また、フリーダンスは構成をしばしばかえてきたという。
「後半のステップとか少し窮屈に感じていていたのでもう少し自由にできるようにしたり、テクニカルの部分でもかえています」(村元)
拠点とするアメリカ・フロリダを襲ったハリケーンの影響もあったし、構成をかえたことで滑り込んだ時間も長くはない。それもまた、今日の演技への要因となっただろう。
反省と修正すべき点を語りつつ、でもそれだけではなかった。
「演技としてはすごいよかったと思います」
「クリスティーナになりきってできたと思います」
村元がそう振り返れば、髙橋はこう語った。
「気持ちの面では演じ切れたと思います」
2人は、シングルと違い2人で滑るアイスダンスならではの『オペラ座の怪人』を創り上げ、新たな世界を描き出した。そこに対する手ごたえは得られた。
経験になった5分間練習
2人のデビュー戦は、2年前のNHK杯。2年の間隔を置いた同じNHK杯という舞台での、2人の姿は異なる。すべてにおいて、そして急速の成長を見せてきたことをあらためて思う。
印象的な光景があった。2つのグループに分かれたうちの後半、第2グループに村元と髙橋はいた。そのグループの5分間練習は第1グループと様相を異にしていた。出場する各カップルのスピード感は格段に高く、しかも自分たちの軌道の確認作業等に集中し、他のカップルに譲る気配はない。互いに至近距離で抜けていく場面があり、接触しても不思議はない瞬間もしばしばあった。
その場面を尋ねられると、互いの顔を時折見ながら、2人は流れるように、交互に相手の言葉を引き取りつつ、言葉をつないでいった。
「皆さん、表彰台争いだったので、容赦なくというか」(村元)
「けっこう朝の公式練習からぶつかりそうになるのが多くて、昨日までと打って変わって違う雰囲気の公式練習で、5分間練習もけっこうばちばちで」(髙橋)
「ほんとうにみんなアグレッシブで、勉強になりました」(村元)
「氷に乗った瞬間から自分たちに集中するのがいちばんなので。トップのチームの雰囲気だったりエネルギーを感じることができて、自分たちにもそのエネルギーはあるなと思います」(村元)
「先シーズンだったらびびってよけまくっていたんですけど、今シーズンは物怖じするわけでもなく、ほんとうに危ないなと思ったらよけますけど、ぎりぎりまでよけないですね」(髙橋)
演技を前に相応のエネルギーを費やすことになったであろう5分間練習を振り返る2人が、笑顔で、柔らかい口調とともに語る言葉には、アイスダンサーとしての自負と覚悟があった。
次戦は12月下旬の全日本選手権。
「時間はあるので、今日の演技とまた違う姿を見せたいな、という気持ちがいっそう強くなりました」(髙橋)
「もっと練習を追い込んで、ほんとうに完璧な『オペラ座の怪人』を滑りたいな、という気持ちがすごい大きくなりました」(村元)
成長する過程を楽しみつつ、さらなる高みを目指す2人は、次を見据えつつ、笑顔で大会を締めくくった。