文=渡辺慎太郎

ドイツ車らしからぬ、遊び心が見られる内外装のデザイン。でもその走りは紛れもないドイツ車

ガイシャ=値段が高いが一般論

 前回、「輸入車はいま、200万円で買えるモデルもある」と書いたら、「そんなに安いのがあるなんて知らなかった」という声が想像以上に数多くありました。やっぱりいまだに日本では、“ガイシャ=値段が高い”が一般論として広く周知されているようですね。

 クルマの値段はジワジワと高くなる傾向にあります。フルモデルチェンジをして「従来型よりも値段を抑えました」なんて奇特なクルマはほとんどなくて、たいていの場合は数十万円が上乗せされています。手頃な値段が魅力だったの軽自動車も、いまでは200万円台が珍しくなく、ちっとも手頃ではなくなってしまいました。

 輸入車は確かに全般的に高額ですが、以前と違うのは安価なモデルも日本市場へ入ってきているという点です。昔であれば、輸入車は廉価モデルであっても300万円台で、それを切るプライスタグにはなかなかお目にかかれませんでした。いまでも輸入車の値段が高いと思われているのは、そんな時代が長く続いたからでしょう。そこで今回は「200万で買える輸入車」をご紹介。ドイツ/フランス/イタリアの個性的な3車種をピックアップしました。

 

ポロより小さいモデル、up!

 フォルクスワーゲンはゴルフよりも小さいモデルとしてポロを用意しており、昔はさらに小さいルポもありましたが、そのルポに代わるモデルがup!です。

 up!のボディは3ドアと5ドアの2タイプあって、3ドアのmove up!が167万3000円、5ドアのmove up!が187万5000円、そして装備が充実したhigh up!が205万6000円の3グレードから選ぶことができます。エンジンとトランスミッションは全モデルに共通で、999ccの直列3気筒エンジンと5速のATを組み合わせています。

 ご存じのように、フォルクスワーゲンは小型車に関しては長年に渡る豊富な経験と実績を有しているメーカーで、コンパクトカー作りにおいては同じドイツのメルセデス・ベンツやBMWと比べても一日の長があります。加えて、とてもコストコンシャスなのだけれど、お金をかけるところとかけないところの塩梅が絶妙です。例えばインテリアは全般的にコスト増になることをなるべく控える作りになっていて、ナビゲーションのモニターはなく、代わりにスマートフォンのホルダーが取り付けられるようになっています。いっぽうで、ブレーキペダルのステーはとてもごつくてしっかりしたものが採用されています。下手な日本の高級車よりもずっと立派です。そして当然のことながら、その踏み応えは抜群によく、安心してブレーキを踏むことができます。アウトバーンで200km/hで走っていて、突然ブレーキを踏むことになっても、それにちゃんと応えてくれる剛性感を備えているわけです。

 “真面目”なフォルクスワーゲンにしてはデザインが若々しく、スニーカーのような軽快な印象も魅力のひとつ。実際、up!の車両重量は930kg~950kgしかなく、1トンにも満たないのです。この重さなら、75psでもパワー不足を感じる場面はほとんどありません。ドイツ車らしい高速域での安定した走りから、タウンスピードでの取り回しのよさまで、守備範囲が広いクルマでもあるのです。

 

日本では3種類のグレードを用意

 ルノー・トゥインゴは日本で3種類のグレードが用意されています。“S”は179万円で5速のマニュアルトランスミッションを搭載。“EDC”は6速ATで201万5000円。そして“EDCキャンバストップ”その名の通り、EDCのキャンバストップ仕様で213万5000円。エンジンは“S”が997ccの直列3気筒、“EDC”は897ccの直列3気筒ターボ。“S”はターボがないので、排気量を大きくしてパワーを稼いでいます。

フランス車は実は昔から、凝ったメカニズムのクルマが少なくない。RRの駆動形式の採用にも垣間見える

 トゥインゴの最大の特徴は、エンジンの搭載位置と駆動形式にあるといっても過言ではありません。トゥインゴのボンネットを開けてもそこにエンジンの姿はなく、リヤのラゲッジルームの下に隠れています。エンジンが前にあって前輪を駆動するタイプをFF(フロントエンジン/フロントドライブ)、エンジンが前にあって後輪が駆動するタイプをFR(フロントエンジン/リヤドライブ)と呼びますが、トゥインゴはRR(リヤエンジン/リヤドライブ)で、あのポルシェ911と同じ駆動形式なのです。FRやRRを好む人が多いのは、スッキリとしたハンドリングが味わえることも理由のひとつ。前輪は操舵のみ、後輪は駆動のみと、前後のタイヤで役割を明確に分担、前輪はクルマの向きを変えることだけに専念、後輪はクルマを走らせることに専念できるので、コーナリングではステアリングの手応えがスッキリするわけです。

 このクラスの大半のモデルはFFなので、唯一のRRであるということが、トゥインゴならではの個性と言えるでしょう。

 

魅力はスタイリング

 フィアット500は「フィアットゴヒャク」ではなく「フィアット・チンクエチェント」と呼びます。このクルマの魅力はなんといってもそのスタイリングにあります。

 そもそもフィアット500というクルマは初代が1936年に誕生。そして世界中にその名とカタチが広まったのは1957年にデビューした2代目でした。ルパン三世の愛車として有名なのもこの二代目チンクエチェントです。2007年生まれの現行モデルは三代目にあたり、初代の登場から50年、二代目の生産終了から30年ぶりの復活となりました。

見た目だけこのクルマを選ぶ人が多いというのもうなずける。乗っても期待を裏切らない楽しいクルマ

 エクステリアデザインは、二代目のフォルムをモチーフとしたいわゆる“レトロルック”と呼ばれるスタイル。現行のミニも昔のスタイリングを現代的解釈で焼き直したレトロルックのひとつです。懐かしさと新しさが上手に同居する、イタリアらしい秀逸なデザインといえるでしょう。インテリアもエクステリアと同様に、思わず笑みがこぼれるような雰囲気が広がっています。

 実は先代のチンクエチェントはトゥインゴと同じRRの駆動形式でした。ところが現行モデルはデザインと共にそこまでも踏襲することは残念ながらできず、エンジンはリヤではなくフロントのボンネット下に積み、前輪を駆動するFFとなっています。エンジンは875ccと1240ccの2種類が用意され、前者は直列2気筒ターボ、後者は直列4気筒。トランスミッションはどちらも5速のセミATが標準です。1240ccの4気筒エンジンを積んだ“1.2Pop”は200万円、2気筒は“ツインエアPop”が241万円、“ツインエアラウンジ”が276万円で、今回の3台の中では少し高額ですが、程度のいい低走行距離の中古車も数多く出回っているので、いい巡り会いがあるかもしれません。

 ドイツ車らしいしっかり感のあるup!、駆動形式にこだわったフレンチポップのトゥインゴ、そしてイタリアンテイストが全面に押し出されたチンクエチェントと、どれも個性的なモデルばかり。輸入車は、値段が安くなるほどお国柄と素性が色濃く反映されるものなのです。