環境リスクを想定したシナリオが
信用を生み出す

――環境NGOが企業経営に与える影響も強まっているわけですね。


藤井氏 NGOも自ら株を持ち、株主として自由に提案を行えます。その提案に対し、欧米の年金基金や資産運用会社などの機関投資家が賛同を示す。彼らは「社会的に意義があるから」として賛同するのではなく、むしろ「企業が変わってくれないと、株価が下がってしまうから」という投資の視点での判断基準を示すわけです。従って、企業が変われば、つまり企業が環境リスクにきちんと対応するようになれば、機関投資家は“買い”の評価を下します。

環境コストへの対応が金融市場からの評価にも影響を及ぼす時代に (PHOTOGRAPH BY M. B. M. / UNSPLASH)

 今や日本株全体における外資が保持する株の割合は3〜4割にものぼります。企業によっては、8割近くの株を外資が持っていることも珍しくありません。今後はそうした“変化を求める株主”がグローバルな目線で、日本企業の経営にさらなる変革を求めてくるでしょう。グローバルなビジネスをやっているのなら、グローバルな問題に応えなさい、さもなければ株を売りますよ、と。そうしたことが、既に日本でも起き始めているのです。

――国内外の金融市場の変化を受け、企業は非財務要因に対する取り組みをどのように行えばよいのでしょうか。

藤井氏 まずは10年、20年先の“自社の絵”をきちんと描くことです。具体的な手法としては「シナリオ分析」*1が挙げられます。「株価がいくらに下がったら…」「円高がここまで進んだら…」といった財務要因はもちろんのこと、たとえば「平均気温が4度上がったら…」「この規模の天災が起こったら…」など、非財務要因のネガティブな条件の展開も想定したシナリオで評価することが求められます。

 その上で各条件に対し、「たとえそうなっても、損失はこの程度で済む」、あるいは「こんな手立てを講じるので大丈夫」との備えをし、それらの対応コストを、財務諸表等で可視化する。非財務要因で起こり得るネガティブなシナリオにも対応できる事業計画や中長期経営計画を立て、財務への影響を含めて「見える化」することが、投資家からの信頼向上につながります。

*1  戦略立案する上で、不確実なリスク要因に対処するべく、複数の異なる条件を設定して分析する手法。

――非財務要因に向き合う上で心がけるべきことは何でしょうか。

藤井氏 日本の場合、環境問題や社会問題への取り組みを、環境配慮、社会配慮といった形で、“配慮”にとどめる傾向があります。環境や社会のことも踏まえて事業に取り組んでいますよ、というメッセージがこれに当たります。他にも、グリーンビルディングや、農業の有機栽培等も、「環境配慮」を強調しますね。もちろん、「配慮」すること自体は悪いことではありませんが、目的が“配慮”だけだと、景気や業績が悪化した時にはリスク対応のコストを削減されかねません。

 優先すべきことは「自社にとっての環境リスクは何かを把握し、リスクが顕在化しないように、一定のコストをかけて、抑えること」なんです。単に環境に良いことをするのではなく、企業本来の「リスクマネジメント」としてとらえる、ということです。