電通「採用ブランディングエキスパート」の(左から)増田健人氏、西井美保子氏、岩邊駿氏
「人的資本経営の推進」を変革の一丁目一番地に据える企業が増加する中、自社の魅力発信の強化によって採用力を高める「採用ブランディング」が注目されている。特に「Z世代」と呼ばれる若手層は、10年後、20年後の企業を支える存在であり、優秀な人材の獲得は喫緊の課題と言える。
電通が2024年2月に立ち上げた人材採用支援の専門チーム「採用ブランディングエキスパート」には今、採用活動を変革の中核に据えた企業からの相談が多数寄せられている。特筆すべきは、人事部のみならず、CHROをはじめCEOやCOOといった経営メンバーから直接相談を受けるケースが多いという点だ。同チームをリードする西井美保子氏、岩邊駿氏、増田健人氏の3人に、採用ブランディングが企業変革に不可欠な理由とその取り組みや成果、そして今後の展望について聞いた。
チーム発足から1年半で90社以上の支援実績
――電通の「採用ブランディングエキスパート」は、企業の人材採用を支援するコンサルティングチームです。どのような経緯でチームを発足させたのですか。
岩邊駿氏(以下敬称略) 大きな理由の1つは、企業のニーズが急増していることです。2024年2月の発足から約1年半で、すでに90社以上の企業の採用活動を支援させていただきました。採用市場で求職者優位が加速する中、電通が得意とする企業のブランドコミュニケーションにおいても、リクルートを目的としたプロジェクトにシフトするケースが増えてきました。
人事の他にも、企業によっては広報や経営など、さまざまな部門の担当者から数多くお声がけいただく中で、本格的な組織の立ち上げが急務となっていました。
もう1つの背景として、社内の人材育成と活用の観点があります。採用領域は、業種業態を問わず横展開できるナレッジがたくさんあるので、当社の若手プランナーが活躍しやすいです。チームは入社1年目から5年目の若手も含め、現在33人で構成されていますが、特に新卒採用については、実際に求職者として活動した経験と肌感覚が大いに生かされると考えました。
電通 第5マーケティング局 マーケティングコンサルティング1部 マーケティング・コンサルタントの岩邊氏
――電通ではチーム発足以前から採用支援に取り組んできたそうですが、そもそもの出発点は何だったのでしょうか。
西井美保子氏(以下敬称略) 2011年頃から、電通自体の採用のサポートを電通若者研究部「ワカモン」※が手掛けたことがきっかけです。その支援内容を汎用性の高いパッケージにして、2014年頃からクライアント様にも提供し始めました。
※高校生・大学生を中心とした若者の実態を調査し、若者と社会がより良い関係を築くためのヒントを探求するクリエイティブユニット
電通自身が採用ブランディングに取り組んだ背景には、リーマン・ショックの影響により、広告会社が求職者の志望する企業の選択肢に入りにくくなったことや、採用市場における電通のプレゼンスが相対的に弱くなっているのではないかという強い危機感を経営層が持ったことなどがあります。
「もう一度、採用にきちんと向き合わなければ駄目だ」という危機感から、それまでやったことのなかった就活イベントへの出展や採用サイトの開設など、各種施策を通じて、守りの採用から攻めの採用に転じた経緯があります。
「人」起点マーケティングで最適マッチングを実現
――なぜ今、採用ブランディングが重要なのでしょうか。
増田健人氏(以下敬称略) 一言で言うと、企業側にも学生側にもメリットがあるからです。まず企業側ですが、学生の数が減り、採用市場の競争が激化する中で、ブランディングがエージェント活用やダイレクトスカウトなどの施策の“土台”となり、企業イメージの定着や魅力の訴求につながります。
学生側にとっても、企業イメージが明確になることで、説明会やインターンシップ参加の動機づけとなり、企業理解が深まります。将来のキャリアを具体的に描けるようになることで、自分に合った企業か否かの判断がつきやすいと言えます。
電通 データマーケティング局 グロースコンサルティング2部 プランナーの増田氏
西井 いわゆるZ世代の就職やキャリア形成に対する意識の変化が大きく影響しています。私が就職活動をした約15年前は、70~80社にエントリーして、20社ほど選考を受けるのが一般的でしたが、今の学生たちは平均10社以下しか受けていません。
就職活動のために入手する情報が、興味のある分野や知っている分野に限られてしまうため、キャリアの選択肢はかなり狭いものになっていて、本来、出会うべき企業に出会わないまま就職活動を終えてしまう学生も少なくありません。
そこで、企業が採用ブランディングを通じて、自社が持つ価値や社風などをきちんと伝えていけば、より適切なマッチングが可能となります。学生にとっては、今まで知らなかった企業にも出会うことができるようになり、自分に合う企業を見つけるチャンスにつながります。
――電通が手掛ける採用ブランディングには、どのような特徴がありますか。やはり電通ならではの広告やマーケティングのノウハウ、ナレッジが生かされているのでしょうか。
岩邊 はい、電通のマーケティングの考え方をそのまま採用活動に展開していることが大きな特徴です。特に、電通ならではの「人」起点のマーケティングという視点が生かされています。
ターゲットとなる求職者の視点にどれだけ寄り添うことができるのかが重要であり、彼らを深く知るために、大規模調査を定期的に実施しています。さらに言うと、企業が採用したいターゲットがどんな人で、その人たちは何を考えて就職活動しているのかをしっかりと捉えるために、既存のマーケティングフレームも活用しています。
企業が求職者に自社をどう認知してもらい、興味を持ってもらい、就職先として選んでもらうのか。各フェーズにおいて大事になる接点や伝えるべき価値を設計するアプローチは、マーケティング領域では一般的ですが、電通ではそこに求職者のインサイトを加えることで、より深い共感を生む施策設計を可能にしています。
西井 戦略立案からクリエイティブ、施策設計・実施、広告運用、効果検証までを一気通貫でご支援可能なことや、さらにその先の「自走する組織づくり」に貢献できる点は、電通ならではの優位性と言えます。
電通 第6マーケティング局 ソリューションプロジェクト開発部 シニア・ブランディング・ディレクターの西井氏
ターゲットを深く知り、応募者の量と質、歩留まりを上げる
――電通の「採用ブランディング」によって、応募者の数(量)を増やしたり、応募者の質を変えたり、歩留まりを改善するといった成果が得られるそうですが、具体的にどのようなことを行っているのですか。
岩邊 応募者の量に関しては、BtoBの企業に多いのですが、そもそも企業として認知が足りないため、応募者が集まらず、採用計画に達する母集団が作れないという課題があります。
質については、応募者数(量)はあるものの、特定の採用したいターゲットが集まらない、現場からは「人材の質が落ちてきている」と言われるといったお悩みで、安定成長を続ける大手企業に多く見られます。
歩留まりについては、業界4番手、5番手以降の企業に多く、選考は受けてくれるものの、内定を出しても半分以上が辞退してしまうという課題です。
それぞれの対応ですが、量については電通の主領域である広告・コミュニケーション、PRなどの施策によって、改善することができます。そこで「何を発信するか」がとても大事になるので、企業として伝えるべき価値をしっかりと紡いだ上で、ターゲットに伝わるクリエイティブをつくっていきます。
事例を紹介すると、認知度0%に近いBtoB総合部品メーカーがあり、打ち手として学内での広告PRを実施しました。
同社のターゲットは理系学生だったのですが、求職者の視点に立つと、理系学生は自由な時間があまりありません。研究室とバイト、家の往復で1日が終わってしまう学生も多く、長期のインターンシップや会社説明会に参加することが難しいのです。
そこで、イベントに来てもらうのではなく、彼らの動線を押さえに行った方が効果的ではないかという仮説を立てました。その仮説を基に、研究室訪問ツールを作成して大学に出向いたり、学食のトレーマットなど学内の広告メディアをジャックしたりしてPRし、認知度向上を図りました。その結果、半年で20%以上認知度を向上させることができました。
質に関しては、伝えるべきメッセージを変えるのが効果的です。よくある例では、採用サイトのキーメッセージを他社と差別化できる自社ならではのメッセージに変えると、振り向いてくれる人が変わり、従来とは異なる母集団をつくることができます。
最後の歩留まりについては、採用活動に関わる人たちの意識を変える方法が効果的です。面接官やリクルーターに向けて、「当社は採用について、こんな課題感を持っている。故にこういうメッセージを打ち出し、こんな人材を採用したいんだ」ということを明確に伝える。あるいは彼らにそれを考えてもらい、メッセージに落とし込むことなど、ステークホルダーの巻き込みが重要です。

――戦略立案から効果検証に至る採用ブランディングのプロセスにおいて、電通の強みが最も発揮できるのはどの部分ですか。
西井 戦略立案の前にある「ターゲットを深く知る」というステップです。電通には、求職者に関するデータが大量にありますので、これを活用・分析することで、コミュニケーション戦略をスピーディーに設計することが可能です。
大規模調査には、毎年実施している「Z世代就活生まるわかり調査」があります。それ以外にも、大学生とのネットワークを活用したクイックな調査を行うことも可能です。こうした調査・分析を踏まえて、先述の通り、求職者視点で採用ブランドの統一イメージを開発していきます。
もう1つ、特徴的なのが「間口を広げる戦略立案」です。電通は、あらゆる業界の採用活動に関するデータを大量に持っています。同じ業界内の競合他社だけではなく、雇用主という観点でも冷静に採用における競合を見極めます。さらに、ターゲットに合わせたタッチポイントを選定し、適切にコミュニケーションを取っていくなど、コミュニケーション施策上の幅広さも含めて、自社ならではの戦略を打ち立てていきます。

企業変革と人材変革はセットで行うべき
――チーム発足から約1年半がたちましたが、企業側のマインドに変化は見られますか。
西井 採用に関する経営者の課題意識は年々高まっています。企業変革と人材変革はセットで行うべきであり、10年後、20年後に向けて企業変革しようとすれば、人材も併せて変えていく必要があります。企業価値を高めるため、未来の企業を支える人材を獲得するために、採用を重要な経営課題として捉え、全社的に採用ブランディングに取り組もうとする企業も増えていると感じます。CEOや事業の推進者であるCOO、CMO、CHROといった方々から直接相談を持ち込まれるケースも増えてきました。
――そうした企業ニーズにどう応えていきますか。また、今後の展開として個人的にチャレンジしたいことはありますか。
岩邊 採用活動は、企業の成長を担う人材を獲得することが目的です。企業が持続的な成長や変革を目指すのであれば、その構想に当てはまる人材を採用するための戦略を立てなければなりません。採用の強化に当たっては、人事の担当部署だけでなく、経営、事業部門が一体となって、“全社ごと”にするのが重要であり、われわれの仕事だと考えています。「今年、いい人が採用できた」ではなく、10年後、20年後に選ばれ続ける会社をどうやってつくっていくのかという点にコミットしていきたいですね。
また、採用しただけでは、企業の成長にはつながりません。入社後の育成や定着、リスキリング、退職後のキャリア形成まで支援できる体制をつくっていく。そうすることで初めて、企業変革の支援につながると考えています。

増田 おかげさまで、これまで数多くのクライアント様の採用ブランディングをご支援させていただきました。今後は、実際に行ったブランディング施策の結果を基に採用ブランディングプロジェクトの効果検証を行いながら、PDCAを回していくステップを中心にご支援させていただきたいと思っています。
学生の数が減っていく中で、自社に合った人材・企業の未来を担うことができる人材を効率的に採用するには、今年度の採用結果から逆算して、各施策を評価し、次年度に向けて改善を加えていくことが、ますます重要になると考えています。
PDCAによって、「こんな学生に出会えて良かった」「こんな企業に出会えて良かった」という声が上がるようなご支援を引き続き行っていきたいと思います。
──最後に西井さんにお聞きします。採用ブランディングは時間がかかるので後回しでいいと考えている企業は少なくないと思います。そうした企業にどんなことを伝えたいですか。
西井 採用こそ、企業の変革につながる重要な施策だということはお伝えしたいです。採用ブランディングはまだ先の話だと思っていたら、2年後、3年後に取り返しのつかないことになったという企業の担当者もいらっしゃいます。
採用ブランディングの効果が出るのは単年ではなく、2年後、3年後です。企業変革と同様に中長期の時間がかかりますから、問題が起こりそうだと思っているのであれば、ぜひ明日からでも取り組みをスタートしてください。
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