文・写真=永野広志
渋谷のIT企業でコピーライターをしている筆者が、テクノロジー企業に「それ、どうなってるんですか?」と聞いて、しくみを解き明かしていく本連載。第2回は、スマホで身体のサイズを採寸できるアプリ「Bodygram」の創業者兼CEOのジン・コーさんと最高執行責任者のアイバ レイさんにインタビューしました。
アプリで採寸ってどうやるの?
──本日はよろしくお願いします。
ジン まずはこのような機会をいただき、ありがとうございます。創業のいきさつについては私から。Bodygramの特徴やビジョンについてはレイからお話しさせていただきます。
──ありがとうございます。この取材が成立したいきさつとしては、知り合いのスーツプランナーがオーダースーツを採寸する現場を記事にした時に、「こんなにたくさんの箇所を採寸するんだ!」とびっくりして「これは当分アプリで測るなんて無理かもしれない」と書いたら、御社広報のSさんに「そんなことない!」と怒られまして、だったら取材させてください、ということで、今日に到りました。
レイ そうだったんですね(笑)
──では改めて、Bodygramは、スマホで簡単に採寸ができるアプリということですが、服をきたままでも、どんな背景でも、正面と横から写真を撮るだけで採寸ができるとか。これって、どういうしくみなんでしょう。
レイ アプローチとしては、服を着ている人の輪郭と、同じ人が服を脱いだ状態の輪郭の「差分」をデータをたくさん集めるところからはじめました。
──差分?
レイ はい。人が服を着用した時に、重力でできるたるみや服のパターンによって、輪郭の見え方が変わるのですが、その見た目と、裸になった時の見た目の差を考慮した上でAIが高精度な採寸値を導き出します。そうすることによって、服を着ている写真から、AIが類推して、ヌード採寸の数値を弾き出してくれる、というしくみになっています。
──しくみとしては分かるんですが、その精度はどれくらいのものなんでしょうか?
レイ 絶対平均誤差は約1.5cmです。この数値がどれくらいかというと、例えば複数人のテイラーに同じ人を採寸してもらった場合でも、1.7cmほどのズレはどうしても出てしまう、と言われていますので、プロが採寸する誤差と同等、またはそれ以下の精度で測ることができます。
──それはすごいですね!そこまでの精度を出すには、AIが学習する元となるデータも大量に必要だったのではないですか?
レイ はい。私たちは、約12万点以上のデータセットを持っています。つまり、ある人についての、服を来た際の輪郭と、裸に近い状態のボディ形状データや正確なサイズデータを1データセットとして、その組み合わせを12万点以上持っています。いま、この規模のデータを持っている会社は世界中探してもないと思います。
──それだけの量が精度につながっているんですね。イタリアの老舗テーラーと採寸対決してみてもらいたいです。
レイ それはいいアイデアですね(笑)
きっかけはオーダーシャツ
──そもそもどうしてこのような事業を?
ジン 元々はオーダーシャツのEC事業をやっていたんですが、採寸データを集めるのにものすごく苦労しまして。テクノロジーが進化している現代の中で、採寸だけが手仕事のアナログな世界だったので、これはイノベーションのチャンスなのでは、と思いました。それに、これは、自分がやらなくても、きっと誰かがやるに違いない。だったら自分がやろう!と強く決意しました。
──なるほど。未来にあるべき事業だと。
ジン はい。それに私は、やる!と思ったら、必ずできる!と思い込む性格なので、それで今日まで突っ走ってきました。12万点以上のデータを集めるなんて、毎朝目が覚めて「俺はクレイジーなのか?」と思うこともありますが(笑)。成功すると信じてやってきました。
ボディデータの活用
──ユニクロや花王とのパートナープロジェクトなど「ボディデータ」を中心に事業を拡大されてますが、今後この事業はどのように発展させることができるんでしょうか。
レイ 様々な事業に応用可能だと思ってますが、例えば「遠隔医療」が考えられます。ボディデータの推移は、糖尿病や心臓疾患にとっての参考値として有用なので、病気の予測や診断の参考など、これからの活用に可能性があると思います。
──なるほど、ヘルスケア分野への応用ですね。
レイ はい。実は、iPhoneのヘルスケアとも連携していますので、Bodygramを連携して「胴囲」の推移をグラフ化し、日常的に健康リスクをチェックすることができます。
──既にヘルスケアへの応用は始まっているんですね。お話を聞いて、アプリの精度への疑問は解決しましたし、未来にとっても素晴らしい可能性のあるアプリだと分かりました。本日はありがとうございました。
ジン&レイ ありがとうございました。