変わらないことのコスト」の方が遥かに大きい

――“一時的な配慮”から持続的な取り組みへと変えるには、発想の転換が求められそうです。

藤井氏 環境リスクを評価し対応することは、時に企業の本業のあり方にかかわることもあり、企業にとって避けたい場合があります。政府も、経済の中心にいる企業には、強制的な規制をかけづらい。政府がCO2を削減するために、電力会社に対して「石炭火力も、天然ガス火力もダメ」との規制をかけようとしたら、電力会社だけでなく、電力を消費する企業からも反対の声があがる可能性があります。

 しかしグローバル課題としての温暖化問題が切迫する現状を踏まえると、「変わらないことのコスト」の方が遥かに大きい。そもそも製品やサービスは消費者が選ぶので、環境負荷の高い事業の製品・サービスは、消費者から遠ざけられ、競争に負けてしまいます。気候変動が進展すると、政府は企業を転換させるための政策を取らざるを得ないし、企業側も気候リスクに備えないと、自社の本業の持続可能性が揺らいできます。「変わること」を受け入れ、直面する環境、社会リスクを抑えるためのコストを最小化することが、持続可能性を高めると思います。

 そうした対応を迅速にやって非財務要因をリスクマネジメントにうまく取り込める企業には、結果として投資家からの資金も集まり、ビジネスチャンスが生まれる可能性が高まります。リスクマネジメントをサポートするビジネス等の市場も拡大します。環境、社会の非財務要因のリスク対応に取り組むことで、新たな事業展開と市場拡大の好循環が生まれるわけです。今はまさにその転換点であり、この流れは避けようのないものだと思います。

――様々な企業が取り組みつつあるグリーン購入活動に関しては、どのように見られていますか。

藤井氏 企業が非財務要因のリスクに備える取り組みは、事業活動の仕入れ・購入プロセスも例外ではありません。グリーン購入の視点、つまりは企業が購買する製品・サービスについても環境を配慮し、「価格やスペックに表れない環境面や社会面の価値を重視する」ことが一層求められるでしょう。たとえば機材や包装に再生プラスティックを使っているかとか、サプライチェーンでの格差是正や雇用・教育への貢献等も求められます。

 グリーン購入についても前述したように「環境配慮にとどまらないこと」が重要です。環境配慮製品だからといってコストを考えないと、製品価格が想定以上に上昇する可能性もあります。そうなると消費者離れが起きかねません。繰り返しですが、環境等の非財務のリスクを推計し、そのリスクを抑制する最適コストを把握することによって、リスクを減らし、収益を維持できるのです。それがまさに「持続可能な経営」の土台です。

――最後に、環境金融の視点を経営に取り入れようと取り組む企業にメッセージをお願いします。

藤井氏 この先は多くの企業が、これまで述べてきたような「環境リスクをきちんと把握し、そのリスクを低減するコストを払う」ことに取り組むようになるでしょう。そのうえで大事なことは、そうした対応とプロセスを、市場、消費者に伝える「メッセージ力」だと思います。

 例えば、「あなたの使っている製品は、こんなふうに社会に貢献している」、「こうした取り組みを通して、我々は将来こんなところを目指している」といった具合です。こうした「製品ストーリー」を伝えることで、ユーザーも「企業が取り組む環境、社会的価値」を共有することができます。ユーザーとの価値観の共有は、製品・サービスの市場価値を高めることにつながります。これらのことを実行できる優秀な経営者が日本にはたくさんいると思います。今後の展開を期待しています。

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