経営環境の不確実性が増す中、経営資源の配分と事業ポートフォリオの再設計がかつてないスピードで求められている。意思決定の質を左右するのは、財務データを“読む力”ではなく、“洞察へと変える力”へと移りつつある。そこで重要性を増しているのが、企業価値を高めるための羅針盤「FP&A(Financial Planning & Analysis)」の存在だ。AIエージェントの登場により、FP&Aは単なる財務分析の枠を超え、経営判断を科学的に支える中枢機能へと進化を遂げようとしている。企業の意思決定をどう変えるのか──Anaplanジャパン 社長執行役員 中田淳氏が、その未来像を語る。

※本稿は、2025年10月に配信した「第1回 経営管理イノベーションフォーラム」の内容を採録したものです。

FP&Aの再定義:経営の羅針盤をどう進化させるか

 FP&Aは企業の意思決定を支える財務計画・分析の専門職である。単に数字をまとめるだけではなく、財務・会計の知見を基に事業戦略や投資判断、リスク管理を横断的に結び付け、経営陣に最適な打ち手を助言する――いわば“経営の羅針盤”のような存在だ。

 為替や原材料価格、地政学リスクなど経営環境の変化が激しくなる中、FP&Aは外部要因の影響をいち早く捉え、シナリオを立てて対応策を提示することが求められている。迅速で柔軟な意思決定を支援する存在として、その重要性は年々高まっている。

 一方で、日本では依然として経理財務と経営企画が分断され、合議制文化が根強いことから、欧米のようにCFO直下や事業部門にFP&Aを配置する体制が一般的ではなかった。しかし、経営環境の不確実性が常態化する時代において、スピーディーな判断を支える体制構築が求められるようになるとともに、FP&Aを戦略機能として位置付ける企業が増えつつある。

 ただし、高い専門性を持つFP&A人材を育成するのは容易ではない。そもそも、会社の規模に対して何人くらいのFP&A要員が必要なのか。

 米国のマイアミに本社を置くAnaplanは、年間売上高が約10億ドル(約1500億円)、2500以上の顧客を持つグローバル企業だ。Anaplanジャパン社長執行役員の中田淳氏は「当社と同じようなサイズの会社であれば、製造業で大体40人、非製造業の場合は20人から30人くらいのFP&Aまたは経営企画要員が必要とされています」と話す。

 では、Anaplanは何人のFP&Aを擁しているのか。答えは9人である。その人数の少なさに、他社の経営者や財務担当者は誰もが驚くという。なぜAnaplanのFP&A組織は、他社のそれよりも何倍も生産性が高いのか。

 その秘訣は、同社が開発・提供するクラウドサービス「Anaplan」を社内で最大活用していることにある。自社ツールを用いて、FP&Aのビジネスパートナーが各事業の現状を理解したり、事業をサポートしたりすることで、計画・予実・見通しの効率化と高度化を進めているのだ。これを同社ではAnaplan on Anaplan (AoA)と呼んでいる。

クラウド上で一気通貫の損益把握、少人数運営の鍵に

 Anaplanは世界中のリーディングカンパニーが採用するシナリオプランニング&分析プラットフォームである。現在、世界の時価総額トップ20社、米国の一般消費者向け企業のトップ10社がAnaplanを導入しており、日本国内でも時価総額トップ100社のうち、約半数の企業が導入している。

 中田氏は「例えば日本のいち営業担当者が今月の売上フォーキャストを引き上げた場合、社内に張り巡らされたAoAを通じて見通しデータが連携されることで、CFOは今期における受注額や顧客請求額に対する財務インパクトを瞬時に把握することが出来ます。弊社は2500名規模の企業で超大企業とは言えませんが、この情報連携のスピードは驚異的と言えます」と説明する。現場のオペレーショナルな情報が経営における財務数値にシームレスに変換・可視化され、全社的な意思決定に直結する。このスピードと透明性こそが、少人数運営の鍵となっているのだ。

 Anaplan社が実践する計画・予実・見通しの連動を、同社は「コネクテッド プランニング」と呼んでいる。財務情報のみならず、人事・要員情報、サプライチェーンの製販在の情報、販売情報などを網羅した全社的な計画連動を指す。中田氏は「ヒト・モノ・カネのリソースに関する情報をリアルタイムに連動させ、最適な資源配分を続けていくことが重要です」と指摘している。

 Anaplanは、財務や人事等の各領域におけるグローバルのベストプラクティスをベースにしたAnaplan Apps(アプリ)をリリースしている。これらを連動させることで、タイムリーかつ一気通貫で予実や見通しを把握し、迅速な意思決定につなげられる。中核となる財務アプリであるAnaplan IFP(Integrated Financial Planning)は、収益や売上原価、経費、人件費、PL/BS/CFなどの管理・分析のほか、設備投資計画や中長期計画、年次計画などのベストプラクティスを提供している。

 データモデルや計画プロセス、画面や分析手法を提供しているため、導入開始から活用による価値創出までの時間の短縮が期待できる。ベストプラクティスが自社プロセスにフィットしない場合は、Anaplanの特徴であるプラットフォームの柔軟性を生かして、カスタマイズなどの修正も容易だ。

AIエージェントが変革する3つのポイント

 生成AIを搭載したAIエージェントは、さまざまな業務をさらに効率化・高度化させるツールとして導入企業が増えつつあるが、FP&A業務にも変革をもたらそうとしている。

 Anaplanでは「CoPlanner」という生成AIを提供している。例えば、CoPlannerに「2025年3月から2026年1月の製品・サービス別の収益見通しを要約してください」と指示すると、Anaplan内に格納されたマスタデータや実績データ、見通しデータ等の中から必要な情報を瞬時に抽出し、概要や単体の収益傾向、比較分析が文章化されて提示される。処理時間はものの数秒だという。

 また、「2024年度のユニット別のベースラインの計画で最も大きいお客さまはどこですか?」という問いに対しては、トップ10の顧客名と数字が横棒グラフで順位立てて表示するといった具合だ。顧客ごとの詳細なパフォーマンスや需給バランスなども提示可能だ。

 中田氏によると、AIエージェントがFP&Aの業務に変革をもたらすポイントは大きく3つあるという。1つ目は「意思決定の準備段階での生産性の飛躍的向上」だ。「例えば、上司にデータを見せて計画の承認を取ろうとした時、別の視点を振られた場合でも、AIエージェントがすぐに要約を返答してくれます」。意思決定に向けた材料をそろえるスピードが劇的に向上するというわけだ。

 2つ目は「意思決定そのものの価値の向上」。膨大な情報を処理し、人間では見逃しかねない兆候も収集できるため、経営判断の高度化につながる。

 3つ目は「意思決定のリアルタイム化」。異常値やトレンドの変化を即座に検知し、最適なタイミングで判断を下せるようになる。

 これらのメリットを踏まえ、中田氏は「これまで外部に発注していた作業をAIの力で組織内に取り込み、トータルコストを下げることも期待できます」と強調する。同社のように、FP&A要員を少数精鋭に絞ることも可能になるというわけだ。

企業独自エージェントとの連携も、FP&Aのスキル深化へ

 Anaplanは年間売上高の半分にあたる約5億ドルを複数年にわたって製品開発に投資しており、AI開発は現在、同社が定義するロードマップのフェーズ3から4への移行期にある。2026年前半にはフェーズ5へ進む予定だ。

「既に自社のためだけのAIエージェントを開発している企業も多いと思います。フェーズ5では、その独自開発されたAIエージェントとAnaplanのAIエージェントが連携し、その企業を熟知したAIが経営をサポートします。二重投資にならない連携を実現したいと考えています」と語る中田氏。

 企業ごとのFP&A業務や経営判断に最適化されたAIの誕生が、目前に迫っている。データ分析や予測のスピード、精度が飛躍的に高まることで、FP&A担当者は多くの作業から解放され、より思考と判断に集中できるようになる。論理的思考力だけでなく、プレゼンテーションの創造性や影響力のあるコミュニケーションといったスキル向上にもつながるに違いない。

 不確実性が高まる現代。経営判断における最適な針路を指し示し、持続的成長への道を照らす“羅針盤”たるFP&Aの進化を求める企業にとって、「Anaplan」は心強い味方になるはずだ。

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