文=難波里奈 撮影=平石順一
ある時は美味しい珈琲や定番メニューを求めに。またある時は喧騒から離れ、ひと息つきたい時に。昭和の文化遺産ともいうべき「純喫茶」をこよなく愛する難波里奈さんが、特に珈琲にこだわりのある純喫茶をご紹介。店の数だけ歴史のある、マスターの声に耳を傾ければきっとあなたも通いたくなる。ご期待ください。
店主も店内もあたたかい空間
西荻窪駅から徒歩1分ほど、山小屋風の外観とあたたかな色合いのランプで誘うのは「コーヒーロッジ DANTE」。数年前に全席禁煙となったため、扉を開けた瞬間に珈琲の香ばしい匂いが飛び込んでくる。
その中で美味しい珈琲を淹れて下さるのは、この道50年以上の吹田守弘さん。
今は無き中野の伝説的名曲喫茶「クラシック」のオーナー美作さんからのアドバイスによって、店内が広く見えるように少し低めに造られたカウンターなど、随所にこだわりがみられる。
棚にずらりと並べられたセンスの良いコーヒーカップたちは、吹田さんが横浜や神戸を旅する度にこつこつと集めたものだそう。
DANTEでは創業当時からサイフォンを使用。「本当は30人前を一度に点てて少し加熱して飲むのが好き」と教えてくれたが、現在は注文ごとに丁寧に淹れられている。
いつも無意識にブレンドコーヒーを頼むことが多かったが、DANTEでは「本日のサービス」に見慣れない豆の名前が並んでいるため、興味からそちらを選ぶことが多くなった。お邪魔した日はタンザニアの「ムボジ」。どんな味がするのだろう、とわくわくして待つのは楽しい時間である。
そして、あらためて知ったのはDANTEのアイスカフェオレの美味しさ。今までは冷たいカフェオレというものはどこか珈琲の味が薄く、水っぽい感じがすると思っていた。しかし、こちらで飲んだものは珈琲の味がしっかりしていて、尋ねると珈琲4という割合に対して牛乳が6、シロップはあらかじめ15ccという絶妙な配合が美味しさの秘密。
このようにDANTEでは吹田さんが自分で飲んで美味しいと思える癖の少ない珈琲を提供している。
当初目指していたという音楽の道とは方向性は違えど、50年間店を続けるのは想像以上に大変なこと。珈琲に対するセンスや才能があったという証拠にほかならない。
これからも末永く、ほっとする幸せなひとときがありますように、こちらを訪れるたびに願うのだ。