日本初の温泉旅館ブランド
星野リゾートの施設ブランドのひとつ「界(かい)」は、“日本初の温泉旅館ブランド”として2011年にスタートした。青森県大鰐温泉(界 津軽)から大分県瀬の本温泉(界 阿蘇)まで、全国の温泉地にある。
30施設を目標にはじまり、2020年3月12日に16番目となる「星野リゾート 界 長門」(山口県長門湯本温泉)がオープン。2021年には北海道白老温泉(界 ポロト)や大分県別府温泉(界 別府)、鹿児島県霧島温泉(界 霧島)が開業を予定している。
施設数について、星野リゾートの星野佳路(ほしの・よしはる)代表はこう説明する。
「全国の温泉地に界があれば、『地方の個性を楽しみたい、様々なところへ行ってみたい』というお客様のニーズをサポートできます。界は客室数50室未満の旅館で、全国30施設となりトータルの客室数が増えれば規模によるメリットが出てきます。これは海外のホテルチェーンと戦うために必要な施設数だと考えています」
コンセプトに込めた狙い
「界」のコンセプトは「王道なのに、あたらしい。」である。その実現のために「和心地」と「ご当地らしさ」に力を入れる。
「和心地」とは快適で居心地のよい滞在空間のこと。従来の旅館を見直し、例えば和室にベッドやソファを備え、水まわりやwi-fi環境を最新にするなど、現代人のライフスタイルにあわせた。
加えて客室は、地域の若手作家とコラボレーションした伝統工芸品で仕上げ、場の個性を押し出した。界の客室は「ご当地部屋」と呼ばれる。
星野代表は「温泉旅館は日本文化のテーマパーク。温泉、食、歳時記、伝統工芸など、世界に誇れるものが揃います。お客様が気軽に体感できる工夫をすることで、遠方にある温泉地にもお越しいただけると思っています」と話す。
官民連携で温泉街まるごとリノベーション
界の新しい取り組みとして注目されるのは、山口県長門市の長門湯本温泉に2020年3月12日に開業した「星野リゾート 界 長門」だ。
開業日前日に現地で行われたプレス発表会には、東京メディアを含む全国約50社が参加し、関心度の高さをうかがわせた。その注目は、星野リゾート初の面的再生事業である官民連携による「温泉街リノベーション」にあった。
このプロジェクトのはじまりは2016年、長門市が星野リゾートに温泉街再生の基本計画のベースとなるマスタープランを委託したことによる。市はそのマスタープランを受けて同年8月に「長門湯本温泉観光まちづくり計画」を策定した。計画には〈温泉街再生に必要な6つの要素〉として、①外湯、②食べ歩き、③文化体験、④回遊性、⑤絵になる場所、⑥休み佇む空間の必要性が上がり、実現に向けての話し合いが進められた。
星野代表はマスタープランについて以下のように説明する。
「温泉街のまんなかを川が流れ、まわりに温泉旅館が建ち並び、素敵な橋が架かり、中心に公衆浴場の恩湯がある。景観はよく、川遊びなど親水性も高い。水と滞在できる場所をテーマにして、外に出て歩きたくなる視点をマスタープランに盛り込みました」
長門市は「長門湯本温泉観光まちづくり計画」をもとに、官と民と地域の連携による活動をこの3年間、デザインチームという専門家集団とともに濃密に行なってきた。「まちづくり」は簡単なことではない。どの街でも同じように一筋縄でいかない。利害関係が複雑に絡むからだ。
景観づくりや交通整備、照明改善、継続の仕組みづくりほか、星野代表も度々の会議に参加した一連のプロセスは、別で紹介したいと思う。ともあれ、「温泉街リノベーション」におけるハード事業は2020年3月で一旦の完成をみせた。