常葉大学
経営学部 准教授 博士(学術)
小豆川 裕子氏

 新型コロナウイルスの感染拡大は、世界経済の不安定さを増大させる一方で、期せずしてテレワークの導入を加速させるという副次効果をもたらしています。とはいえ、果たしてどのぐらいの企業が成功へのルートを歩んでいるのでしょうか。テレワーク成功のカギを握る組織と文化、リーダーシップなどについて、常葉大学経営学部准教授であり、日本テレワーク学会副会長、日本テレワーク協会アドバイザーなども務める小豆川裕子氏に解説していただきました。

企業は経営戦略との関係でテレワークを捉え始めた

――日本テレワーク協会のアドバイザーをはじめ、関連するさまざまな団体の委員などの活動を通じて企業の取り組みをご覧になっていると思いますが、テレワーク導入にあたっての環境変化や認知度、普及度合いなどについて、どうご覧になりますか。

小豆川裕子氏(以下、小豆川氏) テレワークの普及については2つの調査があります。1つは国土交通省の「テレワーク人口実態調査」です。これは1990年台後半から毎年実施している調査であり、全体の就労人口に占めるテレワーカーの割合などを出しています。平成30年度の調査によると、制度などのある雇用型テレワーカーの割合は10.8%です。

 もう1つは総務省の「通信利用動向調査」で、これは従業員数100人以上の事業所を対象とした調査で、直近の平成30年の調査結果では、テレワークを導入している企業の割合は19.1%となっています。

 どこでも働けるフリーランスの増加や、兼業・副業の解禁、クラウドソーシングなど、世の中ではテレワーク的な動きが増えている一方で、政府の統計では意外と少ないという印象を持つかもしれません。

 ただ大企業に関しては、首都圏を中心にテレワークの導入が進んでいます。私は1990年代後半からウォッチしていますが、この間、何度かブームがあって、個人的には現在のテレワークブームは第6次ブームぐらいかなと思っています。

 では、なぜいま進んでいるのか――。それは政府が人口減少時代を見据えて、競争力強化のために国全体でデジタル化を推進していることが背景にあります。毎年閣議決定される「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」には、テレワーク普及の目標値があります。

 企業の導入率は基準となる年(2016年度)の11.5%に対し、3倍の34.5%、雇用型テレワーカーの実施割合は同じく7.7%の約2倍の15.4%となっています。その実現に向けて、政府は意識改革やノウハウ支援、導入補助、周知・啓発といった普及促進活動を体系的に展開しています。ようやく大都市圏から普及定着が進みつつある中で、現在は地方と中小企業の普及促進が課題になっています。