マンガの原点⁉ 2点の絵巻が見逃せない

 その2点の絵巻とは、軍記『平治物語』を絵画化した《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》と、遣唐使・吉備真備の活躍を描いた《吉備大臣入唐絵巻》。この2点が、想像以上におもしろくてたまらない。「絵巻って読み解きが難しいのでは?」といった心配は無用。ストーリーがわかりやすく、エンタメ性にもあふれている。「ベストセラーをマンガで読む」くらいの軽い気持ちで鑑賞してほしい。

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》は、12世紀半ばの政変「平治の乱」の顛末を時系列で描写。上皇である後白河院とその姉・上西門院が京都の三条殿から拉致された出来事が描かれている。クーデターを起こしたのは成り上がりの廷臣・藤原信頼とその取り巻き・源義朝。2人は数百人の兵とともに夜半の三条殿を襲った。

《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》(部分)鎌倉時代、13世紀後半

 絵巻の最大の見せ場は、信頼が三条殿に火を放ち、御殿が燃え上がる場面。メラメラと燃え上がる炎の描写が凄まじい。火の勢いで空気がゆがんでいる様子まで、巧みに表現されている。絵のタッチは、正統派の劇画といったムード。敵味方が入り乱れ、牛や馬も大暴れ。迫力あるシーンの連続に目が釘付けになる。

 一方の《吉備大臣入唐絵巻》は、《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》とは対照的にゆるいムード。登場人物の動作や表情がほのぼのとしていて、絵を見ているだけで笑みがこぼれてくる。

《吉備大臣入唐絵巻》(第二巻)(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末

 ストーリーも奇想天外だ。奈良時代に遣唐使として唐にわたった吉備真備は、皇帝の使者によって高い楼閣に閉じ込められてしまう。だが、赤鬼の姿で蘇った亡霊・阿倍仲麻呂の力を借りて、難局を切り抜けていく。

 数ある難局のうち、特に“囲碁対決”は見ものだ。唐の名人と碁の勝負をすることになった真備。だが、真備は碁を打てない。そこで亡霊・阿倍仲麻呂に稽古をつけてもらい、対局に挑んだ。対局はしのぎを削る熱戦となり、勝負は五分と五分。そこで真備は隙を見て黒石をひとつ飲み込み、僅差の勝利を収める。

 唐側は結果を不審に思い、真備が石を飲み込んだのではないかと推察。真備に下剤を飲ませ、碁石を体外に出させようとするが、真備は超能力を使って石を腹の中に留める。結局、勝負は真備の勝ちとなり、唐の人々は悔しそうに帰っていった。

《吉備大臣入唐絵巻》(第三巻)(部分)平安時代後期-鎌倉時代初期、12世紀末

 荒唐無稽というか、おバカ過ぎるストーリー。絵巻が制作された12世紀の人たちは、これを見て笑っていたのだろうか。1000年近く前の日本人に、親近感のような気持ちが湧いてきた。

 マンガの原点は、ここにあったのか。《平治物語絵巻 三条殿夜討巻》と《吉備大臣入唐絵巻》。2点の絵巻物、必見だ。