「迎賓館」の名にふさわしい建築と意匠
石狩湾を見下ろす小樽の景勝地・平磯岬に、瓦葺きの豪壮な木造建築がそびえる。大屋根中央には天守閣を思わせる物見櫓「望楼(ぼうろう)」が備わり、四方が見晴らせる。
「銀鱗荘」は北海道文化財百選に指定される歴史的建造物。そのおこりは鰊(にしん)の千石漁場であった余市(よいち)の大網元、猪俣安之丞が明治6年に邸宅として建てたことによる。明治30年から3年、宮大工の手で大改築が行われ現在の優美な姿となった。
その後、昭和13〜14年に余市町から平磯岬に移築され、小樽の迎賓館として「料亭旅館 銀鱗荘」の歴史を歩みはじめる。漁場建築の代表である「鰊御殿」に宿泊できるとあって、国内外から注目を集める。
入母屋造りの正面玄関を抜けると、縦横に梁が走る吹き抜け空間が広がる。右手75畳の大広間には囲炉裏があり、正面には豊漁を祈った二間半もの大神棚が置かれている。
大広間のある場所は、網元の母屋で帳場だったところ。ここでは漁の後に会食が行われ、芸者を交え大勢が集いにぎわったという。
客室は本館に10室と棟続きの新館に7室ある。四方を海に囲まれて建つ新館は、自家源泉を引いた内風呂をはじめ見晴らしがいい。中でも絶景の特等席は最上5階を丸ごと貸し切りにする客室「鶴」。ベッドルームでは寝転んだまま海が見える。
絶景露天風呂と北海道の山海の幸
大浴場に併設する露天風呂からの眺めもいい。街の明かりが灯る薄暮の頃、月夜、半島が浮かび上がる朝、海と空の青に癒される日中など時間帯でがらりと表情をかえる。
敷地内から湧く温泉は、海辺の温泉らしく、ナトリウム-塩化物強塩泉。顔をぬぐうだけでもしょっぱい味がする。あたたまりの湯であり美肌作用もある。
部屋で楽しむ夕食は、北海道の味覚をふんだんに用いた和食。寿司懐石も用意する。朝食も地の幸を存分に味わえる。本館に隣接する「グリル銀鱗荘」ではフランス料理のランチとディナーも楽しめる(水・木曜休み)。
道内に鰊御殿は残るものの、宿泊できるのはここだけ。望楼から夕日や朝日に染まる港町を見下ろした時、「鰊漁で賑わった親方の時代を思い、同じ海を眺めている」と感動した。文化財の旅館では瞬時にタイムトリップできるのが何よりの魅力だ。