なぜタイヤの空気は抜けたのか?
さて、どうしたものでしょうか?
スマートフォンのライトでタイヤハウスの奥を照らしてトレッド面をもう一度見てみましたが、何も見当たりません。エアバルブもキチンと締まっている。何らかの理由で空気が抜けてしまったことは間違いありませんが、その理由がわかりません。
3年前に左リアタイヤをパンクさせた時には、サイドウォール寄りのトレッド面に直径数ミリの金属の棒を曲げたものが刺さっていて、一目瞭然でパンクの原因はすぐに判明しました。
718ボクスターをガレージに戻せたので、地下鉄やバスに乗って用事を済ませに出掛けました。公共交通機関は考えごとに向いています。自分で運転する必要がなく、目的地という“期限”があります。期限があると、考えがクルクルと調子良く巡るような気がするのです。流れる車窓の風景に眼をやりながら、自然と頭に去来するのは718ボクスターをどうするか?です。往復の地下鉄や都営バスに乗っていても、去来するのは718ボクスターのことばかりでした。
<僕の718ボクスターは、明らかに左リアタイヤに何らかの異常を来しています。3年前のパンクのように原因が見えないだけで、パンクの公算が大きい。そうではないかもしれないが、あの警告表示は初めてだったので、異常であることは間違いない。どんな異常なのかを見極める必要がある。いつも車検や定期点検などを依頼しているポルシェセンター浦和に持ち込むべきなのか?>
<しかし、持ち込んでタイヤと警告センサーなどをチェックしてもらい、パンクなどであったらタイヤ交換が必要になる。タイヤを手配しなければならないので、すぐにはできないだろう>
<パンクではない場合だってあるかもしれない。補修などで、タイヤを交換しなくても済むことも想定できる>
などと都営バスの中で考えを巡らせているうちに、自分の降りる停留所が近づいてきました。他の人も降りるらしく、降車ボタンは押されています。最近の都営バスはバリアフリーの観点から、降車時に出口と地面との差が少なくて良い。上から“降りる”という感覚はなく、横に“出る”という感じです。負担が少なく、とても良いですね。
降りた停留所の向かいにタイヤショップの「タイヤ館」がありました。そこにあることは以前から認識していましたが、入ったことはありませんでした。バスに乗っている間に巡らせていた考えが、結びついたのです。
相談してみよう!
歩いて入っていくと、すぐにスタッフが応対してくれました。スマートフォンの画像を見せながら話すと、プロらしく的確な判断を下しながら、こちらの状況と望みをすぐさまに理解してくれました。こういう時に、客商売の力量が露わになりますね。彼の判断は次のようなものでした。
「ご自宅のガレージでタイヤに空気を入れてみて、ある程度の空気圧も確保できて走れるようでしたら、様子を見ながらゆっくり走ってクルマを持ってきて下さい。ホイールを外してタイヤを確かめてみます。でも、入れるそばから抜けてしまうようでしたら走れません。そうなったら、レッカーサービスを利用するなりして、ここまで運ぶ必要が出てきます」
718ボクスターの前に乗っていた初代ボクスターには細い応急用のテンポラリータイヤが備わっていましたが、718ボクスターには修理キットだけしかありません。しかし、修理キットに飛び付いてしまってはいけないことを3年前に教わりました。
「修理キットを使うと、使った後にホイールの内側にビッシリとこびりついたノリのようなものをきれいに拭き取る必要が出てきますし、空気圧センサーも交換しなければならなくなるので、真夜中とか携帯電話の圏外地など、どうしても必要な場合以外はお勧めしません。カネコさんは“ポルシェ アシスタンス”に加入しているのだから、そのレッカーサービスを利用して、ウチの工場まで運ばせて下さい。無料ですから」
と、修理キットの使用を思い止まらさせてくれたのはポルシェセンター浦和の営業担当Sさんでした。
自動車メーカーがテンポラリータイヤの装着を止めたのは、重量とコストの削減のためです。全世界的に道路整備が進んだことも理由のひとつでしょう。でも、運が悪いと、僕のように続く時には続いてしまうのです。