米国の関税政策や為替変動、地政学リスクなど企業を取り巻く環境は不確実性を増しているが、外部環境の変化に対応し収益力を最大化していくにはどのような取り組みが必要なのか。NTTデータ グローバルソリューションズの本田氏は、「経営」と「計画部門」が同じ未来を見て判断できる仕組みが重要だと話す。ただ、外部環境が経営に及ぼす影響について、膨大なデータを集計、分析し、迅速に意思決定を下していくことは容易ではないだろう。どのようにその仕組みを作っていくべきか、解説してもらった。

※本稿は、2025年4月に配信した「第2回 サプライチェーン改革フォーラム」の内容を採録したものです。

不確実性が増す中で、企業に求められる4つの力

 企業を取り巻く経営環境は、かつてないほど不確実性を増している。NTTデータ グローバルソリューションズ 第一事業本部 Digital & Technology事業部 DSC統括部 マネージャーの本田 涼太氏は「米国の関税政策や為替変動、地政学リスクなど、外部要因が企業経営に及ぼす影響は大きく、その都度、収益や財務へのインパクトを試算し、迅速に意思決定を行う必要があります。これが遅れると、影響に対する対応策の実行も遅れてしまいます」と指摘し、可視化と対応の迅速性を確保する仕組みが不可欠であると強調する。

 本田氏は、不確実性の時代に企業が備えるべき力を4つに整理して提示した。第1は「グローバルサプライチェーンの変化に柔軟に対応できる力」である。需要の急変や為替の乱高下、地政学リスクによる供給網の寸断といった事態に直面しても、迅速に再構築できる柔軟性が求められる。

 第2は「『経営』と『計画部門』が同じ未来を見て判断できる仕組み」である。経営層が掲げる事業計画と現場が担う需給・生産計画が分断されていては、全社最適の意思決定は難しい。両者が一貫した視点を共有することが不可欠だ。

 第3は「収益性/財務健全性を維持・最大化する力」である。外部環境の変化が利益やキャッシュフローに与える影響を即時に把握し、損失を最小限に抑える仕組みが必要だ。そして第4は「サプライチェーン課題を『経営課題』として捉える力」である。調達や生産の停滞は単なる現場の問題ではなく、企業全体の持続性に直結する。これら4つの力を備えることで、企業は不確実性に揺さぶられる環境下でも持続的な成長を実現できる。

不確実性の時代に企業に求められる4つの力
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 その中でも、「経営層と現場の計画部門が分断されたままでは、不確実な時代を乗り越えることはできません」とその重要性を指摘する。経営が描く事業計画は長期的な収益目標を指し示す一方、現場の計画部門は需給計画や生産計画を通じて日々のオペレーションを担っている。両者が別々に動けば、外部環境の変化に対して意思決定が遅れ、対応は後手に回ってしまう。つまり、経営と計画部門が同じ未来を共有し、一体となって意思決定を下せる体制を築くことが不可欠なのだ。

 さらに、本田氏は「サプライチェーンの課題は企業の収益性と財務健全性に直結します」と指摘する。需要変動や為替の乱高下、地政学リスクによる供給網の寸断など、外部環境の変化は突発的かつ連鎖的に起こり得る。だからこそ、問題の早期把握と即応が経営の死命を制するという。

 外部環境変化の典型例として挙げられるのが、米国の関税政策についてである。関税率が変われば原材料や輸出製品のコスト構造が一変し、収益に大きな影響を及ぼす。その影響額を把握するためには、膨大なデータの中から必要なものを抽出し、別途集計・試算する必要がある。

 しかし本田氏は「この作業は手作業による試算がまだ多くの企業で行われています」と語る。例えば、Excelに膨大なデータを集約しても、即時に影響を算出するのは難しく、結果として意思決定が遅れ、対策も後手に回ってしまう恐れがある。

手作業による集計から脱却し、経営と現場を繋げる

 本田氏が指摘するように、ビジネスの現場では、依然として手作業に頼る企業が多いのが実態だ。本田氏はその中でも、各部署からデータを持ち寄り、それを集計する負担を問題視する。作業に時間がかかり、意思決定が遅れてしまうからだ。

「外部環境の変化に素早く対応するには、従来までのExcelなどの手作業による業務フローでは限界があります。基幹システムから必要なマスターデータやトランザクションデータをシームレスかつリアルタイムに取り込める環境が求められています」(本田氏)

外部環境の変化に迅速に対応するためには、従来型の手作業による集計では限界がある
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 この課題解決に役立つ仕組みとして本田氏が提示するのが「Synchronized Planning(シンクロナイズドプランニング)」だ。SAP IBP(Integrated Business Planning)を総合プラットフォームとして活用し、基幹システムとシームレスかつリアルタイムに連携することで、影響額の算出からシミュレーション、意思決定までをスムーズに行える。手作業に頼らず、数量と金額を統合した計画を即座に立案できるのが大きな特長だ。

「Synchronized Planningは、SAP IBPのシステムを総合プラットフォームとして利用することで、データやシステム同士の連携をシームレスかつリアルタイムで行い、影響額の算出、シミュレーション、意思決定までスムーズに行うことができるような仕組みです」と本田氏は強調する。

 講演では実際にSAP IBPを利用したデモンストレーションも行われた。画面上のダッシュボードには複数のチャートが並び、得意先、地域別の売上比較や月別の収益予測などが直感的に表示される。さらに、2025年度の利益予測を示すチャートでは、基本バージョンとダウンサイドバージョンが比較可能となっており、経営環境の変化を即時に可視化できる様子が示された。

 本田氏は「例えば製品カテゴリーにおいて原価が10%増加した場合に、この利益予測の値がどのように変化するのか、シナリオ同士の比較分析が行えます」と紹介した。実際にExcelのアドインを使い、データを呼び出して編集し、10%の原価上昇を反映したところ、利益予測が即座に減少する様子がチャート上に表れた。売上は変わらないまま、コスト増加によって利益が圧迫されるシナリオが一目で確認できる。

外部環境の変化による収益や財務への影響を可視化
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大規模なシステム刷新からではなく、小さく始めて大きく育てる

「Synchronized Planningは大規模なシステム刷新を前提としなくても始められる点に特徴があります」と本田氏は紹介する。SAP IBPは、Excelや既存のERPとの接続も可能なのだ。はじめのステップとして、既存のERP、またはExcelのデータをSAP IBPに取り込むことで、シミュレーションやシナリオ分析が実現可能だという。例えば、在庫・供給・需要の可視化も最小限のデータ連携から可能だ。

 導入を成功させるうえで重要なのは、いきなり全社的な最適化を狙うのではなく、まずは小さな成功体験を積み重ねることだと本田氏は説く。「まずは小さく始めて確実な一歩を踏み出していただき、その次のステップとしては、特定領域に絞って導入することで、効果を実感しながら進めることができるでしょう」と語り、限定的な範囲で導入効果を確認しながら拡張するアプローチを推奨した。

Excelや既存のERPからの接続だけでも、在庫・供給・需要の可視化が可能
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 SAP IBPは既存システムとの親和性が高く、業務やシステムとの連携も柔軟に対応できる点が強みだ。そのため、在庫管理や需給調整といった特定領域で成果を上げつつ、次のステップとして財務やスケジュールを含めた統合的な計画に広げていくこともできる。「全体最適に向けて計画を大きく育てていってほしいと思います」と本田氏は語った。むろん、SAP S/4HANAやSAP PP/DS(SAP Production Planning and Detailed Scheduling)、SACなどへ拡張していけば、財務・スケジュールを含めた統合意思決定に発展するだろう。

 経営と現場を「利益」でつなぎ、不確実性の時代に強みを発揮しようとする企業にとって、Synchronized Planningが大きな拠り所になりそうだ。

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