明るい筆致からにじみ出る愛惜の念。家族を終う肉体労働ノンフィクション

『兄の終い』
著者:村井理子
出版社:CEメディアハウス
発売日:2025年9月30日
価格:792円(税込)

 【概要】
憎かった兄が死んだ。
残された兄の元妻、娘と息子、
私(いもうと)が集まり、兄の人生を終う。
 ──怒り、泣き、ちょっと笑った数日間。
わかり合えなくても、嫌いきることなど、できない。
どこにでもいる、そんな肉親の人生を終う意味を問う実話。

 

 ノンフィクションである。映画のタイトル『兄を持ち運べるサイズに』は、火葬されて骨壺に入った兄のことだ。

 著者はある日宮城県警塩釜警察署からかかってきた電話で、兄の死を知る。兄は宮城県の多賀城市内のアパートで脳出血を起こして亡くなった。発見者は離婚した兄と一緒に暮らしていた息子の良一君。

 突然の知らせだったが、「私」のほかに、元妻の加奈子ちゃんとその娘、父の妹である元教師の叔母が駆けつけてくれる。警察や大家さんとの面談、火葬、アパートの掃除、遺品整理専門業者への依頼、児童相談所預かりになっている良一君の今後の身の振り方、カメの引取先など、やるべきことは多い。肉体労働ノンフィクションと呼びたくなるような多忙さだ。

 その間隙をぬって、浮かび上がる兄のこれまで。享年五十四。著者は呟く。「どこから見てもダメな人だったけれど、こんなに突然死ぬほど悪いことでもしただろうか?」「こんな人生の最期、なんだかひどくない? 突然倒れていきなり死んで、いろんな人に部屋のなかに入られて、もっとも秘密を知られたくなかった辛辣な妹に、こうやって汚い部屋を見られちゃうなんてさ」。

 糖尿病を患い、生活保護を受けるも、警備会社に就職できることが決まった矢先のことだった。著者は兄の書いた履歴書の志望動機の欄を読んで、巨大な感情のうねりに呑み込まれそうになる。妹にお金をねだるようないい加減な兄だったが、彼は彼で息子との暮らしを建て直そうと、懸命にやっていた。

 実を言えば、昔これを読んだとき、泣けて仕方なかった。私にも兄がいるが、あり得るのはこの逆バージョン。私が汚部屋で孤独死し、兄が私をポータブルサイズにするんだろうなあ、ということだった。

 本書の筆致は明るい。でもそこからにじみ出る愛惜の念。でもどうして映画にしようなどと発想したのだろう。私から見れば、今回の3作はどれも難易度満点。観るのが楽しみなようなコワいような。

※「概要」は出版社公式サイトほかから抜粋。