ビジネスシーンで「ナレッジ(知識、情報、見聞)」の管理や運用の重要性が叫ばれるようになって久しい。物流不動産ビジネスから物流改善コンサルティング、人財事業まで幅広く手掛けるイーソーコグループの一角を担う株式会社イーソーコドットコムでは、マニュアル作成・共有システム「Teachme Biz(ティーチミー・ビズ)」を活用し、物流に特化したマニュアル「e-Teach」を作り、生産性向上に取り組んでいる。本セッションでは同社の代表取締役 早﨑 幸太郎氏が、そのマニュアルを活用した取り組みと効果について紹介する。
※本コンテンツは、2022年12月8日(木)に開催された株式会社スタディスト主催「“Human Productivity Conference 2022”~ヒトの生産性について考える1日 2nd~」のキーセッション「シン・物流、マニュアル化が定着する人財育成とは」の内容を採録したものです。
グループ55社で、物流不動産ビジネスを展開
イーソーコグループは、物流施設のマスターリース・管理・物流改善コンサルティングなどを行う「イーソーコ」を中核に、物流不動産ユーティリティープレイヤー派遣(人財事業)を手掛ける「イーソーコドットコム」、倉庫リノベーションの企画・設計・コーディネート業務を行う「イーソーコ総合研究所」、営業倉庫を運営する「東運ウェアハウス」など、主要10社を中心に全55社にも及ぶ。コーポレートスローガンには「物流不動産ビジネスで人、社会、未来をつくる」を掲げている。
「物流不動産ビジネスとは、グループ会長の大谷巌一が生み出したビジネスモデルで、『倉庫・物流施設』を基軸とした総合ソリューションです。運送や配送、不動産仲介や時間貸しなど、さまざまな方法で収益化していく『空間活用ビジネス』とも捉えることができます。当社では新しい物流の概念として『シン・物流+α』と表現していますが、物流不動産ビジネスとはこの『+α』の部分です」と早﨑氏は紹介する。
イーソーコドットコムは「物流不動産ユーティリティープレイヤー」の育成と輩出を通じて、イーソーコグループが目指す物流不動産改革に、人財面から挑戦している。「物流不動産ユーティリティープレイヤー」とは、物流不動産ビジネスに最先端のIoTを駆使することで、さまざまな業界のお客さまのニーズに対応し、新たな物流業界を改革・構築できる人財を指す。
物流業界は今、構造的な課題に直面している。「業界のうち99.8%が中小企業と言われます。DXを進めるための人財も枯渇しています。労働生産性を高めるためには業務の標準化、平準化、見える化が不可欠です。そのために当社では、『e-Teach』と名付けた、物流に特化したマニュアルを作成、デジタル化し、物流業界の生産性を上げていく取り組みをしています」
「e-Teach」のベースは、マニュアルの作成、共有、運用がクラウド上で簡単にできる、株式会社スタディストの「Teachme Biz」を採用した。
若手社員が中心となってマニュアルを作成する文化を構築
「実際、業務をマニュアル化しようとしてもなかなか進みませんでした。マニュアルを作らない理由には、わざわざ教えるのが面倒だといった考えに加え、教えてしまうと自分の仕事が取られてしまうのではという意識もあると思います」とe-Teach導入時のハードルについて早﨑氏は話す。
属人化した業務内容を文章による説明に落とし込むのが難しいこともあるだろう。また、デジタルに対する苦手意識がある社員もおり、デバイスの操作に慣れることができるか、マニュアルの電子化は大変ではないかという意識もあった。「無理やり『やれ』といってもできるものではありません。そこで当社では、マニュアルを作る仕組みから変えていくことにしました」と早﨑氏は話す。
その中心となるのが若手社員だ。デジタルネイティブである若い社員がマニュアルを作り、それをもとに後輩に教えていこうとする新しい「文化」を作ることにしたのだ。
「大きなきっかけになったのが、2018年から新卒採用に舵を切ったことです。これから未来を担う人たちを受け入れる準備をしていこうと、まず業務のマニュアル化を進めていきました。物流業界は紙のマニュアルが多く、最初はなかなか難しかったのですが、スタディストの『Teachme Biz』は作るのがとても簡単で、書類作成の経験が浅い新入社員でもマニュアルの電子化を進めることができました。結果、スマートフォンなどでいつでもどこでも作業内容を確認できるようになりました」
重要なのは、ベテラン社員と若手、それぞれの良さをリスペクトすることだという。「ベテラン社員は知識や知恵、経験則を持っていますが、ITは苦手です。逆に若手社員はIT対応力、行動力、アイデアや技術があります。お互いに教え合う文化を作っていくことを大切にしています」
「Teachme Biz」を活用した「e-Teach」を導入することで、どのようなことが改善されたのだろうか。「キーワードで言えば、労働生産性の向上、作業・教育に対しての時間の大幅削減、若手の活躍、属人化からの脱却、物流現場での女性活躍の場が増加、波動対応※が可能になる、など多くのメリットがありました」と早﨑氏は紹介する。
※時期や時勢などで変化する物流の波のこと
イーソーコドットコムではすでに「e-Teach」上に1600に近いマニュアルが作成されている。マニュアルを活用してもらうためには、使いたいときに使いたい場所で確認できる環境が必要だ。倉庫内に掲示されたQRコードをスマートフォン端末で読み込むだけでマニュアルを確認でき、文字だけでわかりにくい現場作業には動画を活用している。紙で確認したい場面もあるため、マニュアル本も用意している。
「作成数の多い社員、閲覧数が多いマニュアルを作成した社員を表彰する制度を設けることで、マニュアル作成を積極的に推進しています」。マニュアルを作成する若手社員にとってもインセンティブとなり、モチベーションも上がるに違いない。
マニュアルジョブローテーションをリンクさせる
イーソーコドットコムにおいてはさらに、全社の経営戦略にも直結する新たな効果も生まれている。
「物流業界では 、いわゆる『波動対応』が重要です。ただし、波動が高いときだけ多くの人を雇うということは難しく、雇ったとしても業務を一から教えるのは負荷がかかります。そこで私たちは、業務のマニュアル化と合わせて、仕事のシェア=ジョブローテーションの方法もマニュアルに落とし込みました。納期が短いときにはグループから派遣支援を行い、人財を入れ替えながら取り組むことで、1日あたりの作業時間を増やす事ができたのです。その結果、ある業務ではこれまで14日間かかっていたところを5日間で終えることが可能になり、売上300%増につながった事例があります」
さらに、新人教育にもマニュアルを活用しているという。同社では入社してから配属されるまでの6カ月間、物流だけでなく不動産や、ビル・倉庫の管理、建築、運送などさまざまな業態でジョブローテーションをかけている。
「教える側と教わる側の情報量も多くなりますが、マニュアル化することで合理化が図れ、生産性が上がるという仕組みを教育の段階で取り入れています」
このジョブローテーションは、企業側だけでなく新入社員本人にとってもメリットがある。「物流だけでなく教育や建築など、様々な知識・技能をかけ合わせて習得していくことでオンリーワンの人間になることにつながります。人財の価値が上がり、収入・キャリアアップにもつながります」
人財活躍にも、自動化を進める前にも、マニュアルに取り組むべき理由とは
早﨑氏が重視するのは、Z世代(1990年代後半~2010年代初め生まれ)といわれる若い人財が活躍できる場を作ることだ。「生まれたときからスマートフォンが身近にあり、SNSなどを当たり前に使っている世代の人たちは、情報や知識を自分だけが持つのではなく、他の人と共有する「シェアリング」の欲求や世界観があると思います。マニュアルにおいても自分の知り得たことをしっかりとみんなに伝えてあげるという文化があります。今後の物流不動産ビジネスを盛り上げ、成功につなげるためには、この若い世代が物流不動産ビジネスを理解し、活躍できる文化をつくることが重要だと考えています」。
一方で、いわゆるベテラン=スペシャリストにはこれからの未来のために若手に技術を伝承することを求める。
「物流に携わっている人たちは、一見ぶっきらぼうに見えますが、実は丁寧に教える人が多いのです。会社としてベテラン社員、若手社員双方にしっかり向き合い、本人のやりたいことを見極めながら、求めるものを分けることで相乗効果も生まれます」と、ベテランと若手がお互いにリスペクトすることの重要性を改めて説いた。
テクノロジーが発達して便利になっても、最後のカギは人であり、心だと早崎氏は語る。
「業務の効率化には RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)などの自動化も有効です。しかし、これらを導入するためには、まず業務フローを見える化し、自動化できるところを把握する必要があります。業務フローを整理する作業は大変ですが、ルーティン業務をマニュアル化し、自動化できるところを自動化すると、人間でしかやれないことに集中できるようになります」
イーソーコドットコムでは、まず人財を大切に、そして物流不動産ビジネスの発展に寄与すべく、属人化しやすい物流業務を仕組み化し「誰でもできる」ようにすることに注力している。その取り組みの中心にはスタディストの「Teachme Biz」をベースにした物流特化マニュアル「e-Teach」があり、着々と生産性向上の道を歩んでいる。こうして生まれた余剰時間がさらなる業務改善の原資となり、ひいては物流不動産ビジネスを盛り上げる力になることだろう。
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