アラン・デュカスさんの提案だった
さて、ここからは今回、メディア向けにガナッシュの発表を終えた北原対馬さんに、七賢とアラン・デュカスとのコラボレーション作品である『アラン・デュカス スパークリング・サケ』『アラン・デュカス サステナブル・スピリッツ』そして新作のガナッシュを楽しみながらお話をする機会をもらえたので、その際の話を少し紹介したい。
まずはこのガナッシュがどう生まれたのか?
「きっかけは酒粕から造られるスピリッツを私たちが造ったことです。酒粕というのは、現代の生活では皆さんに注目されないもので、どんな酒蔵からも出るものですから供給も多い。結果、酒蔵は酒粕を産廃として捨てているという事実があります。でも、うちの酒粕はとても美味しいもので、これはどうにかしないといけないと、私たちは蔵に機器を導入してスピリッツを造ったんです」
「そして、それが完成したときに、私たちはアラン・デュカスさんを仲間だとおもっているので、試してもらったんですね。アラン・デュカスさんはハードリカー好きなんですよ」
反応は?
「トレ・ビアン! 一緒にやろうという話になって出来上がったのが『アラン・デュカス サステナブル・スピリッツ』です。そしてデュカスさんはショコラもやっているから、せっかくなら合わせようよ、という話にもなったんです」
ファミリーの一員
そもそも、七賢とアラン・デュカスとのコラボレーションで『アラン・デュカス スパークリング・サケ』が登場したのは2021年ですよね。日本酒蔵とアラン・デュカスがコラボレーションを実現することも画期的だとおもいますが、それよりなにより、そこからこれだけ関係が続く、ということが異例だとおもいます。
「大事なことですね」
しかも、そもそものきっかけは2017年ですよね?
「そうですね。お付き合いはそこから始まりました。私はそもそも性格的に人とは長く付き合うことを考えるのですが……私たちは出会ってから『アラン・デュカス スパークリング・サケ』を造り出すまでにも2年くらい、お互いが信頼しあうための時間を持ったんですよ。それがすごくよかった。お互いの歴史、文化、企業のフィロソフィー、性格や人となりまで、真髄を理解しようとしあって、そのあとビジネスを始めたんです」
コラボ商品だけでなく、お互いの酒と料理を組み合わせる世界ツアーもすでに3回目。10月22日の東京を皮切りに世界7カ国のアラン・デュカスのレストランを今年も巡ったとのことですが、相性が良いのでしょうか?
「デュカスさんはシェフとしてはもちろんですが、経営者としても信頼しているんです。その信頼はデュカスさんとの時間を重ねるたびに強くなっています。デュカスさんは世界中で2,000人くらいの人を雇用しているようなのですが、私が出会う人、出会う人、皆さん、従業員というよりファミリーの一員、という雰囲気なんです。そういう姿をみると、自分も学ぶべきことがたくさんあって、信頼と同時に、大きな尊敬の念も抱きます」
ということは、七賢もまた、デュカス・ファミリーだとおもわれている、という感覚なのでしょうか?
「そういうことなんでしょうね。当然、ビジネスではありますが、それ以上の信用・信頼が、私たちにはあるのだとおもいます」
ちなみにツアーでの反応はどうでした?
「スパークリング・サケにドザージュをしないのにはびっくりされましたよ」
あ、それは私もびっくりしました。詳しくはこちらの記事で。
「そして、ほぼすべてのレストランでスパークリングに合わせる料理に柑橘類を使っていたのも印象的でしたね。そしてバターはほとんど使わない」
ああ、それはワインのリンゴ酸と乳酸のバランス感覚みたいな話ですね。乳酸が多くある日本酒の場合は、むしろリンゴ酸的な風味を料理で補おうとする、みたいな。
「フランス的な味覚の文化なんだろうな、とおもいました」
そういう意味では、今回のショコラのうちで「ジャワ」はスパークリングとの相性がいいなと感じました。スパークリングの爽やかな側面が際立つのと、ペアリングによってまろやかなシャンパーニュのような雰囲気が出るように感じます。ちなみにツアーでは、スパークリングや七賢のお酒だけでなく、サステナブル・スピリッツも出たんですよね?
「ええ。サステナブル・スピリッツはカクテルとして。NYではマティーニで食前に出てきましたが、コーヒーカクテルやネグローニとして最後に、というのが多かったですね」
事前に北原さんに相談があるわけではないんですね。
「お酒のサンプルは送りましたが、どういうペアリングになるのかは私も楽しみでした」
色々と発見の多そうな旅ですね。
「そうですね。このツアーは来年も続く予定ですからぜひ体験していただきたいです。日本酒とフランス料理のコラボというのはまだまだ珍しいですから」
しかも料理側は、あのアラン・デュカスさんですしね。
「ええ。ファミリーのボスですから」
色々な人がいま、日本酒を復活・復権させようと頑張っていますが、その根本には日本酒が斜陽産業化しているという事実認識があります。あるいは日本の伝統産業の多くに、そういう危機が訪れているのかもしれません。そういうなかで、七賢とアラン・デュカスがファミリー、というのはとても明るい話題だとおもいます。
「1かける1が3になる、ということをやっていかないといけないですからね」
まだまだ知られざる日本酒の魅力を発見できる、と。
「山梨銘醸にもぜひ来てくださいね」
でも北原さんはいらっしゃらないでしょう?
「あんまりいませんね(笑)。日本酒の未来は国際化にありますから!」
じゃあ、こっそりうかがいますので、北原さんはどんどん国外に進出してください。