文=渡辺慎太郎
クルマの嬉しさみたいなものがなくなる?
電気自動車と自動運転は、クルマ好事家にとってみれば絶望的な世の中の襲来に違いないでしょう。「エンジンの吹け上がりが気持ちいい」「意のままに動くハンドリング」など、クルマの嬉しさみたいなものがすべてなくなってしまうと思ってしまうからです。自分のようなクルマを評価することを生業としている身にとっても、特に自動運転は死活問題で、運転してどうこう偉そうなことを普段はのたまわっているのに、そもそも運転しなくていいというならそれこそ“お手上げ”になってしまうからです。
でも私達が子供の頃に夢見た未来のクルマのように、ボタンをポンを押しただけであとはクルマが自動的に目的にまで連れて行ってくれる世界は、少なくとも自分が生きているうちには多分巡ってこないと思っています。技術的にはほぼその領域に達しているものの、法律や規則の整備が追い付いてこないからです。特定のエリアや一部の公共交通機関での運用はそう遠くないうちに始まるかもしれないけれど、自家用車に完全自動運転(=レベル5)の機能が装備されるにはまだまだ時間がかかるだろうし、万が一装備されたとしても、自分で運転するか自動運転に任せるかの選択ボタンがあるだろうから、運転する機会がゼロになることはないはずです。
自動運転のクルマが普通に道を走る時代に向けて、自動車メーカー各社はいまからその準備に余念がありません。トヨタ自動車は4月8日に高度運転支援技術の新機能のである「Advanced Drive」を搭載したトヨタMIRAIとレクサスLSを発表しました。“高度運転支援技術”という漢字だらけの表現は、自動運転が法律的にまだ許可されていないので誤解を招く恐れのある「自動運転」という言葉が使えず、「条件が整えば高度な技術によってドライバーの運転をサポートします」と若干回りくどくなっているわけです。
さまざまな機能がある高度運転支援技術
将来的に自動運転を見据えた高度運転支援技術はメーカーによってコンセプトが異なり、トヨタの場合は「人とクルマがお互いの気持ちを通わせ合いながら仲間のように走る」とし、これをMobility Teammate Conceptと呼んでいます。高度運転支援技術にはさまざまな機能があって、それらをまとめてToyota Teammate/Lexus Teammateと呼びすでに展開されていますが、今回あらたに加わったのがAdvanced Driveです。これは事実上の自動運転のレベル2に相当するもので、高速道路や自動車専用道路の本線上のみで使用することができます。このシステムを起動すると、ドライバーはステアリングとペダルの操作から解放され、車線と車間の維持、車線変更、追い越しなどはクルマ側がやってくれることになります。
クルマの周りの状況は、これまでのミリ波レーダーとステレオカメラに加えて望遠カメラ/LiDAR/高精度地図に基づく情報を組み合わせてモニタリングします。LiDARとはLeaser Imaging Detection and Rangingの略で、レーザーを照射して対象物の距離だけでなく位置や形状までも検知するセンサーです。モニタリングするのはクルマ周りだけでなく、ドライバーも含まれます。メーターパネルの前に置かれたドライバーモニターカメラは、ドライバーの顔の向き、目の開閉状態、視線の方向、運転姿勢などを見ていて異常があれば警告を発し、警告にも応答しなかった場合はドライバーの運転継続が困難と判断してハザードランプを自動点滅させながら速やかに減速し路肩があれば路肩に停車。ドアロックの解除やヘルプネットによる自動救命要請まで行ってくれるそうです。
Advanced Drive装備のレクサスLSを首都高速で試す
今回はAdvanced Driveを装備したレクサスLSを、首都高速で試してみました。首都高本線に合流して間もなく、メーター内に「Advanced Drive Ready」が表示され、ステアリング上のボタンを押せばシステム起動となり、条件が整っている限りドライバーの手足は運転から解放されます。ただ、レベル2相当では運転の責任はドライバーにあり、システム作動中でも運転以外の行為は禁止されているので、臆病な自分は両手をステアリングに添え、右足はブレーキペダルに乗せていました。
走る/曲がる/止まるの所作はいずれもとても上手で、都内の道に慣れていないタクシードライバーよりはずっと安心して運転を任せておけるレベルです。加減速もステアリング操作も極めてスムーズでした。基本的には車線の真ん中を走りますが、例えば大型トラックなどが左側に来た場合には車線内の右寄りにスッと動いて圧迫感を軽減してくれます。また、左側から合流してくる車両がいるときには減速してスムーズな合流を促すといったきめ細かい制御が働いて、なんとなく日本人らしさのようなものを感じてしまいました。
周辺の状況と道路環境を考慮して車線変更可能と判断すると、「追い抜きますか?」という提案が表示され、ドライバーが「はい」を選択すると自動的に車線変更を行います。こうしたクルマとドライバーのやりとりが前述のMobility Teammate Conceptというわけです。完全自動運転が実現するまでは、おそらくこうしたクルマとドライバーとのやりとりによって、高度運転支援技術が活用されていくと思われます。
このシステムのソフトウエアはOTA(Over The Air)による通信での更新が可能で、クルマを購入後も常に最新の状態が保てるとのこと。クルマもようやく、パソコンやスマートフォンのようにアップデートができる時代にもなったのです。