ヘリテージディレクターという聞き慣れない肩書きを持つカトリーヌさんは、「モナコ」の50周年記念イベント出席のため来日した。タグ・ホイヤーの現行コレクションの一つながら、50周年の歴史を刻んだ「モナコ」は、立派なヘリテージでもあるからだ。来年160周年を迎えるタグ・ホイヤーにあって、ヘリテージピースはどういう位置付けなのか?話を伺った。
写真=三田村 優
タグ・ホイヤーにおけるヴィンテージ
カトリーヌさんにお会いし、まず聞きたかったことは、タグ・ホイヤーにおけるヴィンテージの価値とは何なのか?ということであった。
「タグ・ホイヤーは創業以来“アヴァンギャルド“であること、そして、自らに挑戦することを大事にしてきました。いま私たちが誇りをもってヘリテージピースと向き合えるのは、単に年代を経た古いものだからということではなく、まさに挑戦ということをヘリテージピースから感じられるからです。ヘリテージピースは、当時このブランドにいた人々が挑戦したことの証であり、そのタイムピースを通じて当時の情熱を感じ、共感し、感動できるからです。時計がお好きな方でしたら、きっとそのことを感じていただけるのではないでしょうか。現在も、受け継がれた情熱のもとに新製品を開発していますし、それがさらにつながっていくブランドであるということが、タグ・ホイヤーそしてタイムピースの魅力の一つといえると思います」
挑戦、アヴァンギャルドというキーワードが出てきたが、ディレクターの眼から見て、これまでのコレクションの中で、もっともその言葉に相応しいものとは何なのだろうか。それがわかれば、今後、ヘリテージピースをベースにした新作が予想できるかもしれない。
「タグ・ホイヤーのヘリテージで自慢できる時代は、60年代~70年代です。その時代は、4代目社長で、現在の会長でもあるジャック・ホイヤーが仕切っていた時代で、イノヴェイティブで普通の時計じゃないものをつくりたいという気持ちが溢れてました。まず時間を計るというのは当たり前なんですけど、何のためにあるのかというところにフォーカスしていました。その証拠に、コレクターの方はこの時代の時計を一番コレクションしていて、タグ・ホイヤーにとって一番価値があるものなのです」
たしかに「カレラ」「モナコ」「オータヴィア」と、現代の人気コレクションの多くがこの時代に誕生している。そして、そのどれもが違うデザインで、当時は斬新だったに違いないのだが、現代では違和感なく受け入れられている。もちろん、使いやすさも含めてである。
チャレンジを模索した時代
それは時計そのものだけではなく、クルマとのコラボレーションだったり、アンバサダーの誕生だったり、新たなチャレンジを模索した時代でもあった。タグ・ホイヤーの歴史とはそうやって積み重ねられてきたのか、ということがよくわかる時代でもある。
カトリーヌさんの仕事は、このようなアーカイブピースを取り扱って、それを伝えていくと言う役割の他に、古いものの修復工房を管轄するというのもある。
「私が面白いと思うことの一つは、ヘリテージから学ぶことがたくさんあって、一つヘリテージのことを知るだけで、若い人を教育することができる。知らない人にそういった情報を伝えることで、時計としての美と、ブランドとしての美というものを知ることができるのと思うのです」
さらには、コレクターとのコミュニケーションも大切な仕事である。
「ヴィンテージのどんなものが好きかとか、ディスカッションをすることによって、発見がありますし、そういうことを大事にしています。また、ヘリテージを商品開発に活かすということもあるんです」
コレクターとの付き合いは3年前から始めて、現在では世界各地にコレクターの知り合いができたという。ローカルなネットワークを築き、「いまは豊かな関係を築いている」のだとか。
「いま考えているのは、近い将来に、タグ・ホイヤーのウエブサイト上にコレクターの方々が集まれるような場所をつくること。160年の歴史をザックリ説明するのではなくて、細かい話も皆さんとシェアできるように企画しています。現代にあった方法で、ヘリテージについての情報を蓄積していきたい。それがブランドの将来にとってとても大事なことだと思うのです」
最後にこの仕事に約3年携わってきて、カトリーヌさんはヘリテージをどのように捉えているのだろうか?聞いてみた。
「私はヘリテージはエモーショナルだと思っています。いまタグ・ホイヤーは若くてパワフルで、スポーティなイメージがありますけど、ホイヤー社の19世紀のポケットウォッチは、まだ生きていて、同じようにパーフェクトに時を刻んでいます。それは心動かされることだと思うんです。これを、たんに昔の古い時計だということではなく、創業者のエドワード・ホイヤーが、その時代につくった本物の時計で、その当時のモダニティをいま見ても感じられるということに感動するんです。そういったことをシェアしていきたいと思っています」