取材・文=吉田さらさ 写真=フォトライブラリー
60を超える社が点在する春日大社
奈良に来たら、やはり東大寺と興福寺の仏様たちに一度はおめもじせねばならぬし、もちろん御蓋山(春日山)の麓の春日大社も必須である。ということで、奈良旅行の際には奈良公園内を歩き回ることになる。中でも春日大社には、小さなものまで含めると60を超えるお社が点在している。ここはひとつ、たっぷり時間を取って、広大な森の中に鎮座するたくさんの神様たちに願いごとやお礼を申し上げたりしながら、ゆっくりと散歩してみよう。
まずは御由緒を簡単に説明しておこう。710年、藤原不比等が今の茨城県にある鹿島神宮から武甕槌命を招いて、御蓋山の山頂で神事を行うようになった。武甕槌命は記紀の「国譲りの神話」で功績のあった神で、白い鹿に乗って大和にやってきた。そのため春日大社の神様のお使いは鹿、現在奈良公園に生息するたくさんの鹿はその白い鹿の子孫とされる。
武甕槌命が招かれてからおよそ50年後、平城京に政変が続き、それを収めるために、さらに、経津主命、天児屋根命、比売神の三柱が招かれた。経津主命は国譲りの際に功績があった神、天児屋根命は藤原氏の遠い祖先とされる神、比売神は天児屋根命の妻もしくは天照大神とされる。武甕槌命とこの三柱を含めた四柱の神がご本殿に祀られている。
四柱の神が祀られる本殿
JR奈良駅から続く三条通りを歩いて来ると、まず一の鳥居がある。広大な春日大社の玄関口だ。左手には国立奈良博物館、少し歩くと右手に「飛火野」がある。今は鹿が群れ遊ぶ長閑な野原だが、古くは、神様がおわす御蓋山に向かって神事を行う場所だった。
森の中の道をさらにどんどん歩く。左手に見える立派な建物は春日大社国宝殿。国宝354点をはじめとする数々の宝物を所蔵する必見の博物館なので、お参りを済ませてからじっくり見せていただこう。そしてようやく二の鳥居に到達。座る鹿をかたどった伏鹿手水所で口と手を清めてから御本殿に向かう。
御本殿は先にも述べた武甕槌命をはじめとする四柱の神を祀る場所で、回廊に囲まれている。ここから先は初穂料をお納めすることになる。回廊内にはその四柱を祀る四つのお社だけでなく、他の神様を祀る小さなお社や神事を執り行うための建物、ご神木などがある。御本殿は中門・御廊と呼ばれる建物の奥にあって見えないが、わたしたちはここからお参りする。