サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏
サイボウズが主催する「Cybozu Days 2025」が10月27〜28日、幕張メッセで開催された。「ノーコードAIランド」をテーマに掲げた今年、過去最大の142ブースが出展し、市民開発とAIの融合が本格化する時代の到来を告げた。基調講演では、AIファースト企業を目指す関西電力のDX戦略が語られ、続くプロダクトキーノートでは、kintone(キントーン)をはじめとするサイボウズ製品の2025年ロードマップが明らかにされた。企業変革の最前線で、AIとノーコードはどのように融合し、組織の進化をいかに加速させるのか。その戦略的意義と実践の要諦を探る。
AIファースト企業を目指す関西電力のDX、8つの要諦とは?
「今年のテーマ『ノーコードAIランド』には、生成AIの力でノーコードランドをさらに広げていこうというメッセージを込めています」。メインステージに登壇したサイボウズ代表取締役社長の青野慶久氏は、こう宣言した。そして会場に向けて、「AI活用を企業の進化につなげられるかどうかは、皆さんにかかっています」と呼びかけた。
サイボウズのノーコード業務アプリ開発基盤「キントーン」は、すでに4万1000社に導入されている。「Cybozu Days」は、このキントーンをはじめとする最新のプロダクトやソリューションに触れ、実践知を共有する場として年々進化を遂げている。
基調講演のゲストとして登壇したのは、関西電力IT戦略室長の上田晃穂氏だ。
関西電力 IT戦略室長 上田晃穂氏
同社は2030年頃に到来すると想定される「AI産業革命」を見据え、2024年夏にDX戦略のスコープを全面的に見直した。DXビジョンとロードマップを再構築し、組織全体の変革に舵を切った同社の取り組みは、多くの日本企業にとって示唆に富む。
上田氏が掲げる「DXで成果を出し続ける要諦」は、以下の8点である。
①危機感の共有と好奇心をベースに機会を捉える
②顧客志向
③ワクワクするビジョンを描く
④課題 × デジタル = 価値 → 成果 → 成長・変革
⑤AIは良い「データ」を浴びて成長する
⑥DXを「実行」できる人財の育成
⑦安心して挑戦・失敗できる組織風土を戦略的に作り込む
⑧強力な両利きのリーダーシップ(変革型/共感型)
このうち青野氏が「面白い」と注目したのが、③の「ワクワクするビジョン」だ。上田氏は「端的に言えば、JTC(Japanese Traditional Company、日本型従来企業)である関西電力が『AIファーストカンパニー』を目指すということです」と明かした。
上田氏によれば、JTC型の経営が42.195kmのフルマラソンだとすれば、AIファーストカンパニーは「100メートル走422本分」に相当するという。予測不能な時代においては、ゴールや進む方向が常に変わる。そのため、短いサイクルで仮説と検証を高速に回し、誤りがあれば即座に軌道修正できる走り方が必要になる。この比喩は、DXの本質が単なるデジタル化ではなく、経営の時間軸そのものを変革することにあることを示唆している。
⑤の「AIは良い『データ』を浴びて成長する」について、上田氏はデータの精度と鮮度を保つ「データライフサイクルマネジメント」の必要性を強調した。特に「どんなデータがあれば課題を解決できるか」を検討するニーズ管理が鍵を握る。関西電力では各部門に「データスチュワード」を任命し、専門研修を経て自部門のデータ管理と活用を推進している。
⑥のDX人材育成では、人事戦略や制度との連動が重要だと指摘。同社ではDXの成果を上げた社員を表彰する制度を設けており、これが「取り組みやすく効果の大きい施策」だという。「今後は評価・報酬制度を整備し、関西電力のDXの取り組みの評判を聞いてDXを志向する人材が集まるという、ポジティブなサイクルをつくっていきます」と上田氏は展望を語った。
より多様な情報を扱えるプラットフォームへ──2025年のキントーンの進化
トークセッションを受けて青野氏は、「サイボウズはIT企業として技術を提供していますが、それを変革につなげるのは人だと改めて実感しました」と述べた。続くプロダクトキーノートでは、サイボウズ 執行役員・開発本部長の佐藤鉄平氏が登壇し、今後のプロダクトビジョンを語った。
「私たちがプロダクト改善の先に目指すのは、より多様なお客さまが、より多様な情報を扱えるプラットフォームです。特定の業務だけでなく、広範囲において業務がシームレスにつながり、個々のメンバーが主体的に活動できること。それがサイボウズの理念『チームワークあふれる社会』の実現につながっていくのだと考えています」
サイボウズ 執行役員・開発本部長 佐藤鉄平氏
佐藤氏の言葉を受け、ノーコード業務アプリ基盤「キントーン」、グループウェアの「Garoon(ガルーン)」と「サイボウズ Office」の2025年アップデート情報が紹介された。
キントーンでは、業務プロセス管理で代理承認が可能なプロセスを設定できるようになった。承認者が不在でも代理承認や申請差し戻しが可能となる。また、検索機能も強化され、絞り込み条件の指定項目が拡充した。
運用管理面では、アプリ管理者になれるユーザーを制限する「アプリ管理者制限」や、アプリを一時的に非公開にする「メンテナンスモード」を新たに追加。さらに、共有メールを指定アプリに自動登録する「メール共有オプション」の新機能も加わり、管理性が大幅に向上した。
今年8月には、キントーン・Garoon・Microsoft 365の主要サービスをノーコードで連携できるオプション「連携コネクタ」も発表された。基幹システムのデータをExcel経由でキントーンに反映したり、キントーンのデータをGaroonのスケジュールやTeamsへ投稿したりといった連携が可能になった。また、カスタマイズ性を高める新たなAPIも続々と提供されている。今年1月に追加された「UPSERT REST API」は、一度の呼び出しで指定したレコードの存在有無に応じて更新または新規登録を行う機能を実現した。
サイボウズ Officeはキントーンとの連携強化やモバイル対応を推進。GaroonもモバイルUIや通知機能の改善に加え、管理機能の拡充が図られる予定だ。
誰もがAIを使える環境へ──サイボウズ製品とAIの融合
続いて登壇したサイボウズ マーケティング本部 マーケティング戦略部長の山田明日香氏は、今年4月に提供開始したAI搭載の業務改善プラットフォーム「kintone AIラボ」を紹介した。(当機能はスタンダードコース以上で利用できる。)
「kintone AIラボは、誰もが簡単に安心して利用し、チーム全体でAI活用ができるように設計されています。業務改善意欲のあるメンバーがチームのデータを活用してアプリを作成し、そのデータを蓄積して次の業務改善へ生かす。このサイクルが、より強く柔軟なチームへの進化を後押しします」
サイボウズ マーケティング本部 マーケティング戦略部長 山田明日香氏
このプラットフォームで提供されるAI機能は、「データ活用の支援」と「市民開発の支援」の2つに大別される。
前者の例として、「検索AI」がある。社内規程やマニュアル、問い合わせ履歴やFAQなどの社内情報をAIとのチャット形式で検索できる機能で、モバイル対応により社外からでも利用可能だ。今年10月にはチャットで指示するだけでキントーン上のレコード一覧を分析・要約する「レコード一覧分析AI」がリリースされた。議事録や日報といったテキストベースの定性情報の把握・活用が各段に容易になる。
後者の市民開発支援では、AIに相談しながら業務アプリを構築できる「アプリ作成AI」や「プロセス管理設定AI」が提供されている。ITの専門知識がない現場担当者でも、容易にアプリ開発が可能になる機能だ。
ただし、市民開発が広がると、組織内で正式に管理されない「野良アプリ」が増える懸念もある。そこでサイボウズは、システム管理者が定めたガイドラインに沿ってAIがアプリ設定をレビューする「アプリ設定レビューAI」を近日リリースする予定だ。
山田氏は、多くの企業でアプリ作成ルールの周知徹底や管理者の個別チェックに苦労している現状を挙げ、「AIで管理体制を支援する機能を開発した」と説明する。この機能により、アプリ名の命名規則、アクセス権設定、個人情報の扱いなど、ルールに沿ってAIがアプリをチェックし、作成時にアドバイスを提示する。ガバナンスとイノベーションの両立──これは、多くの大企業が直面する課題への実践的な解答と言えるだろう。
なお、AIの導入はキントーンにとどまらない。サイボウズ OfficeとGaroonにもAI機能が搭載される予定だ。入力した文章の誤字脱字や表現をチェックする「校正AI」、使い方や機能を質問できる「ヘルプAI」、長文コメントを要約する「要約AI」といった機能がベータ版で提供される。
AIとキントーンを軸に広がるエコシステム、さらなる進化へ
山田氏は「AIが可能にするエコシステムが、さらなる進化を実現させます」と語る。キントーンとGaroon、サイボウズ Officeとの連携、他サービスとの連携、キントーンのカスタマイズ拡張、サイボウズのオフィシャルパートナーの関連サービスなど、AI活用を軸にエコシステムは大きく広がっている。
また、開発者向けには、サイボウズ製品と大規模言語モデルを連携させる「AIモデル JavaScript API」を準備中だという。
続いて登壇したサイボウズ エンタープライズ事業本部 エンタープライズプロモーション部長の池田陽介氏は、エンタープライズ強化のキーワードとして「市民開発基盤」「データ活用」「ガバナンス」「グローバル」の4つを挙げ、それに沿う新機能を紹介した。
サイボウズ エンタープライズ事業本部 エンタープライズプロモーション部長 池田陽介氏
大企業向けプラン「ワイドコース」には、この日初公開となった3つの機能が含まれる。「外部システムのアプリ化」(外部システムのデータをリアルタイム参照・更新)、「性能ダッシュボード」(キントーンの性能モニタリング)、「性能カスタマイズオプション」(アプリ用途に応じた性能調整)の3つだ。
また、大企業での市民開発を安全・効果的に進めるノウハウをまとめた「市民開発ガイドライン」も新たに公開された。エンタープライズユーザーコミュニティ「キントーン Enterprise Circle」の成功・失敗事例に基づいており、無料でダウンロードすることが可能だ。
池田氏は「キントーンを軸に、企業内の全ての情報をつないで目の前の業務を改善することで、組織や企業文化が変わり、企業そのものも社会も変わっていく。そんな世界の実現を後押ししたい」と今後を展望する。
再び佐藤氏が登壇し、研究開発中の新機能を紹介した。ワイドコース向けには「複数ドメイン管理」を提供予定だという。部門・拠点・子会社といった複数ドメインを統合管理でき、運用コストの削減やセキュリティ向上につながる。
また、ノンデスクワーカー向けのタブレット最適化機能も開発中であり、現場に適した入力インターフェースを簡単に構築できるようにする。佐藤氏は「AIは新しい分野で、まだまだこれから活用していくフェーズにあります。そんなAIに安心してチャレンジできるよう、今後もプロダクトを進化させていきます」と力強く語った。
最後に登壇した青野氏は、こう締めくくった。「市民開発を進めていく上では、自社と相性のいい伴走パートナーを見つけることが重要なポイントになります。この2日間のCybozu Daysを、その機会としていただければ幸いです」
AIとノーコードの融合が生み出すのは、単なる業務効率化ではない。それは、組織の一人一人が変革の担い手となり、企業全体が継続的に進化し続ける「変革の文化」そのものだ。サイボウズが描くビジョンは、テクノロジーを民主化し、現場の創意工夫を解き放つことで、日本企業の変革を加速させることにある。Cybozu Days 2025は、その未来への道筋を鮮明に示した。
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