プロサス 設備部の黒田章太氏(左)と小田凪波氏

「ITなんて無理」──。そう諦めていた創業50年の消防設備会社が、わずか2年でデジタル変革を遂げた。紙とExcelに依存していた業務を刷新し、設備部門の売り上げを倍増させ、年間110万円のコスト削減を実現。その原動力となったのは、1人の社員の挑戦だった。

 2025年10月、サイボウズ主催の「kintone AWARD 2025」※でグランプリを受賞したプロサス。同イベントで語られた中小企業のDX成功ストーリーから、全社展開を成功させる実践的ノウハウを紹介する。

紙中心・属人的Excel・古い慣習・昭和の働き方…アナログ企業の実態に直面

 プロサスは、従業員約50名、創業50年の消防設備会社だ。防災・消防設備用品の販売・点検・工事を手がけ、豊富な実績と経験を武器に成長を続けてきた。

 しかし、社内の実態は「紙中心の書類管理」「属人的なExcel運用」「昭和的な働き方」が残るアナログ企業そのものだった。同社設備部(消防設備士が集まる部署)に所属する黒田章太氏は、「当時の社内は、情報共有の仕組みが整っておらず、各部署が独自のやり方で業務を進めている状態でした」と振り返る。

 転機は2022年1月。販売部から設備部に異動した小田凪波氏が、その実態に直面したことから始まる。

「『設備部でも頑張るぞ』と意気揚々と異動したところ、スケジュールも売上報告も全てExcelで管理されていました。しかも20年以上使い込まれた複数のExcelファイルを、何度も往復しながら確認・作業しなければならない状態でした」(小田氏)

 小田氏はまず、Excel作業を簡単にしようと関数を組み、部員に活用を依頼した。しかし、「よく分からない」「消えてしまった」と言われ、なかなか使いこなしてもらえない。部長からは「Excelを諦めてタスク管理ツールにすれば」と提案されたが、設備部の業務は複雑で、タスク管理ツールさえ使えない状況だった。

「できればカレンダー形式で管理がしたい……」。そう思っていた時、サイボウズに相談したところ、「それ、全てkintone(キントーン)でできます」と言われた。それが変革のきっかけとなった。

まずは設備部だけで導入、わずか1年で売り上げ倍増

「カレンダー形式での案件管理、現場と社内とのやりとり、物件・会社名・顧客情報のひも付け。それらが全て、キントーンでできる。ならば、契約するしかない」。小田氏は2023年1月、設備部だけでキントーンを導入することを決断した。

 早速、案件管理アプリを作ってみたところ、ゲーム感覚で作成でき、元のExcelファイルをそのままアプリに移行できた。誰もが使いやすい案件管理アプリが簡単に完成。プラグイン「カレンダーplus」を導入することで、念願のカレンダー形式での案件管理も実現した。

 さらに、「現場の資料をメールで送ってほしい」という部員のリクエストにも対応。従来は電話を受けながら複数のファイルを開いて資料を探していたが、アプリ内のチャット機能(レコードのコメント欄)により、案件管理画面内で資料請求から送付まで完結できるようになった。

「現場に持参する必要のある資料について、アプリ内に添付ファイルフィールドを設置することで、全ての資料データを添付できるようになりました。点検時にはこのフィールドを見るだけで済み、書類のペーパーレス化に成功しました」(小田氏)

 その後、建物情報や顧客情報を管理できるマスターアプリも作成し、案件管理アプリとひも付け。必要な情報を全て一元的に確認できるようにした。

「マスターアプリのデータは、基幹システムから書き出したCSV形式のファイルをPower Queryで集約し、キントーンにインポートしています。これにより、毎日必要なデータがブラッシュアップされる環境となりました」(小田氏)

 さらに、毎日の更新作業は、外部システムとの連携ができるキントーンの強みを生かし、コマンドプロンプトとタスクスケジューラーを使って自動化した。

 この導入により、案件管理が可視化され、設備部内でのデータ連携や共有ができるようになった。その結果、こなせる案件が2倍となり、売り上げも2倍になった。

各部署にキントーン協力者を立て、1カ月で全社浸透に成功

「導入から1年後、設備部だけがかなり進化し、便利になりすぎて逆に孤立してしまいました。そこで、社内の他部署でもキントーンで業務改善ができないかと思い立ち、異動前に所属していた販売部の業務を見に行きました」と小田氏は振り返る。

 販売部では、書類は伝統的に手書きで作成され、複数のツールを経由しないと業務は進まない状態。さらに、業務を便利にするための業務改善ツールが乱立していて、逆に不便になっていた。また、15年以上使用している古いプラットフォームで業務分担などの情報を閲覧しており、問い合わせから処理完了までには、基幹システムを軸に多くのページやツールを開く必要があった。

「キントーンを使えば効率化できる」と確信した小田氏は、全社導入を目指し、提案書を作成。実に40ページにもわたるPowerPointの提案書で、経営陣にプレゼンを行った。

「古いプラットフォームをどうにかできない?」「基幹システムからマスターデータをキントーンに移せるの?」「営業部の顧客管理は?」──経営陣から次々と質問が飛んだ。

 小田氏は、「キントーンなら全部できます。設備部では既に使っています。準備できています」と力強くアピールした。その結果、「キントーンもいいじゃない」との判断が下され、全社導入が決定した。

 その後、各部署にキントーン協力者を立て、1カ月の浸透期間を設けて導入をスタート。小田氏自らレクチャー会を開催し、その便利さを伝えながら、部署ごとにアプリを作成してもらった。「運用方法が分からない」「アプリの作り方が分からない」といった部署には、小田氏がいつでも相談に応じられる環境を整え、丁寧に対応した。

 こうした取り組みの結果、キントーンは全社に無事浸透した。

全社浸透により年間110万円のコスト削減など業務効率化を実現

 全社にキントーンを導入したことで、さまざまな効果が得られた。

・伝統的に手書きで作成されていた申請書類が廃止され、ペーパーレス化を実現

・古い仕様のプラットフォームや乱立していた業務改善ツールを、キントーンの画面に集約。使い勝手の良いUIに整理され、スマートフォンでも見やすく業務での活用がしやすい環境に

・有料の業務ツールの機能をキントーンのアプリに集約したことで、年間110万円のコスト削減に成功

・必要な報告書の作成や次年度の予定表もワンクリックで実現でき、時短とミス防止を実現

「『これだけの業務改善をするには、費用も相当かかるのでは?』と思われるかもしれませんが、そんなことはありません。次年度の予定表はプラグインの『くりかえしplus』を使っていますが、これには試用版があります。報告書の作成などのアプリアクションについては、キントーンの標準機能を使っています。費用は抑えられ、作業もかなり簡単です」(小田氏)

 キントーンを一部で導入したものの、全社への利用拡大に悩んでいる企業は少なくない。
 では、プロサスの成功要因は何だったのか。

 小田氏とともにキントーン導入を進めた黒田氏は、こうエールを送る。「最初から完璧を目指さないことが重要です。小田のように、まず1つの部署で成功事例を作り、それを他部署に見せながら広げていく。一人一人に寄り添って、導入側、広げる側が諦めず、根気強く元気にやることが大切です」。

 プロサスの事例は、「ITなんて無理」と諦めていた中小企業でも、1人の熱意と実績の積み重ねによって、全社的なDXが実現できることを示している。鍵となるのは、小さな成功を確実に積み上げ、その成果を可視化し、経営陣を巻き込んでいくこと。そして何より、現場に寄り添い、粘り強く支援し続ける姿勢だ。

「昭和的アナログ体制」からの脱却──。それは決して不可能な挑戦ではない。

※kintone AWARD 2025:kintoneユーザーのうち、年間で最も輝かしい活用をした企業を表彰するイベント。2025年は、名古屋・仙台・広島・福岡・大阪・東京の各地で選ばれた代表企業が、ファイナリストとして登壇した。

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