文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部
話題の展覧会が2年を経て開催
新型コロナウイルス感染症の流行は、美術界にも大きな影響を与えた。美術館は長期休館を余儀なくされ、海外から作品を借りる予定の展覧会も多くが中止・延期になってしまった。その一つが「ボストン美術館展 芸術×力(げいじゅつとちから)」。当初の予定では2020年春の開幕だったが見送られてしまった。
だが、いったんは中止になったものの、関係者の尽力により復活。2022年7月23日、2年以上の月日を経て東京都美術館で開幕した。
ボストン美術館は1876年に開館したアメリカの名門ミュージアム。コレクションは約50万点におよび、古代エジプトから現代美術まで、幅広い作品を所蔵している。仏画、絵巻、浮世絵、刀剣といった日本美術のコレクションも豊富だ。そんなボストン美術館の貴重な所蔵品に出会えることを、まずは喜びたい。
権力者の「力」を感じる作品群
今回のボストン美術館展のテーマは「芸術×力」。東京都美術館の大橋菜都子学芸員は展覧会のコンセプトをこう説明する。「時の権力者たちは、その力を示し、権力を維持するために芸術の力を利用してきました。美しい工芸品で宮廷を彩って威厳を示したり、外交の場で活用したり。様々な国、様々な時代から集められた約60点の展示品を通して、作品が本来担っていた役割を探っていきます」
会場を歩くと、権力者の「力」を感じる多彩な作品に出会うことができる。ロベール・ルフェーヴルと工房による《戴冠式の正装をしたナポレオン1世の肖像》は、35歳のナポレオンが戴冠式に臨むために正装した姿を描いた絵画。深紅のヴェルヴェットのマントをはおり、頭には古代ギリシア・古代ローマの勝利の象徴である金の月桂樹の冠を載せている。
《マージョリー・メリウェザー・ポストのブローチ》は、シリアル産業で莫大な富を築いたチャールズ・ウィリアム・ポストの娘、マージョリー・メリウェザー・ポストが所有していたジュエリー。中央に嵌め込まれたエメラルドは、なんと60カラット。その表面に刻まれたアイリスの彫刻は17世紀のインドで施されたという。
さらに、古代エジプトの石像《ホルス神のレリーフ》、清の乾隆帝の上衣《龍袍》、ドミニコ会の創立者である聖ドミニクスをモデルにしたエル・グレコの絵画《祈る聖ドミニクス》など、見どころは尽きない。だが、展覧会最大のハイライトは何かと聞かれたなら、「ボストンから里帰りした2点の絵巻」だと答える。