「OMO5東京大塚」の仕掛け壁

都市観光客がターゲットの「OMO」

 前回紹介した星野リゾートのホテルブランド(星のや、リゾナーレ、界、OMO〈おも〉、BEB〈ベブ〉)の中で、近年注目を集めるのが都市観光客をターゲットにする「OMO」だ。全国から運営依頼が急増しているという。

 都市にあるホテルはこれまで、ビジネス客向けのサービスが中心。立地と価格が優先され、地域を楽しむという旅の要素はほとんどなかった。そうした中でOMOは、都市観光客にスポットを当て「寝るだけでは終わらせない、旅のテンションを上げる都市観光ホテル」というコンセプトを掲げ、2018年に誕生した。

 星野リゾート・星野佳路(ほしの・よしはる)代表はOMOという宿泊施設の役割をこう話す。

「OMOから500歩圏内を〈ひとつのリゾート〉に見立てて、ディープな地域らしい文化を展開されるショップやレストラン、バー、ギャラリーなどのオーナーの皆様と連携していきます。そこから生まれる地域の魅力を旅のお客様に楽しんでいただけたらと思います。そのためスタッフは日々、地域をめぐって準備をしていまして、2020年6月に開業を予定している「星野リゾート OMO3東京川崎」では現在、周辺100軒の店をスタッフが訪ねてお客様へのご提案を検討しています。やがてそれをもとにした“ご近所マップ”が作られ、お客様サービスに活かしていきます」

星野リゾート代表・星野佳路さん 写真=徳永徹

 OMOの第1号は北海道旭川の中心部に位置する旭川グランドホテルが2018年4月、「星野リゾート OMO7旭川」として、リニューアルオープンしたことが始まりだ。地域のランドマークであった老舗ホテルが、名前を変えて再開業することに賛否あったが、現在は歓迎の声を地元から多く耳にする。

 立ち上げに関わった当時の総支配人・日生下和夫(ひうけ・かずお)さんに、そのプロセスを取材した。日生下さんは開業数年前に現地入りをして地道な調査を続けた。やがて地元に精通したスタッフから「まちなかみつけ旅」という構想が生まれ、町中活性化事業に取り組む旭川大学とも連携しながら、〈Go-KINJO(ご近所)〉マップを作成。マップにはチームで訪ね歩いた飲食店の中から厳選64軒を掲載、現在もホテルで無料配布している。

 日生下さんは「ホテル周辺は旭川らしさがとても感じられる場所。駅から少し歩きますが、ホテル一帯を〈ひとつのリゾート〉とすることで、地域のみな様にご協力いただき、〈Go-KINJO〉の仕組みができました」と話す。

〈Go-KINJO〉の仕組みは、OMOの目玉となる〈ご近所ガイドOMOレンジャー〉という、町あるきの楽しいアクティビティへと発展する。例えばチェックイン後の16時からはじまる旭川の散歩コースでは、老舗の児童書専門店、唯一無二のチーズショップやギャラリーなどへ案内してもらえる(参加者のリクエストで、店のセレクトが変わるのも魅力)。

「OMO7旭川」スーパーマーケットレンジャー(イメージ)

 夜はホテル周辺に8つある横丁の案内ツアーも行われる。OMO特別メニューを用意する飲食店もあり、筆者が利用した時は自然派ワインが楽しめるバー「ラ・ヴィンニュ 旭川店」で4種が飲み比べできる「OMOレンジャーセット」が楽しめるなど、スペシャル感があった。

 駅前にビジネスホテルがどんどん建設される都市にあって、駅から少し離れた町中で、地域のオアシスのように営業する素敵な店に出会うことがある。街なかに残るのはかつてここが地域の中心だったからだ。駅前が栄えたのはいわばつい最近とも言える。

 だから街なか歩きでは地域の宝物に出会えることがある。けれどはじめての旅行者には分かりづらく、どこか敷居が高く入りづらい。そこへ案内してくれるのが〈ご近所ガイドOMOレンジャー〉というわけだ。