文=鷹橋 忍 写真=フォトライブラリー
世界遺産第一号の一つ
コロナ禍はまだ収まらず、世界情勢も緊迫している。物価が上がり、家計に不安を覚える方も少なくないだろう。
こんなご時世であるから、夢のある伝説をもつ城をご紹介しよう。ポーランド共和国の古都クラクフに建つヴァヴェル城である。
クラクフは、中世の面影が残る美しい街である。11世紀からポーランド王国の首都として繁栄し、プラハと並び称される中欧文化の中心地であった。首都の座はワルシャワ遷都により失ったものの、現在も文化・芸術・学問の都として知られ、観光客にも人気の街である。
街には多くの第一級歴史的遺産が存在し、1978年に「クラクフ歴史地区」として、世界遺産に登録された(文化遺産)。ヴァヴェル城も、そのなかに含まれる。
なお、はじめて世界遺産リストに記載され、「人類共通の宝」となったのは、この「クラクフ歴史地区」を含む12件の遺産である。
つまりヴァヴェル城は、世界遺産第一号の一つなのだ。
今も火を噴く伝説のドラゴン
ヴァヴェル城には、クラクフの街名の由来に関わる伝説が残っている。
ヴァヴェル城はヴィスワ河畔にそびえ立つが、伝説によれば、そのヴィスワ河の洞窟には、家畜や若い娘をさらって食べる恐ろしいドラゴンが住んでいた。被害に困り果てた王は、「ドラゴンを倒した者には、我が娘との結婚を許可しよう」と言った。
それを知ったクラク(Krak)という男が、羊の皮を縫い合わせて偽物の羊を作り、タールと硫黄を染みこませた。その羊をヴィスワ河の岸に置くと、ドラゴンが現われ、羊を呑み込んだのだ。
すると、ドラゴンの腹の中で硫黄が燃え、猛烈な喉の渇きに襲われた。ドラゴンはヴィスワ河の水を飲み続け、やがて、腹が「バーン」という大きな音を立てて、破裂してしまった。こうしてドラゴンは退治され、街には平和が訪れた。
クラクは王の娘と結婚し、住民は彼に感謝して、自分たちの街をクラクフと名付けたという。
この伝説の「ドラゴンの洞窟」はヴァヴェル城の西側、ヴィスワ河の川べりに近い場所に残っており、期間限定ながら見学も可能だ(不定期のため要確認)。
洞窟を出た先にはドラゴンの像が建ち、ときおり火を噴いて、観光客を楽しませている。