実はBMWは気にしていた? 1シリーズFF化

 世の中の“コンパクトカー”と呼ばれるほとんどは、前輪駆動のFFレイアウトを採用しています。スバルなどいくつかの例外的なモデルがあるとはいえ、FFの場合はエンジンを横置きにするのが一般的です。エンジンを横置きにすれば、エンジンルームの前後長が短くできるので、小さいボディでも広い居住空間が確保できるからです。また、後輪駆動で必要なエンジンと後輪を繋ぐプロペラシャフトなどが必要なく、部品点数が減ってコストが抑えられるというメリットもあります。そんな常識に抗うように、あえてエンジンを縦置きにした後輪駆動を選択したFRのコンパクトカーがありました。それが初代のBMW1シリーズです。操縦性に強いこだわりを堅持するBMWらしい1シリーズは、最適な重量配分とFRらしい回頭性により、ライバルに比べて特に後席はやや狭かったもののクルマ好きを中心にヒット作となりました。

 ところが3代目のフルモデルチェンジの際に、ついに1シリーズもFFになってしまいます。「このクラスのカスタマーは駆動形式を気にしない」というのが表向きの理由になっていたのですが、実際のところは、FFのMINIとBMWのコンパクトクラスの1/2シリーズでプラットフォームを共有する決断によるものでしょう。

写真は4代目 BMW 120のエンジンルーム

 確かにコンパクトモデルに興味のあるカスタマーのほとんどは、FFかFRかといった駆動形式が購入理由の上位に挙がることはないかもしれません。しかしもっとも気にしていたのは実は当のBMWで、FFでもFRのような走りを実現するべくあれこれ試行錯誤していました。

 4代目となる新型1シリーズは、結論から言えば「FFでもFRの走り」をついに完成させたモデルになっていました。

インテリアは最近のBMWと同様に、メーターパネルとナビ/エンターテイメントディスプレイをひとつに収めたカーブドディスプレイや、状況に応じて光り輝くインタラクションバーを備える

ロングノーズのアイコニックなスタイル

 新型1シリーズの開発コードは、従来型F40からF70に変わったのでフルモデルチェンジ扱いなのですが、ホイールベースが従来型とまったく同値であることからもわかるようプラットフォームは流用しています。ただし、細部に渡ってかなり手が加えられているので、そっくりそのまま再使用したわけではありません。特にアンダーボディにはボディ剛性の向上を狙った各種の補強パーツが追加されていて、その成果は大きく進化した走りにも現れていました。

スタイリングは1シリーズのフォルムを継承しつつ、最近のBMWのデザイン言語に塗り替えられている。BMWの昨今のデザインについては賛否が分かれているようだが、おそらくいまは過渡期であり、次第に軌道修正されていくと思われる

 エクステリアデザインは、これまでの1シリーズのフォルムを踏襲しています。エンジンを縦置きにした初代はロングノーズのスタイリングが特徴で、これが1シリーズのアイコンにもなりました。そこでBMWはFFになってもこのアイコンを引き継ぐスタイリングとしています。ボディサイズは大きくなっていて、全長は先代よりも+42mm、全高は+25mmですが、1800mmの全幅はそれ以上拡がることなく維持されています。

 日本での正式発表は10月末の予定だそうですが、すでにBMWジャパンのサイトには新型が紹介されています。日本仕様は120/120 Mスポーツ/M135 xDriveの3タイプ。BMWに詳しい方ならこれらの車名を見て「間違いではないか?」と思ったかもしれません。これまでのBMWのガソリン仕様の車名には数字の後に必ず付いていた「i」が、このモデルからなくなりました。もともと「i」はインジェクションの意味だったものの、ガソリン仕様でインジェクションは当たり前となり、加えてBMWでは電気自動車の車名に「i」を使うようになったため、混乱を避ける狙いもあるようです。

BMWの新型1シリーズは、日本で10月末に正式発表の予定。1.5Lの直列3気筒と2Lの直列4気筒の2種類のガソリンエンジンを搭載する模様

M135は2リッター4気筒ながら300PS

 120は1.5Lの直列3気筒ターボとモーターを組み合わせたマイルドハイブリッドを、M135は2Lの直列4気筒ターボをそれぞれ搭載しています。M135は300ps/400Nmというスポーツカー並みのパワースペックですが、駆動力配分を随時最適化するxDriveの4WD機構により、乾いた路面はもちろんウェット路面でも4輪でしっかり蹴ってくれるので、頼もしい安定性を感じることができます。もちろん動力性能も日本では持て余すくらいパワフルでした。サスペンションは専用のスポーティな仕様となっているので、ステアリングを切ると間髪入れずに向きを変える俊敏性を備えています。

いずれの試乗車にもアダプティブMサスペンションが装着されていた。これはあらかじ設定されている減衰力を路面からの入力によって機械式で変更するもの。優れた乗り心地と無駄な動きの少ない操縦性を両立させている要因のひとつでもある

 M135に比べると、120の動力性能は大人しいものの実用域では十分なパワーがあり、何より操縦性が想像以上に向上していました。まさしくドライバーの意志通りにレスポンスよく反応してくれて、いつの間にか楽しく運転していて、これが前輪駆動であることはすっかり忘れていました。

 前輪駆動になって2代目にして、ついに正真正銘のBMWらしいハンドリングを身につけた新型1シリーズなのでした。