〈恋愛―結婚―妊娠―出産〉を解体し、独立させた思考実験小説
『消滅世界』著者:村田沙耶香
出版社:河出書房新社(河出文庫)
発売日:2018年7月6日
価格:693円(税込)
【概要】
人工授精で、子供を産むことが常識となった世界。夫婦間の性行為は「近親相姦」とタブー視され、やがて世界から「セックス」も「家族」も消えていく……日本の未来を予言する芥川賞作家の圧倒的衝撃作。
村田沙耶香さんの人を喰ったようなディストピア小説が大好きだ。本書は〈恋愛―結婚―妊娠―出産〉という常識的な(お得で安全な?)一連の流れを解体し、それぞれ独立させた思考実験小説である。一部の女性にとってはユートピア小説かもしれない。
主人公の雨音(あまね)の生きる世界では、子供は人工授精で生まれる。交尾で繁殖するなんてとんでもない。この世界では家庭にセックスを持ち込むことは「近親相姦」として忌み嫌われている。しかし雨音の母は避妊リングをはずして性交し、雨音を産んだ。母は愛し合った男女の間で生命を授かることの喜びを娘に伝えようとするが、環境適応能力の高い雨音にはちっとも響かない。
雨音は生の男性や二次元の男性と自由に恋愛し、どちらともセックス(あるいはマスターベーション)する。生殖から切り離されたセックスは気持ちいい。雨音は一緒にいて安心できる水人と結婚し、千葉の実験都市に向かう。そこではいっせいに人工授精が行われ、いっせいに出産し、生まれた子供達は「子供ちゃん」と呼ばれ、すべての大人から愛情のシャワーを浴びていた。
そこでは外付けの子宮袋で男性も出産するという実験も行われていて、水人は初の成功者となる。しかし雨音は流産を続け……。雨音の母がかけた“愛ある交尾による妊娠”という呪いが、とんでもない形で実を結ぶ異形のラストシーンは衝撃的。これ、映像化するの!? なんかちょっと犯罪チックなんですけど。
