中小企業においても、持続的な成長を遂げるためのDX推進の意欲がより一層高まっている。そのような中小企業の支援者として、地域金融機関の役割も重要だ。サイボウズでは日本全国の20以上の金融機関と連携して地域企業のDX推進を支援している。全国各地で開催されている「DX経営スペシャルセミナー」もその一環だ。7月29日には同社とコミュニティ・バンク京信(京都信用金庫)および京信システムサービスとの共催でセミナーが行われ、中小企業の取り組み事例などが共有された。平日にもかかわらず京都府内40社ほどが参加し関心の高さがうかがえた。当日の様子をレポートする。

老舗染物店を自走型組織へ変えた、業務プラットフォームと“学ぶ風土”

 第一部:KEYNOTE「サイボウズ代表・青野とkintone(キントーン)ユーザー経営者が語る 経営者が行うべき自走できる組織の作り方とは?」では、サイボウズ 代表取締役社長の青野慶久氏と、岩手県一関市で107年続く京屋染物店 代表取締役の蜂谷悠介氏がオンライン動画形式で登壇した。

 京屋染物店はかつてアナログな業務体制に悩まされ、指示書は手書き、在庫管理も属人的で、現場と営業の間にたびたび情報の行き違いが生じていた。

 4代目社長の蜂谷氏は、その状況を打開すべく業務プラットフォームの導入を決断した。だが、外注で100万円をかけたシステム開発にも一度は挑戦したが、現場には定着しなかった。転機となったのが、キントーンと伴走支援者の存在だった。当初は顧客管理・販売管理・受注管理の業務アプリを蜂谷氏自身が作っていたが、今ではそれを社員がどんどん進化させている。

 情報の共有も進んでいる。「製造工程ごとにタスクの山がグラフで出てきます。見れば誰でも“いま縫製部が詰まっている”と分かる。すると、誰に言われるでもなく、みんなが手伝い始めるようになりました」。これまで厚く立ちはだかっていた部署の壁が、自然と崩れていった。

 同社では染め物業にとどまらず、社員や地域の声を起点に多様な新規事業が立ち上がっているという。蜂谷氏が「当社では、誰もが操縦かんを握れる『多パイロット型組織』を目指しています」と語るように、文字通りの自走型組織への変革を進めている。

A3用紙24枚のシフト表からの脱却 地域金融機関と挑んだ介護DX

銭形グループ 代表取締役 上野 眞司 氏
総務部 部長 佐々木 一喜 氏

 第二部:CASE「身近な事例からヒントを得る 地域金融機関×キントーンで進めるDX」では、京都市内に本社を構え、デイサービスや訪問介護などの事業を行う銭形グループの代表取締役の上野眞司氏、総務部 部長の佐々木一喜氏が登壇し、同社の取り組みを紹介した。

「十数年前には、A3用紙24枚をつなぎ合わせて、約3000件の訪問予定を鉛筆で手書きしていました。深夜2時、3時まで責任者がシフトを組んでいました。間違うし、消えるし、とにかく非効率。『こんなこと、いつまでやらなあかんのやろ』って、みんなで愚痴っていたのです」。そう語るのは、銭形グループを率いる上野氏。当時、介護業界では電話とFAXが主な連絡手段で、メールすら使わない事業所も珍しくなかった。

「まず始めたのがExcelへの移行でした。予定を入力し、ファイルサーバーに置き、50インチのテレビ2台に映して共有しました。でも、最初は“手書きの方が速い” “パソコンは苦手”と大反発が起きました」(上野氏)。それでも粘り強く繰り返すうちに、その便利さに現場が気づき、徐々に定着していったという。

 だが、Excel管理にも限界があった。最新版の判別、同時編集の不可、データ損失のリスク——そんな課題に直面したとき、上野氏はコミュニティ・バンク京信(京都信用金庫)に相談する。

「京信さんからIT支援のグループ会社・京信システムサービスさんを紹介してもらいました。業務の棚卸しから始め、“クラウドで一元管理する” という道筋を示してくれました」 

 そこで構築されたのが、キントーンによる「利用者請求統合管理アプリ」だった。顧客台帳や請求、集金状況をすべて一つのシステムで管理。検索や集計、進捗確認までリアルタイムで行えるようになった。

 さらに、現場への展開が加速したのは、総務部・佐々木氏が主導したアプリ開発がきっかけだった。現場職員も参加してアプリ開発会議を開催し、帳票をキントーン内に組み込み、作成と同時に一覧に反映される仕組みを作った。更新漏れがなくなり、担当者のチェック工数も大幅に削減された。

「『これなら使える』と、現場にすっとなじんでいきました。主任クラスの職員が日常的に使うようになって、キントーンが“総務のもの”から“現場の道具”へと変わりました」(佐々木氏)

「休暇申請アプリ」など、便利なアプリも社員主導で生まれてきた。LINEでバラバラに来ていた休みの希望を、アプリで一括入力。管理者側はカレンダーで一覧にできる。使う人と作る人が分かれていないこと、それが現場主導の定着につながった。

現場での積極的な活用も進み、社員主導のアプリ開発も行われている。
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 キントーン活用により生まれた成果は、上野氏の予想をはるかに超えていた。「以前はあきらめていたような売上分析が、今ではアプリで一発。9事業分を一つの画面で確認できるようになりました」。蓄積データから素早く抽出・検索でき、意思決定のスピードが格段に向上。外出先からでも、スマホで進捗確認・指示が可能になった。現在、各種クラウドと連携し、契約書や記録まで一元化する“業務ハブ”としてキントーンを拡張中だ。

「DXは大企業の話に思われがちですが、実は中小企業にこそ必要です。むろん、自分たちだけでは進められませんでした。そんな中で、京信さんという最高の伴走者と出会えました。あの出会いがなければ、今の姿はなかったと思います」と上野氏は振り返る。

お客様の“めんどうさ”に寄り添う、「おせっかいバンカー」の伴走型支援

 第三部:ACTION「デジタル化の進め方とは? キントーンのご紹介と支援サービスのご案内」では、コミュニティ・バンク京信(京都信用金庫)および京信システムサービスが取り組む、地域金融機関の「DXコンサルティング」が紹介された。

「デジタル化は目的ではありません。あくまで課題解決の手段の一つです」

 そう語るのは、コミュニティ・バンク京信(京都信用金庫)の「京信デジタルLab」代表で、企業のDX支援に取り組む石割丈視氏だ。石割氏は営業担当としての現場経験を生かしながら、顧客の業務課題に深く入り込み、最適な支援策を導き出すのが得意だ。

コミュニティ・バンク京信(京都信用金庫) 京信デジタルLab 代表 石割 丈視 氏

「まずは業務俯瞰図をお客様と一緒に描きます。そうすると、社内の誰が何をしていて、どこが詰まっているのかが見えてきます。『あれ?この作業、誰のためにやっているんだっけ?』と、現場の方が自分で気づくこともあります」石割氏の支援は、単なるIT導入ではなく、まさに業務の本質に迫る対話から始まるという。

 その石割氏とタッグを組むのが、京信システムサービス ITコンサルティング事業部 部長の山田浩行氏。自治体向けシステム開発の経験を経て、現在は中小企業のIT導入支援を担当している。

「ITは、いきなり全部変えようとするとうまくいかないものです。まずはExcel業務の改善や、紙の申請書のデジタル化など、身近なところから始めることを提案しています」

京信システムサービス ITコンサルティング事業部 部長 山田 浩行 氏

 山田氏は、100社以上の企業と対話を重ね、いずれもスモールスタートでのDXを推進してきた。

 講演では、ある製造業向けの支援事例が紹介された。「最初は『Excelのファイルがぐちゃぐちゃで、何とかしたい』という相談でした。自社でキントーンを導入してみたけれど、うまく使いこなせなかったとのことでした」と山田氏。そこから伴走が始まり、販売管理・勤怠・見積・受注などの業務をキントーンでシステム化。現場が利便性を実感すると、社内の空気が変わった。

「『これ、便利やな』『もっとこういうの作れへん?』と、現場の方から声が出てきたのです。最終的には、自分たちで営業日報や経費申請のアプリまで作るようになって、私たちがいなくても、どんどん改善が進んでいきました」。山田氏の声には、現場が自走し始めた喜びがにじむ。

 石割氏もうなずく。「京都信用金庫は“おせっかいバンカー”でありたいと願っています。お客様の課題解決のために汗をかく、お客様のために、お節介を焼こうということで、常日頃活動しています」

 山田氏は「私たちは、企業の“めんどうさ”に寄り添います。『なんでこんなことやっているんやろ?』っていう違和感を、ちゃんと整理して、納得できる形に変えていく。それが伴走支援の本質だと思っています」。その語り口は、冷静でありながら、現場への深い共感に満ちている。

京都信用金庫と京信システムサービスが連携し、顧客の“めんどうさ”に寄り添う
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 さらに、両氏が強調するのは、「まず一歩を踏み出すこと」の大切さだ。山田氏は、「その点でキントーンのようなノーコードツールは、中堅・中小企業のようにIT人材が豊富でない企業でも導入しやすく、初期コストも低いため、スモールスタートに適しています」と話す。

 講演では実際にキントーンを使ってアプリを作成する様子がデモンストレーションで紹介された。まさにノーコードで、マウスのドラッグ&ドロップだけでアプリができていく様子に驚く人も多かったようだ。「無料の試用期間もあるので、さっそく今日からでも触れてみてほしい」と山田氏は結んだ。

地域金融機関との連携によって変革を実現

 講演後に、登壇者に話を聞いた。銭形グループの上野氏は、もっとも苦労したのは、紙からデジタルへの最初の移行です。3年かかりました」と振り返る。社員からは何度も「紙に戻してほしい」と言われたという。人は慣れたことを変えたがらないが、上野氏は「それでは絶対進歩しないし、便利にはならない」との信念でプロジェクトを推進したという。

 社員の反発の矢面に立ったのが総務部の佐々木氏だが「中には新しいものをやってみたいという社員もいます。そのような社員を一人、また一人と説得して少しずつ社内に浸透させていきました」と語る。

 上野氏は「従業員には会社の売上高など、これからの目標も伝えています。介護業界にお金の話はなじまないという風潮がありますが、社員の給料を少しでも上げたい、社員を幸せにしたいという目的のために、あえて数字を掲げています」と話す。目標を明確にすることで、社員のモチベーション向上と行動の指針につなげる。そのためにもキントーンが活用されている。

 コミュニティ・バンク京信(京都信用金庫)の石割氏は「京信デジタルLab」の役割について、単なるIT導入ではなく、「現場に寄り添う」「一緒に考える」伴走型支援を行うのがミッションであると紹介した。同Labは、地域企業のDXを支援するため、2024年に社内ベンチャーとして設立した経緯がある。まさにその思いを具現化しようとしている。

 京信システムサービスの山田氏も、「『ツールありき』ではなく、最適な解をお客様とともに見出すのが私たちの姿勢です」と話す。そのために時には無料のツールを勧めることもあるというから徹底している。

 ちなみに、セミナーの会場となった、コミュニティ・バンク京信(京都信用金庫)の施設「QUESTION」は、その名のとおり、一人では解決できない「?(問い)」に対して様々な分野の人が集まり、一緒に答えを探しにいく共創施設だ。まさに今回のセミナーの開催にふさわしい会場といえる。

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