ダイアナ妃 写真:Shutterstock/アフロ

——あのサファイアとダイヤのヘッドバンドはいかがですか? 軍雪さんのアドバイスですか?

鳥丸 いえ、ティアラをつけてくると思ったのですが、ヘッドバンドを見て驚きました。あれはサウジアラビアの皇太子がダイアナ妃に贈ったチョーカーで、それをヘッドバンドに転用していたのです。ブルーの共布のバッグは私がさしあげたものです。

——ブルーのドレス、ブルーの共布のバッグ、サファイヤブルーのヘッドバンドとイヤリングと指輪。光り輝くブルーが共鳴しあって、タイムレスなスタイルになっています。

鳥丸 ダイアナ妃はあのドレスをとても気に入ってくださって、その後も何度も着てくださっています。実は一度、サイズ直しもしているのです。直してまで着続けてくださって本当に幸せです。

——あら、サイズの話は機密事項では?(笑) 機密事項ついでに、下世話なことをお伺いしてよろしいでしょうか? あのドレスの代金はおいくらだったのですか?

鳥丸 王室からは請求書をお送りください、と言われました。でも、私はお送りしておりません。ノーチャージです。

——文字通り、プライレスなドレスだったのですね。

 

日本食はスパイシー!?

鳥丸 ダイアナ妃はロンドンに戻ってから、私のところへ報告とお礼にいらっしゃいました。なんと、ひとりで車を運転していらっしゃいました。しかも「15分ちょっと遅れますがすみません」と前もって連絡をいれてきました。本当にフェアに接してくださるのです。それで、日本人は親切で楽しかった、親切さには心打たれた、食べ物はスパイシーだった、とお茶を飲みながら話しました。

——いい話です。が、日本食がスパイシー!?

鳥丸 わさびでも多めに食べてしまわれたのかもしれませんね。ダイアナ妃が私のドレスを着てくれたことによって、翌日、新聞、インタビューの依頼が殺到しました。でも、対応できないと断っていました。ダイアナ妃を利用したくなかったのです。一方、ライセンシーの仕事が6社増えました。ドレスをノーチャージにしましたが、そのことをはじめ、目に見えないメリットがほんとうにたくさんあるのです。

——デザイナーの名前も王室史、外交史、社会史、ファッション史など歴史に刻まれます。ダイアナ妃にスタイリストはいらしたのですか?

鳥丸 私はお目にかかってはいません。王室の方々は、基本、デザイナーを決めたらそのデザイナーに任せています。王室外交のためのドレスでは、一般用とは異なるちょっとした規則はあります。たとえば、勲章をとめるサッシュのための穴をあけるとか。

 また、一連のドレスを用意するときには、まず宝石リストが送られてきます。何月何日のこの場面でこの宝石を着用、というリストです。

——あくまで宝石が主役なのですね。

鳥丸 はい、とりわけ伝統的な宝石の場合、そうです。宝石のサイズに合わせてネックラインをあけ、宝石が目立つようにデザインします。ただ、ダイアナ妃のドレスには宝石は必要なかった。ヘッドバンドは本当に驚きでした。ダイアナ妃は時折、そのように想定外の大胆さを見せました。ダイアナ妃はセンスも人柄も抜群に素敵な方でした。(続く)