2005年からは温泉旅館の再生が本格的にスタートした。現在も高い稼働率をキープする青森県三沢市の「青森屋」は、経営破綻した大型旅館・古牧グランドホテルを、“365日青森を体感できるリゾート”というコンセプトを掲げて再生、東北地方活性の一躍となった。また、星野さんが「開業まで12年もの時間を要した」と語る本拠地軽井沢での「星のや軽井沢」(2005年開業)の好調も追い風となる。
真似しづらい「運営特化」に踏み切った理由
前述の「青森屋」は、2005年当時に施設を所有していたゴールドマン・サックス社からの運営受託である。ホテル施設は所有せずに「運営」に集中するという、運営特化こそ星野リゾートの最大の特徴と言われる。
星野さんはホテル経営を学んだアメリカで「運営特化」に影響を受け、自身の社長就任時からその実行に移した。しかし一族の猛反対など、その確立には膨大な時間と体力を要したことは、自著のファミリービジネス研究本などに詳しい。運営特化の進化について星野さんはこう話す。
「リーマン・ショック(2008年)で投資家の多くが事業から手を引いていきました。安定して運営を継続するためには、施設を長期で所有してもらう仕組みが必要です。持続可能な集客力へのアプローチが重要で、それが長期にわたり競争力を維持するのです」
その考えは2013年に上場を果たした「星野リゾート・リート投資法人」の誕生につながり、現在は「旅館リート」という個人も観光に投資できる仕組みができている。真の観光立国、サスティナブルツーリズムへの更なる挑戦がはじまっている。
分かりやすいブランド展開で拠点数を増やす
星野リゾートでは2011年からブランドを多角化する「マスターブランド戦略」をスタートさせ、現在5つのブランドを展開する。圧倒的な非日常感に包まれる日本発のラグジュアリーリゾート「星のや」、洗練されたデザインと豊富なアクティビティを備える西洋型リゾート「リゾナーレ」、全国展開の温泉旅館ブランド「界」、都市観光を楽しむためのホテル「OMO(おも)」、そして仲間とルーズに過ごすホテル「BEB(ベブ)」だ。
ブランド戦略の狙いを星野さんは、「外資系の競合他社のように値段でブランドを分けるのではなくて、宿のコンセプトでブランドを分ける。なぜなら、旅行するお客様は星野リゾートの場合、旅のオケージョン(目的)で宿を選ばれているからです」と語る。
わかりやすく差別化したブランド力の賜物か、星野リゾートの勢いが止まらない。なかでも都市ホテル「OMO」のニーズが高いと聞く。運営依頼だけで全国数十軒にのぼるそうだ。
2020年2月のプレス発表会では、同年6月に川崎駅そばにリニューアルオープンする「OMO3東京川崎」の詳細が発表された。川崎エリアでの事業展開、それもその客室スタイル、さらに1泊2818円〜(1名1室利用時、税別、食事別)という料金には驚かされた。次回はリーズナブルな料金設定も話題の都市ホテル「OMO」のユニークな空間づくり、地域魅力発掘までのプロセスなどを紹介しようと思う。
最後に少し余談を。筆者が星野温泉を知ったのは1994年。星野温泉のコテージに滞在し、野鳥観察のアクティビティに参加し魅せられた。エコツアーや環境教育を行う専門集団による有料ガイド「ピッキオ」の仕組みが素晴らしいと感じた。近年アクティビティも劇的に進化している。