたそうですが、ISのコンセプトである“コンパクト”を貫くために、従来型を成熟させる方法を選んだとのこと。BMW3シリーズやメルセデス・ベンツCクラスと同じセグメントに属している日本車のセダンはもはや稀少であり、さらにFRという駆動形式も貴重となってしまった昨今では、レクサスの判断は正しかったように思います。

 そもそもISは、クルマを操る楽しさが味わえるセダンでしたが、新型ではその部分にさらに磨きがかかっています。ドライバーが動かすステアリングやペダルに対する車両側の反応がより一層正確かつ俊敏になり、クルマと繋がっているという感覚をこれまで以上に強く実感できるようになりました。エンジンは全部で3種類用意されていますが、どれを選んでもこの印象は大きく変わりません。3シリーズやCクラスといった世界の強豪と対等に戦える唯一の日本製のセダンとして、ISの存在価値は今回の改良によってあらためて見直されるでしょう。

 ある頃までは、レクサスが独自の“味”を持ち合わせていなかったというのは事実です。「値段の高いトヨタ車」の域から完全に離脱することに手間取っていました。ところがLCが登場する前くらいから、レクサスはトヨタ車とは明らかに異なる味を醸し出すようになってきます。それは、単なる快適な移動空間ではなく、クルマとの対話が楽しめるような運転風情と上質なしつらえを備えるようになったということ。まだ少し薄味かもしれませんが、どうやらおいしい出汁の取り方は掴んだようなので、レクサスのこれからには期待が持てそうです。

フロントウインドウ以外のほとんどの外板を刷新したという新型IS。プラットフォームやエンジンは従来型を踏襲しているが特に操縦性に磨きを掛け、玄人好みの乗り味に仕上がっている。(写真はプロトタイプ)