文=福留亮司

「パシャ」のアンバサダー5人。左からラミ・マレック、ウィロー・スミス、トロイ・シヴァン、メイジー・ウィリアムズ、ジャクソン・ワン Craig McDean Ⓒ Cartier

進化を遂げて登場

 ここ数年のカルティエは、名作ウォッチのリニューアルが続いている。今年も1985年に登場して以来、グラフィカルなデザインで人気の「パシャ ドゥ カルティエ 」が進化を遂げて登場している。

 カルティエのコレクションといえば、「タンク」、「サントス」など、エレガントでどちらかといえば「静」のイメージだが、このパシャは高い防水性を備えてることもあり、活発さやスポーティな雰囲気を持った「動」のイメージを持つ。シンプルなラウンドケースのモデルは、ともすれば没個性となってしまうことも多いが、カルティエの変幻自在のデザイン力によって、とてもグラフィカルで個性的な腕時計となっているのだ。だからこそ、30年以上もの間、愛されてきたのである。

 そんな個性を生かすためなのか、新作のキャンペーンには5人の若手アーティストが起用されている。その布陣は、すでに評価を得ている人も含めて、これからを期待されているホープと言える人物ばかりだ。このキャンペーンによって、「パシャ」のポップなイメージにより拍車がかかるのは間違いなさそうである。

 このキャンペーンについては後述するとして、まずは「パシャ」について語りたいと思う。

 

パシャのルーツは、モロッコ・マラケシュの太守

 「パシャ」の歴史は古い。先に1985年と述べたが、それは現行モデルのスタートであって、その前に長いストーリーがある。1930年代に当時のモロッコ・マラケシュの太守(パシャ)であったエル・シャヴィ公が、カルティエ3代目、ルイ・カルティエに「自宅のプールで泳ぐ際に使える時計が欲しい」と防水時計の製作を依頼したということがその始まりということだ。

 ただ、当時の太守が手にしたモデルは角型で、名前もフランス語で防水という意味を持つ「タンクエタンシュ」だった。その後、43年にラウンドケースの防水時計が製作され、これに「パシャ」という名が付けられている。この時計は、リューズカバー、ラグなど、現在のモデルに採用されているディテールを有しており、これこそが現行モデルの原型といえるものである。

 そして、85年に現行モデルが誕生するのだが、エレガントなカルティエコレクションの中でも、異質な印象だった。原型が防水ウォッチだったため、それを継承していて回転ベゼルが付けられており、かなりスポーティなイメージ。それでいて従来のスポーツウォッチとは、まるで違っていた。

高い防水性能や軍用時計に見られるリューズカバー、とヘビーデューティーな要素を多分に持ちながらエレガントに仕上げられたパシャ。デザイン自体は35年前もから、それほど変わっていない 
Marian Gérard, Cllection Cartier Ⓒ Cartier

 視認性の高いグラフィカルなダイヤル、ケースとチェーンで繋がっているカボション付きのリューズカバー、ストラップと一体化したラグ、などなど、他のどの腕時計にもない独自の個性、そして、どのスポーツウォッチにもないエレガンスが備わっていたのだ。

 今日では、街での着用を主眼においた美しいスポーツウォッチが続々と出てきているが、その走りともいえる。カジュアルはもちろん、スーツやジャケットスタイルにもフィットする、という、いわゆる着る服を選ばない腕時計でもある。

 

新パシャに用意された2つのケース

新しい「パシャ」をみると、あたらめて、そのスタイリッシュさがわかる。左が35㎜径のモデルで、右が41㎜径である
Raymond Meyer Ⓒ Cartier

 そんな「パシャ」が今年リニューアルしたわけだが、今回は2つのケースサイズが用意されていた。日付ありの41㎜、日付なしの35㎜で、どちらもステンレススチールとゴールドが用意されている。主に41㎜サイズのゴールドはイエローで、35㎜のそれはピンクゴールドが採用されているのだが、唯一41㎜サイズでも、スケルトンモデルだけはピンクゴールドのケースがある。

 デザイン自体はそれほど変わってはいないが、ディテールに多少の変更がある。たとえば、リューズカバーを外すと、リューズの下に小さなスペースが現れる。そこにエングレービングを施すことが可能という遊び心が加わっている。

リューズにもカボションカットの石が埋め込まれている。リューズカバーを外した窪みにエングレービングが可能ということだ Cédric Vaucher Ⓒ Cartier

 また、ケース厚が9.55㎜(41㎜モデル)、9.37㎜(35㎜モデル)と薄くなったことも装着感の向上に大きく貢献している。さらに、ブレスレットは工具なしでコマ調整ができる「スマートリンク」機構を備えており、調整が容易、かつ着け心地も柔らかく、ぴったりと腕にフィットするのだ。

シースルーのケースバックから見える、ケースいっぱいに詰まった自社製の「Cal.1847MC」 Cédric Vaucher Ⓒ Cartier

 また、ムーブメントも変更されており、自社製「Cal.1847MC」を搭載。脱進機に非帯磁の素材を使用することで、高い耐磁性を得たものである。防水性、耐磁性の高さに加え、装着感も格段に改良された新しい「パシャ」は、その容姿とも相まって、抜群の汎用性、万能性を備えてるといっていいだろう。

 

新世代のアーティスト5人

Craig McDean Ⓒ Cartier

 新しいキャンペーンは、「パシャ」の普遍性や新モデルの方向性を見据え、新世代のアーティストたちを選んだに違いない。

 選ばれたのは、映画『ボヘミアン・ラプソディ』で見事にフレディ・マーキュリーを演じた俳優、ラミ・マレック、ウィル・スミスの娘で歌手、女優、ダンサーとして活躍するウィロー・スミス、YouTuberからポップスターになったシンガーソングライター、トロイ・シヴァン、K-POP“GOT7”のメンバーとして活躍するジャクソン・ワン、そして、8シーズン続いたドラマシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』のメインキャストだったメイジー・ウィリアムズの5人。誰もが、これからの活躍を期待される逸材ばかりである。

 カルティエ インターナショナル マーケティング&コミュニケーション ディレクターのアルノー・カレズ氏は、次のように語っている。

 「パシャは1980年代に誕生して以来、既存の概念を超えた設計思想、力強さ、画一性を脱したデザインにより共感されてきた。まさに新世代のクリエーターたちのエネルギー、多様性に共鳴するもの。こうした新世代を代表するのが、多才性を持ち、成功を勝ち得たアンバサダーたちです」

 今後は、このアンバサダーたちが世界中のあらゆるメディアに登場することになる。さらには、アンバサダーひとり一人をフィーチャーした5本のショートムービーも公開中である。

 登場してから30年以上も経つコレクションだが、新世代、次世代と言われてもまったく違和感がない。「パシャ」デザインの先見性、普遍性を、ここへきてあらためて感じるのだった。

ステンレススチールの35㎜径モデル(左)と41㎜径モデル(右)。デザインは同じだが、41㎜モデルには4時と5時の間にデイト表示が置かれている Ⓒ Cartier
2モデルともゴールドケースがあるが、35㎜モデルはピンクゴールド、41㎜モデルにはイエローゴールド(スケルトンモデルのみピンクゴールドがある)が用意されている Ⓒ Cartier