文・写真=永野広志
渋谷のIT企業でコピーライターをしている筆者が、テクノロジー企業に「それ、どうなってるんですか?」と聞いて、しくみを解き明かしていく本連載。第1回は、サイバーエージェントの子会社であり、CGやスキャンなどのテクノロジーに力を入れているCyberHuman Productionsの取締役・芦田直毅さんにインタビューしました。
デジタルヒューマンとは
──おつかれさまです。
芦田 おつかれさまです。
──実は、同じグループ会社に勤めている者同士なので、社内インタビューみたいな雰囲気ですが。
芦田 そうですね(笑)よろしくおねがいします。
──僕自身も、CyberHuman Productons(以下CHP)のことはよくわかっていなくて。
芦田 一言で言うと、先端技術と人間の技術をハイブリッドさせた会社にしようと思っていて。その象徴としてCGで人間をつくる「デジタルヒューマン」という概念に挑戦しています。
──デジタルヒューマン?
芦田 デジタル上に、もうひとりの自分を誕生させるイメージです。そのためには、タレントやモデルを3Dスキャンして、バーチャル空間にもう一人の自分をつくりだす技術と設備。さらにCGで細かく造形を整えていくためのCGアーティストとマシン、その動きの制御や予測にAIを使うのでAIエンジニアなどなど、先端技術を持った人材と設備をすべて揃える必要があります。
──なるほど、「デジタルヒューマン」ができるということは、最先端の人材と設備が揃っているということでもあると。
芦田 はい。これは予測ですが、将来的には誰しもがアバターとして、3Dの自分自身を所有するようになるのではないかと考えています。例えばフォートナイトのようなオンラインゲームに3Dの自分を参加させたり、そういった楽しみ方が生まれてくるのではないかと。
──それに近いようなバーチャルライブイベントにも関わっていましたね。
芦田 kZm“VIRTUAL DISTORTION”ですね。HIPHOPアーティストのkZm(カズマ)さんとクリエイティブ集団のPARTYが主催した仮想空間「VARP」でのバーチャルイベントです。弊社は仮想空間に登場するkZmさんの3Dアバターをスキャン・制作しました。
──将来的にはオーディエンスも3D化されるかもですが、今はアーティストやタレントなどのセレブリティをスキャンすることが多いのでしょうか。
芦田 必ずしもそういうわけではなくて、例えばモデルの方々は現場に自分が行くことを重視されていたりしますね。それに、その方がコスト的にも安くついたり。
──ああ、まだ3Dスキャンの方が高くつく場合が多いんですね。
芦田 はい。なので、すごく多忙で撮影時間を捻出できない方や、本業以外で人前に出ることに積極的じゃない方。アーティスト、スポーツ選手、文化人の方々には好評です。
──たしかに、そういう方々が出てるCMって「言わされてる感」があったりするので、ご本人じゃなくてもいいかも。
芦田 デジタルヒューマンをつくりたい方、お待ちしています。
バーチャルスタジオ構想
──スキャン設備以外に、かむろ坂に実際のスタジオも所有していますよね?これはどういうことに活用しているんでしょう。
芦田 常時グリーンバックを敷いたスタジオがあるので、ここではバーチャル空間での発表会やバーチャルライブなど、イベント性の強いものをやっています。リアルイベントの実施は世界的に難しくなっているので、多くの問合せがありますね。最近では、KEITAMARUYAMAとPITTA MASKのコラボレーションによるファッションショーを行いました。
KEITAMARUYAMA × PITTA MASK
──最近導入したという「LED STUDIO™」とはどういうものなんでしょう?
芦田 2020年10月時点で、サムスン電子製で最先端の巨大LEDウォールとLED照明を常設しているのは「LED STUDIO™」が日本初です。超高密度なLEDパネルで背景をつくることによって、合成しなくても撮影ができるというシステムなんです。大切なのは被写体へのライティングですが、サイドのパネルがLEDの映像変化に合わせてプログラミングできるので、リアルタイムで、背景映像、被写体へのライティングを連動することができる。ハリウッドなどで使われているしくみですね。
芦田 架空の背景を数多く合成するような時に、その場その場で光を調整しながら撮影することができるので、SF作品などでよく使われています。
──なんだかすごいしくみですが、グリーンバックで合成するのと何が違うんですか?正直時間をかければグリーンでもいいような・・・
芦田 まさにその「時間」が大切です。グリーンバックで撮影した後の合成作業って、すごく時間と手間がかかるんですけど、それをショートカットすることで、残りの時間をクオリティアップに使うことができます。また、スケジュールの都合で、撮影から納品までの時間がない時でも、ある程度のクオリティで撮影ができてしまうので、結果的に仕上がりのクオリティがよくなるんです。
──なるほどー。普段広告をつくっている人や、映像のプロデューサーにはすごく理解できる話ですね。
芦田 まさに。これからどんどん実例を増やして、価値を証明していこうと思います。
──いろいろとお話を伺いましたが、AI、CG、スキャン、AR、VRなど、いわゆるテクノロジーを統合させたスタジオをつくることで、どういうビジョンがあり、何を目指しているんでしょうか。
芦田 国内随一のバーチャルスタジオにしていきたいと思っています。今って、ひとつひとつの機材や人材がバラバラに点在していて、統合されたスタジオがないんですね。ハリウッドでは、ひとつの映画をつくる時に、人間的な表現とテクノロジー的な進化が高いレベルで統合されている。日本でもそういったモノづくりができるように、テクノロジーとヒューマニティを両立していきたいなと考えています。
──同じグループ会社に勤める者としても、楽しみにしています。ありがとうございました。
芦田 ありがとうございました。