2022年6月に発表された「DX銘柄2022」において、日立建機は「DX注目企業」に選定された。同社で執行役CDIO DX推進本部本部長を務める遠西清明氏は、本格的なDX推進に着手して以降「情熱を持ったメンバーでDXを共創できる環境に変わってきた」と話す。DX活動の全社浸透とオペレーショナルエクセレンスに変革することを目標として、アジャイル手法を導入した同社。その取り組み事例と現在の成果について話を聞いた。
※本コンテンツは、2022年9月29日に開催されたJBpress/JDIR主催「第14回DXフォーラム」の特別講演1「「顧客接点とオペレーショナルエクセレンスへの変革」~CIF(Customer Interest First)~」の内容を採録したものです。
オペレーショナルエクセレンスで顧客課題解決志向を実現する
日立建機では「豊かな大地、豊かな街を未来へ…快適な生活空間づくりに貢献する日立建機」を企業ビジョンに据え、建設機械・運搬機械などの製造・販売・レンタル・アフターサービスの事業を展開している。同社では3つのC(Challenge、Customer、Communication)からなる「Kenkijinスピリット」(価値基準・行動規範)を全従業員が持ち、バリューチェーン事業の強化、サステナブルな社会の実現、建設機械の高度化と安全性の向上といった経営戦略を推し進めている。
DX推進本部本部長を務める遠西清明氏は、現在の建設業界が抱える課題と、それに対し同社がいかに取り組むかを次のように話す。
「良いものをたくさんつくれば売れた時代は終わりを告げ、迎えた『VUCA』時代(※)は高齢化やオペレーターの不足、社会インフラの老朽化などさまざまな課題を抱えています。そこでわれわれは、顧客課題解決志向で物事を進めていくことが重要だと捉え、社内に『CIF(Customer Interest First)』という考えを浸透させながら活動しています」
※VUCA時代:「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(多義性)」の頭文字から成る造語。社会やビジネスにおいて不確実性が高く、将来の予測が困難な時代を指す。
同氏いわく「CIF」という言葉には、安全性や生産性の向上、ライフサイクルコストの低減といった本質的な社会課題を抽出し、それぞれの事業部門の壁を越えて真の「Reliable solutions」の実現を目指していこうという思いが込められているそうだ。
つまり、短期的な顧客不満・ニーズへの対応を超えて長期的な関係を築いていくためには「顧客の課題解決」を最優先するべきだと同社は考えている。日立建機は「顧客課題解決志向」を実現するに当たり「Operational Excellence(オペレーショナルエクセレンス)」の取り組みを重視しているという。
「われわれは2016年から各基幹システムの刷新を進め、2020年に国内5工場+グループ各社・グローバルの販社・代理店で稼働開始しました。同時にDX推進本部が立ち上がり、『全社のDXをリードする組織として、各事業部門とともに推進を目指そう』という方針のもとで、事業価値の創出やビジネスプロセスの改革を主体的に発案し、企業文化の改革につながるような社内の仕組みづくりに着手しました。『まずはオペレーショナルエクセレンスになること』を、第1目標に据えたというわけです」
これに伴い「従来のIT推進本部メンバーだけではDXは前進しない」と考え、各事業部から兼務者34人と専従者を選抜。「業務」と「ITメンバー」を融合した組織を新たに編成した。
しかし、兼務者を中心としたDXメンバーが各部門で率先して現場改革を促進しようとしたところ、「さまざまな社内のコンフリクトが起きた」と遠西氏は振り返る。そこで、初年度の2020年は兼務メンバーの理解度向上を図るために、勉強会や合宿を行うことからスタートしたという。同時に、経営幹部層向けのエグゼクティブセミナーも実施。ボトムとトップの両方から、全社的にDXを展開していくための基盤づくりを行ったそうだ。その後、具体的な各チームの戦略マップ、予算枠・リソースの確保を進め、2021年度にアジャイル開発チームを構成するに至った。
「何事も、特に新しいことを始める際は何が正解かやってみるまで分からないものです。『本当に効果が出るのか』といった声も上がりましたが、『最初から効果を期待しない』という点も理解してもらいつつ、チーム編成を進めていきました。まずは目指す世界観を描いていくことを目標とし、ITのデモではなく、ドラマ・ストーリーを明確化することに注力したのです」