文=福留亮司
オメガの人気コレクション『スピードマスター』が65周年を迎え、1stモデルのトリビュート版を発表した。普遍のデザインを持つ人気モデルだけに、現行モデルと大きな違いはないが、ファーストモデルならではのポイントがいくつかある。そして多彩なダイヤルカラーが加わり、新しいコレクションを思わせる新作となっている。
蘇ったファーストモデル
復刻モデルが人気だ。とくに、現在まで続いている名作コレクションのファーストモデルには、なるほど、と思わせる完成された形がある。だから、現在の最新技術を載せた新作がラインナップされてもまったく違和感がないのだ。
今年は、現在でもトップクラスの人気を誇る、オメガ『スピードマスター』が65周年ということで、ファーストモデルを蘇らせている。『スピードマスター ’57』と名付けられたトリビュートモデルは、若干の変更を加えると共にカラーバリエーションを増やし、全8種類がラインナップされている。
1957年に誕生した『スピードマスター』。50年代は、他ブランドにもスポーティな名機が登場しており、スポーツウォッチというカテゴリーが形成されはじめた時代でもあった。オメガでも『スピードマスター』の他に、『シーマスター』『レイルマスター』を加えた、3つの“マスターシリーズ”がこの時代に人気を博している。
この『スピードマスター』におけるファーストモデルは、先に発表されていた軟鉄製インナーケース採用の『シーマスター 300』をベースに、モータースポーツ用に製作されたものだった。
初めて外周ベゼルにタキメーターを置いた腕時計で、現行モデルとデザインにそれほど大きな変化はない。違いは、そのベゼルがシルバーであること、そして、槍のようなな形状の短針を持ち、“ブロードアロー”とも呼ばれていたことである。
耐久性という大きな魅力
『スピードマスター』を一躍有名にした“ムーンウォッチ”の頃には、ベゼルはブラックに、針はバトン針へと変更されていたので、月に行った「PROFESSIONAL」をイメージしている人は、少し違う、と思えるかもしれない。
時計に興味を持った男性なら、誰もが一度は憧れ、手に入れたいと思う『スピードマスター』。その最大の動機はデザインにあるのだが、もうひとつの大きな魅力が、頑丈さにあるのは間違いない。壊れにくく気を使わずに使えるというのは、日常を共にするのに得難い安心感があるのだ。
それを証明しているのが、よく知られているアポロ計画への参加であった。この計画で求められたのが、過酷な環境にも耐えうる丈夫な手巻き式のクロノグラフだった。
月は、当然無重力空間なので、重力の助けが必要な自動巻きではローターが回らない。つまりゼンマイが巻き上がらないのだ。クロノグラフは、宇宙船の電気系統が壊れることを想定した場合、時間計測に必要な機能ということだったらしい。
ただそれらは最低限の機能で、NASAが求めたの耐久性はかなり高いものだった。そして、名だたるメーカーに手巻きクロノグラフモデルを提供してもらい、高温環境下、低温環境下、衝撃、加速度など、11項目に及ぶテストを実施した。それは40Gの負荷をかけたり、-18°Cから70°C以上の急激な温度変化の中に置くなど、大変過酷なものだったという。そして、そのテストに耐え抜き、最後までクロノグラフ機能が稼働していたのが『スピードマスター』だったのだ。しかも、その時計は特注品ではなく、市販品だというのだから驚きである。
コーアクシャル機構を備える
ちなみに、ムーンウォッチのダイヤルにある「PROFESSIONAL」の文字は、ファーストモデルにはない。これが入るのはNASAに正式発注された64年以降ということである。この点も『スピードマスター ’57』はしっかりと反映されている。
新作モデルには、摩耗が少なくメンテナンスサイクルが長いオメガ独自の“コーアクシャル機構”を備えた、手巻きの「コーアクシャル マスター クロノメーター9906」を搭載。さらに次元の高い耐磁性、精度を備えることとなった。
また、今回の『スピードマスター ’57』キャンペーンの顔に、ジョージ・クルーニーとヒョン・ビンが起用されている。とくにジョージ・クルーニーは、長年オメガの顔を務めていることもあってか、『スピードマスター ’57』がとても馴染んでおり、このモデルとともにイメージできるのは嬉しい限りである。
全8モデルは、デザイン、大きさ、性能はまったく同じで、ダイヤルカラーのみ違うというもの。65年前には考えられなかったカラーバリエーションも含め楽しめる、素晴らしいトリビュートモデルである。
問い合わせ:オメガお客様センター TEL:03-5952-4400