
(写真右)Asobica VP of PM/新規事業開発室長兼coorum research PM 米田勝紀氏
国内でいち早くCDP(顧客データ基盤)を導入するなど、長期的にマーケティング変革に取り組むSUBARU。これらの活動の根底には、デジタル化の中でより重要度の増す「顧客理解」を強化したいという思いがあるという。2023年には新たな「ファンコミュニティ」も立ち上げ、顧客の“本音”を深く分析してマーケティング活動につなげようとしている。
こうしたコミュニティの運営や本音の収集・分析に使われているのが、Asobicaの提供する顧客プラットフォーム「coorum(コーラム)」である。SUBARU マーケティング推進部宣伝課 課長の安室敦史氏と、Asobica 新規事業開発室 室長兼 coorum research PMの米田勝紀氏が対談し、SUBARUのマーケティング変革や、顧客理解の重要性を語り合った。
オフラインイベント「CX+ Summit 2025」のご紹介
SUBARUの安室氏も登壇するAsobica主催のオフラインカンファレンス「CX+ Summit 2025」を5月16日(金)に開催!ロッテ、 Mizkan Holdings、Spotify、DAISO(ダイソー)、SUBARUなど豪華登壇!デジタルデータだけでは捉えきれない顧客の本質的な声や感情に焦点を当て、「未来」を見据えながら「現在」の顧客を立体的に理解するためのカンファレンス。
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Webでの「商品検討プロセス」を明らかに
米田勝紀氏(以下敬称略) SUBARUでは、2016年にCDPを導入するなど、デジタル上の顧客理解を強化するマーケティング変革を長く実践されてきました。どのような課題意識からスタートしたのでしょうか。
安室敦史氏(以下敬称略) 私は前職で広告営業に従事した後、SUBARUに入社し、ディーラーに出向して販売現場を経験した後、2011年以降はイベント運営などに携わりました。ここまでは私の目の前にお客さまがいて、考えやニーズをくみ取ることができたのですが、2014年にWebメディアの担当になると、お客さまが見えづらくなり、その考えをつかむのが非常に難しくなったのです。お客さまを理解しなければ仕事はできませんし、そのためのプラットフォームが必要だと感じました。
もう一つ、SUBARUというメーカーの立ち位置も関係しています。当社は必ずしもあらゆる車種をフルラインナップでそろえているメーカーではありません。その中で選んでいただけるのは、SUBARUのどこかに強い魅力を感じ共感していただいているからです。ではお客さまはどこに惹かれているのか、それを正確に把握したいという思いがありました。

米田 まさに安室さんの“原体験”から変革に着手されたわけですが、CDPはまだ当時それほど普及しておらず、社内の理解を得るのも容易ではなかったと想像します。
安室 そうですね。2016年はまだCDPという言葉がなく、他社の前例もほぼ存在しない中で、社内への説明は苦労することも多々ありました。
ではどのように理解を得ていくかという点で、ポイントになったことが三つあります。一つは、小さくても分かりやすい成果を出し、それを広く伝えて周囲を巻き込むこと。こうすることで、仲間がどんどん増えていきます。
米田 小さくても分かりやすい成果とは、どのようなものでしょうか。
安室 例えばCDPの活用によって、広告のCPA(顧客獲得単価)やCTR(クリック率)が少しでも上昇したら、それをつぶさに見せていましたね。
2つ目に心掛けたのは、業務サイドとエンジニアサイドが二人三脚で行うことです。顧客データの分析・活用には、多くのデータを扱えるシステム設計や、データを扱いやすくするためのインターフェースの構築が重要です。ここはエンジニアのサポートが必要でしょう。一方でエンジニアは業務理解が不足しがちです。だからこそ二人三脚で進めることを大切にしました。
そして3つ目ですが、CDPの構築が進み、デジタル上の顧客行動が可視化されると、これまで見えていなかった「業務の成果」が多数浮き彫りになってきます。これが社内浸透で重要でした。
というのも、デジタル化により、お客さまが車を購入するまでの行動は大きく変わりました。昔は何度もお店に通って検討を重ねながら、購入車を絞っていくプロセスでしたが、今は大半の検討をWebで行い、大抵の場合、来店するタイミングでは購入したい車が決まっていることが多いです。つまり、来店前にWebで「見えないトーナメント戦」が行われているのです。
米田 かつては店頭で行われていた検討がWebに移ったと。
安室 はい。そこでWebにおけるお客さまの行動を可視化すると、今まで気づかなかったデジタル施策の実績、例えば過去のキャンペーンや制作したランディングページの効果が如実に見えてきます。これは携わった社員にとって大きいですし、結果が可視化されることで「次はもっとこうした方がいいのでは」という仮説が出て、いろいろな仕事がアップデートされます。こうした動きが生まれる中で、マーケティング変革の重要性が社内に伝わり、仲間もさらに増えていきました。
米田 一連の変革により、どのような成果を得られたのでしょうか。

安室 いくつかあります。一つは、広告の投資対効果を可視化し、大幅な効率化を実現できたことです。テレビやWebを含め、どの広告を見て当社のサイトや製品のページにたどり着き購買に至ったかが詳細に分かり、CMごとに検索1件あたりの広告単価も計算できます。これにより効率の良いクリエイティブや広告枠とそうでないものが明確になり、前者に集中投資することが可能に。結果、1検索当たりの広告単価は全体で半分以下になりました。つまり、同じ費用で倍以上のパフォーマンスを出せていることになります。
2つ目の成果は、顧客理解が大幅に進んだことです。例えば購入直後のお客さまは、車に付けるアクセサリのページを2週間ほど頻繁に閲覧することが明らかになりました。しかも購入前よりサイトへのアクセスが多い。であれば、その期間のお客さまに最適な情報をパーソナライズして届けることが有効でしょう。
3つ目の成果として、同じお客さまのデータを組織横断で活用し始めたことが挙げられます。これまでは、1人のお客さまに対してメーカー内のさまざまな部署とディーラーが別々にアプローチしていました。両者が同じお客さまのデータを共有できる点もこの改革の大きな目的です。
新コミュニティの狙いは「ファンの発信加速」
米田 こうしたマーケティング変革を進める中で、SUBARUはそれまで運営してきた会員向けサイト「スバコミ」を廃止し、2023年11月に新たなコミュニティサイト「スバ学」を開設しました。
スバ学には、当社のプラットフォーム「coorum」が活用されていますが、こうしたコミュニティサイトを新たに立ち上げた理由はどこにあったのでしょうか。
安室 短期と中長期でそれぞれ狙いがありました。まず短期的には、コミュニティで口コミやユーザーレビューといったUGC(ユーザー生成コンテンツ)を創出し、SUBARU製品の良さを広めたいと考えました。広告が嫌われることも多い昨今、口コミの重要性は高まっています。以前の会員サイトでUGC創出を行うのは十分ではなく、よりそれに適したコミュニティを新たに作りたかったのです。
これらの背景にあるのが、SUBARUの強みである「安全性」に対する消費者イメージの変化です。もともと飛行機開発からスタートした当社は、当時の技術者が「戦争に勝つために飛行機を作っているんじゃない。パイロットを生きて帰すために作っているんだ」と話した逸話があるほど、安全性の追求はDNAになっています。その精神は、現在のアイサイトなどに受け継がれており、消費者調査でもSUBARUは長らく安全性のイメージが強いメーカーでした。

しかし、2018年頃からそのイメージが下がっており、これらを取り戻すためにUGC創出が必要でした。SUBARUの製品に宿る安全性は確かであり、実際に車に乗るお客さまは必ずそれを実感してくれる。であれば、そのお客さまに自ら発信していただくのがもっとも効果的だと考えたのです。
米田 そこでUGCを生み出すためのコミュニティを開設したということですね。
安室 実は当社には、SUBARU車の安全性能を実際に体感なさったお客さまからの手紙が毎月のように届いています。私たちはサンクスレターと読んでいますが、例えば事故に遭われたお客さまから「事故で車は壊れてしまったが、SUBARUだから命は守られた」と伝えていただくこともあります。安全性の高い車であることを実感いただいたからこそ送られてくる手紙であり、何物にも代え難い価値ある言葉です。こうした生の声をデジタルで可視化し、他の方に伝える環境を構築したいと考えました。
スバ学は学校を模したコミュニティサイトになっており、その中の「保健室」というカテゴリは、まさにサンクスレターのような、SUBARUの安全性について語る場になっています。
米田 スバ学を立ち上げた狙いが理解できました。一方、中長期的にはどのような目的があるのでしょうか。
安室 お客さまがここでSUBARUについて語る中で、ロイヤル顧客になっていただくことが大きな目的です。誰かに話すことでSUBARUに対するマインドシェアが上がり、愛着が生まれると考えているからです。
米田 SUBARUの製品は品質が高いという前提があり、だからこそ実際に乗った方にコミュニティでその良さを発信してもらう。そうして発信者自身はロイヤル顧客になり、またその口コミを見て新たなお客さまが増え、今度はその新規の方が自分で発信していく。このサイクルをスバ学で回していくということですね。
顧客に直接「魅力的なアイデア」を尋ねることも
安室 さらには、スバ学を「お客さまとエンジニアを直接つなぐ場」にしたいと思っています。お客さまに選ばれるプロダクトを作るには、当然ながら顧客理解が重要ですが、実は自動車メーカーのエンジニアがお客さまと直接お会いする機会は多くありません。だからこそ、エンジニア自らこのコミュニティで顧客理解を深め、その気づきをプロダクトに落とすことが理想です。スバ学の学長を当社の技術系トップであるCTO(最高技術責任者)の藤貫 哲郎が務めているのも、そうした思いがあるのです。
米田 coorumの中で私たちが力を入れているのは、コミュニティ運営の機能に加えて、顧客理解につながる“本音”を収集・分析できる仕組みです。デジタル上の行動データやログは記録できるようになっても、なぜその行動を起こしたのか、背景にある感情や思考までは読み取れません。coorumでは、それらを「ホンネデータ」と名付け、収集・分析できる機能を設けています。

「coorum research」※1や「coorum insight」※2を、SUBARUではどのように活用しているのでしょうか。
※1:顧客が楽しむ仕掛けを作ることで、顧客の本音を自然に収集できるサービス
※2:顧客単位で行動データを統合・可視化することで、顧客の”変化”をリアルタイムに捉えることを可能にするサービス
安室 coorum researchについては、まさにエンジニアが新しいプロダクトを検討する上で活用しています。例えば5つほどの製品アイデアを用意して、スバ学内でどれが魅力的かアンケートを行いました。回答もすぐに出るので、よく使わせていただいています。
もちろん製品化前のアイデアなので、出して良いもの・そうでないものの判断は必要ですが、なるべくはエンジニアが頭の中で考えていることをお伝えして、お客さまと我々の双方が良いと思うものを製品化することが理想ではないでしょうか。プロダクトアウトとマーケットイン、どちらか一方が反映された製品では不十分で、両方を融合するにはこうしたリサーチが必要になると思います。
coorum insightについては、SUBARUへのロイヤリティ(愛着)が変わったポイントや、そうした行動が生まれたタイミングを捉え、その要因を解き明かすことができます。今まで当社では、お客さまインタビューやディーラーへのヒアリングなどを行って、それらを解明しようとしてきました。かなりの調査量が必要ですし、しかも一人ひとりのプロセスには差があり、それらを抽象化して、基本型がどこにあるかを定めるのは簡単ではなかったのです。
しかしこの機能を使うことで、従来と比べて簡易的にロイヤリティが変化するプロセスを分析できるようになりました。抽象化も正確に行えますね。
米田 coorum researchで面白い取り組みだと感じたのが、「あなたのSUBARUデビュー教えて」と他社の車からSUBARU車に乗り換えた方に、その決断の理由や、当時のSUBARUに抱いていたイメージなどを調査していたことです。それも、1970年代に乗り換えた方、1980年代に乗り換えた方など、年代ごとに聞いていましたよね。買い替えの深層心理、ホンネデータを浮き彫りにし、実際に乗り換えた方こそのみが知る真の訴求軸を探索するのは印象的でした。
これからもSUBARUのマーケティング変革は続くと思いますが、安室さんはマーケティング領域の今後をどう捉えていますか。また、自社で行いたいことはありますか。
安室 昔も今も、マーケティングで顧客理解が重要な点は変わりません。ドラッカーの言葉にも「マーケティングの目的は、顧客を理解し、製品とサービスを顧客に合わせ、おのずと売れるようにすることである」というものがあります。この時代からその価値が語られているのです。
DXが進み、取得できるデータが増える未来では、顧客理解の重要性がさらに高まることは間違いありません。coorumの機能やホンネデータも活用しながら、顧客理解の強化に努めていきたいと思います。
米田 ありがとうございます。私たちAsobicaは、「遊びのような熱狂で、世界を彩る」というミッションを掲げています。ホンネデータをどうやって知り、そしてどうやって活用していくのか。マーケティングの世界において、これからも一緒に新たなチャレンジをさせていただき、そして一緒に世界を彩っていきたいと考えています。
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