(写真中央)
電通 ソリューションクリエーションセンター グローバルブランディング部 ソリューションプランナー ビジネスコンサルタント 梅木 俊成氏
(写真左)
電通国際情報サービス 製造ソリューション事業部 製造営業第3ユニット オートモーティブ営業4部 太田 直樹氏
(写真右)
電通 出版ビジネス・プロデュース局 デジタルコンテンツプランニング部 アソシエイト・プランナー 唐澤 和氏

 マーケティング・コミュニケーションの領域で国内随一のケーパビリティを持ち、B to C企業の支援で豊富な実績を持つ電通グループにおいて、B to Bマーケティングの専門組織が着実に勢力を広げている。「電通B2Bイニシアティブ」と呼ばれるその組織は、電通グループ13社を横断するチームで、100人を超える有志が集結した。発起人である電通 ソリューションクリエーションセンター グローバルブランディング部の梅木俊成氏をはじめ3人のキーパーソンに、B to Bマーケティングに対する問題意識やソリューション事例などについて語ってもらった。
(聞き手:Japan Innovation Review編集長 瀬木友和)

問題意識を共にする有志がグループ横断で集結

――B to C支援では豊富な実績を持っている電通グループにおいて、「電通B2Bイニシアティブ」が発足した経緯についてお尋ねします。

梅木 2つエピソードがあります。1つは、マーケティングオートメーション(MA)との出合いです。

電通 ソリューションクリエーションセンター グローバルブランディング部 ソリューションプランナー ビジネスコンサルタント 梅木 俊成氏

 元々私はCRM(顧客情報管理)の領域でB to Cビジネスの支援を手掛けていました。いわゆるデータドリブンな考え方に基づいて、精度の高い施策を打つというものです。ただ、データ分析の作業というのが非常に大変で、分析のフェーズと打ち手を講じるフェーズが分断されていて、これを解消することができないかずっと悩んでいました。

 たまったデータを仕組みによって見える化し、それに対して打ち手がシームレスで作られる――。そんなことを妄想していた時に、海外でMAツールを見つけました。調べていくと、MAはB to Bの企業で使われていることが分かり、B to Bのお客さまにヒアリングを重ねて、導入提案を始めていったのが1つです。

 もう1つは、米国出張での出来事です。カンファレンスに参加して、現地の方々と名刺交換したときに、冗談交じりに接待を要求されたのです。帰国後、そのことをいろいろなお客さまに伝えると、「そうだ」と言うのです。かつて日本でも重視されていたGNP(G:義理、N:人情、P:プレゼント)が、いまだ海外における営業活動で当たり前のように存在することにがくぜんとしました。

「技術では勝つけれど、戦略では負ける日本」といったキーワードも耳にして、そうした日本企業の現状を変えたいと強く思うようになりました。

 もっとも、思いだけでは仕方がないので、実績を積んでいきました。社内で声を上げて、いろいろな人に相談していくうちにプロジェクトが立ち上がり、問題意識を共にする同士を集めていったら、2年半ぐらいでグループを横断する組織にまで広がっていきました。

――メンバーは公募制ですか。

梅木 基本的に自主性を重んじています。上司に言われて参加するのは駄目というルールがあって、面接の場で本人の意思を確認します。メンバーになっても、自主参加を評価する指標が一定割合を下回ると幽霊部員とみなし除名される場合もあります。

――お二人がB2Bイニシアティブに参加した思いや理由をお聞かせください。

太田 私は電通国際情報サービス(ISID)に所属し、担当クライアントに対してシステムの提案を行っています。お客さまのニーズや課題に応じて、社内の壁を越えて、グループ内の他の会社につなぎたいと思ったことはこれまでもあったのですが、相談先がなかなか見つからない中で、B2Bイニシアティブの話を聞き、梅木が考えるB to Bマーケティングのあるべき姿に貢献できるのであれば面白いと思い、参加の意思を伝えました。

唐澤 私は出版ビジネス・プロデュース局に所属し、雑誌媒体のプランナーとして活動しています。昨年、B2Bイニシアティブが主催する勉強会に参加する機会があり、マーケティング戦略の全体像を意識するようになったことや、新たな視点を得てメディアの枠にとどまらないソリューション開発の可能性に魅力を感じ、メンバーになりました。

効率的に商談機会を作りたいと考えるB to B企業が増えている

――そもそもB to B企業のマーケティングや営業における課題には、どういったものがあるのですか。

梅木 お伝えしたいのは、デジタルを活用して、より効果的なアクションを起こしましょうということ。

 日本には、「いいものを作れば売れる」と思っている企業がまだまだ多い印象を持ちます。それ自体は否定するものではありませんが、データ活用を取り入れることによって、自社がターゲットとすべき顧客企業はどこか、ターゲットとする担当者は誰か、担当者の悩みは何なのかを効率的に把握し、効果的な打ち手を講じることが可能になることを知っていただきたい。

 ありていな言い方をすると、B to B企業もマーケティングを考えていくべきだということです。日本の伝統的な製造業においては、メーカーと販売会社、マーケティングと営業の間に分断が生じていることも度々で、中にはマーケティング戦略がなかったり、そもそもマーケティング部署自体存在しないケースも見受けられます。

 もう1つ課題として挙げられるのは、“部分最適”で考えることが多いことです。「MAってどれがいいの?」「ブランディングの成果は認知獲得か? それともリード獲得か?」「ウェブサイトではどんな情報発信をしたら良いのか?」といった個別の相談を受けることも多いのですが、マーケティング&セールスの流れを“全体最適”の視点で設計する必要があるとわれわれは考えます。

(図1)B to B企業における営業とマーケティングの分断
(出所)電通B2Bイニシアティブ

――実際に企業からはどのような引き合いが多いのですか。

梅木 コロナ禍の2年を経て、効率的に「商談を作りたい」というお客さまが増えています。お客さまはリード(見込み客)が欲しいわけでは決してありません。営業はインサイドセールスやマーケティングチームに対して、商談につながるいいリードを捕まえて、商談のアポを取るところまでを期待しているのです。

 また、集めたリードがいい商談リードであるのか、マーケティング由来で集めたリードがちゃんと成果につながっているかどうかを証明したいというニーズもあります。

 B to B企業でよくあるのが、キャンペーンやテレビCMを打っても、元々営業とお付き合いがあったお客さまなのか、マーケティングチームがゼロから集めたリードなのかが区別されていないため、売れたら結局、全部営業の成果になるというケースです。

 翌年の予算取りをする時に、「これだけの活動をしたいから、これだけの予算が欲しい」と言っても、何をもって成果の根拠とするかが曖昧なため、マーケティングチームに予算が付かないのです。しかし、デジタルを活用すれば、それも明確に示すことができます。

(図2)B2BとB2C商材における購買行動の違い
(出所)電通B2Bイニシアティブ
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――商談機会を作りたいというニーズに対しては、MAやCRMといったマーケティングツールがソリューションになりますか。

梅木 仕組みと仕掛けの両方です。ここで言う仕組みとは、システムの実装であったり、STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)分析などマーケティングフレームから導き出されるような答え、型化されたものです。MAやCRMなどもこれに含まれます。

 一方の仕掛けとは、受け手に響くメッセージとは何かを考えるクリエーティブや、営業とマーケティングの連携を実現する組織構築などを指します。

 仕組み作りだけでなく、仕組みを最大限に活かす仕掛け作り、つまり相手の気持ちを動かす術や分断された組織をつなぐ方法を知っていることが、ベンダーでも、コンサルティングファームでもない、われわれ電通グループの強みだと思います。

(図3)B2B商材のマーケティング&セールスの流れ
(出所)電通B2Bイニシアティブ
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B to CでもB to Bでも変わらない電通グループの価値とは

――B to B領域における電通グループの特長や強みについて、お二人はどう考えますか。

太田 お客さまが欲しい情報を理解し、適切なタイミングで届けることが電通グループの強みであり、B to Cであろうと、B to Bであろうと変わらない付加価値だと考えています。B to Bをなりわいにしている企業の中には、UXを考えるという経験がこれまでほとんどなかった企業もありますが、それをずっと考え抜いてきたのが電通グループであり、そこの“筋肉”は日本でも随一だと思います。

電通国際情報サービス 製造ソリューション事業部 製造営業第3ユニット オートモーティブ営業4部 太田 直樹氏

唐澤 クリエーティブはもちろんそうですし、B to B領域においてもパーパス策定やブランディングメッセージ作りの部分で優位性を発揮していると思います。

 さまざまなメディアの活用を、ソリューションとしてご提示できるのも、従来からある電通グループならではの強みです。個人的には、B2Bイニシアティブに参加することで、全体最適の視点を身に付けながら、メディアソリューションという自身の業務に立ち返り、B to B企業の課題解決に貢献していくという好循環が生まれていると感じます。

電通 出版ビジネス・プロデュース局 デジタルコンテンツプランニング部 アソシエイト・プランナー 唐澤 和氏

――B2Bイニシアティブの今後の展開、B to B企業に対するメッセージをお願いします。

梅木 エンタープライズ企業のお客さまからお問い合わせをいただくケースも多くあります。会社全体で見ると巨体なのですが、組織の1つ1つは中小企業のように独立していて、セクショナリズムが働くことも度々です。

 われわれ電通グループの価値は、組織と組織の間に入って“接着剤”の役割を果たすことです。担当する組織の得意・不得意を見極めながら、組織同士をつなげたり、不足しているケーパビリティを外から持ってくることで、B to B企業のマーケティング&セールスを一気通貫でサポートします。

 DXやMA、CRMなど横字が飛び交うことも多いのですが、やっていることは非常に泥臭いことで、お客さまと一緒に汗をかいていきたいと考えています。

唐澤 B2Bマーケティングというテーマが社内に存在すること自体、私にとってもそうですし、電通グループが提供する価値としても、非常に意味があることだと考えています。

 会社の中で今後、担当する業務やポジションが変わることも当然考えられる中で、B2Bマーケティングは、どこに行っても接点があるテーマだと思います。B2Bイニシアティブのメンバーを中心にネットワークが拡大し、知見の総量が増えて、新たな融合が生まれるところに携わっていけたらうれしいです。

太田 グループ会社とはいえ、各社ごとに戦略があり、一枚岩になることの難しさを感じつつも、会社同士を束ねるのが大変なら、まずは有志からつながるというB2Bイニシアティブのコンセプトは重要です。

 私自身の営業活動では、経営者の方と接する機会も多くあります。目の前に会社の経営を考えている人がいるという意味では、もっと目を開かなきゃいけないし、そのときにB2Bイニシアティブという相談先があるのは非常に心強いですし、ISIDの社員にも伝えて、引き入れているところです。

インタビューを終えて
Japan Innovation Review編集長 瀬木 友和

「電通B2Bイニシアティブ」の活動は会社公認の組織でありながらも、メンバーは原則として有志で募っているという。実に電通グループらしい取り組みだと思う。メンバーはグループ各社の現場で日々の業務にあたりながらも、自主的にイニシアティブの活動に参加し、自身の知見を深めている。イニシアティブへのコミットが少ないメンバーは除籍されるというから徹底している。電通グループの出自は広告会社であり、少なくとも現時点での顧客企業の多くはB2C(消費者向け)ビジネスが中心だろう。そんな中、メンバー各々は自身の問題意識をベースに、B2Bマーケティングに向き合っている。それだけに、メンバーのモチベーションが異常に高い。

 現在、電通B2Bイニシアティブには、多種多様な企業から相談が寄せられているという。その数はコロナ禍前に比べて10倍ほどに増えているというから驚きだ。コロナ禍を経て、多くの日本企業がB2Bマーケティングに本気で取り組み始めたことがよく分かる。

伝統的な製造業をはじめ、多種多様な企業から相談を寄せられているというが、なかでも私の印象に残ったのが、システムインテグレーションを生業とするIT企業からの相談が多いという点だ。顧客にMAやCRMといったマーケティングソリューションを提案する立場の企業が、なぜ電通グループに支援を依頼するのだろうか?

 その答えは、インタビューで梅木氏が紹介してくれた「仕組み」と「仕掛け」の違いに見出せる。システムの実装やマーケティングのフレームワークといった定型化された「仕組み」に対して、受け手の心を動かすクリエーティブや、営業組織とマーケティングチームの溝を埋めるための人間的なコミュニケーションといった「仕掛け」がある。B2Bマーケティングで成果を挙げるためには「仕組み」と「仕掛け」の両方が欠かせないが、特に後者については、往々にしてウェットな人間の感情を伴う。例えば、梅木氏がイニシアティブのメンバー向けに作成した資料には、B2Bマーケティングの組織構築で大事なこととして、「今までの営業努力を否定しないこと」とさらりと書かれていたりする。人の気持ちを動かす「仕掛け」とはこういうことを指す。これこそが、人の心を動かすことのプロフェッショナルである電通グループへの相談が絶えない理由だろう。

 伝統的な製造業でも本格的に取り組む企業が増加し、いよいよ日本でも本格化してきたB2Bマーケティングの分野。欧米に比べて弱いとされてきたマーケティングの発想や機能が充実してくれば、日本企業の競争力が大きく向上するのは間違いない。電通グループにはその伴走者として大いに活躍してくれることを期待したい。

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