京屋染物店は、半纏(はんてん)や浴衣などの祭り用品のオーダーメイドを中心に、染物のデザインから縫製までを一貫して行う全国でも数少ない染工場だ。

 大正7年に創業、2019年には創業100年を迎える同社は、先代社長までは縫製工程を外注し、染色のみを担う家内工業だった。しかし、先代の跡を継ぎ現社長となった蜂谷氏は、お客様の声をそのままものづくりに反映させたい・縫製の技術を若い世代にも伝承していきたいという強い思いを持っていた。そのため染色以外の業務も内製化を図り、現在では営業・デザイン・縫製・染色の4部署で、16名の従業員を抱えている。

 今回は同社が事業範囲を拡大していくにあたってぶつかった業務課題とその打開策について、同社取締役蜂谷氏と、同社のkintone(キントーン)導入をサポートしたスマイルアップの熊谷氏にお話を伺った。

工数管理や納期の見積もりに課題があるも、高額投資をしたシステムは使われずじまいに

京屋染物店 蜂谷氏

 複数部署を抱える体制となった同社は、部署や従業員間での情報共有において、課題に直面することになった。京屋染物店の蜂谷氏は以下のように話す。

「お客様からいただいた注文の納期や、工程の進み具合がとても見えづらかったです。何かトラブルが発生した際も、どんな問題が起こっているのか把握できなかったり、そもそも問題があること自体がわからなかったりしました」

正確な納期や進捗が見えづらいことは、顧客からのニーズに十分に応えられないことに繋がった。

「それぞれの工程で、どのくらい作業時間に余裕があるかわからないので、全部の部署が納期を余計に長く見積もってしまう。すると何が起きるかというと、本来であれば1,2週間で納品できるようなお仕事でも、お客様には『納期一ヶ月です』とお伝えすることになってしまうんです。お急ぎで品物が欲しいお客様にも、『最短〇〇日でお仕上げできます』といったコミュニケーションができない。むろん『では、結構です』となってしまいますよね。本来であればお受けできていた注文も、お断りしてしまうという状況だったんです」(蜂谷氏)

この状況を課題に感じた蜂谷氏は、部署をまたいだ工程管理のためにさまざまな方法を模索する。

「はじめは大きな模造紙を壁新聞のように広げて、部署ごとに場所を区切って、作業内容を書いた付箋を貼っていっていたんです。注文が確定したものから付箋に『半纏○着 納期いつまで』というのを書いてペタッと貼って、終わったものから次の部署に移動していく。でも、これではただタスクの名前が書いているだけの管理方法なので、具体的な内容や作業量もわからない。ましてやみんな忙しいから、付箋が剥がれて下に落っこちてしまったりしていましたね」

 アナログな情報共有に早くも限界を感じた蜂谷氏は、ITシステムの導入を検討。模造紙で管理していたときと同様の形でタスク管理ができるものを構築するための費用は100万円と決して小さくはない投資だった。情報共有の必要性を強く感じていた蜂谷氏はシステムの導入に踏み切る。しかし、現場からの評判は芳しいものではなかった。

「一番歯がゆかったのは、最初に仕様をガチッと決めて構築してしまったがために、日々システムを使っていくうちに現場から出てくる『ここをもっとこうしてほしい』という要望に応えられなかったことでした。システムが使いづらいままだから、だんだんとみんなが入力をしてくれなくなってきて。結局100万円もかけて導入したシステムが全く使われなくなってしまったのは、辛かったですね」

 現状を打開する方法を考えあぐねていた折に、同じ地域のユーザーである株式会社ヤマウチでのキントーン活用事例を知る。

コンサルを交え業務課題の洗い出し
現場の声を反映した販売管理システムを構築

 制約の多い型の決まったシステムには、やや抵抗があった蜂谷氏。初めはキントーンの印象も「業務管理に使えるというのは分かるけれど、なんだかよくわからない」というものだった。しかし、同社のキントーン導入をサポートした熊谷氏から製品についての詳細を聞き、一度挑戦してみようという気になったという。単に実現したいことではなく、現状の課題点の洗い出しを起点としたシステム構築だったからこそうまくいったと蜂谷氏は語る。

「自分だけが『これが使いやすいだろう』と思ったものをトップダウンで現場におろしてもうまくいかないということを以前の失敗で痛感して、できるだけ実際にシステムを使う人の声を反映したいと思っていました。熊谷さんとのディスカッションには現場の人にもどんどん入ってもらって、ひたすら現場の業務課題を洗い出して、キントーンアプリの構成に反映していきました」

キントーンポータル画面。日報やアプリ、スケジュールなどが把握できる。
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 部署ごとにタブレット端末を配布し、それぞれの作業場所からいつでもキントーンにアクセスできるようにしている。年配の従業員も多い中、ITのデバイスを業務に活用することに現場からの抵抗はなかったのだろうか。

「自分から『使ってみたい』とか『使わなくちゃ』と思ってもらえるように工夫しました。たとえばキントーンで管理している納期や業務進捗をみながら朝礼をやると、みんなが把握している納期や進捗を、キントーンをチェックしていない人はわからない。そうすると自然に『使い方を教えてもらえますか』と、積極的に活用しようとしてくれる。今では60代の女性スタッフも、タブレット端末からアプリを活用しています」

タブレット端末で、作業場からいつでもキントーンをチェックできる。
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 現在は、顧客台帳・受注管理・販売管理・見積書作成などの業務を中心に、計13個のアプリを活用中だ。

 紙で管理していた頃は別々に管理していた受注確定案件と制作指示書は、キントーンアプリでは統合して「受注管理アプリ」として運用している。製品の最終納期だけではなく、部署ごとの納期や進捗状況も、同アプリ上で管理している。また、進捗状況はステータスごとにグラフ表示されるようになっており、社内で抱えている全ての案件が、それぞれどのくらい工程が進んでいるのかが一目瞭然だ。

「販売管理アプリ」では、見積・請求の管理や帳票作成を行っている。商品マスタアプリから商品名や単価をルックアップ機能(※)で取得することで、見積や請求の計算がスムーズに行える。また、帳票出力サービス「レポトン」を販売管理アプリと連携し、キントーンのデータを任意のフォーマットでPDFや紙として出力できるようにしている。別で見積・請求書を作成する手間が無くなり、案件に紐づけた各種書類の提出履歴なども管理できるようになった。

(※)キントーンアプリに入力するデータを他のアプリから取得できるようにする機能。データ入力の手間を省き、入力ミスも防ぐことができる。

業務の見える化とコミュニケーション促進で、残業ゼロと過去最高の売上を達成

 キントーンによる販売管理システムの導入後、新規案件の発生や部署ごとの業務進捗が可視化されたことによってもたらされた恩恵はさまざまだ。まず、負担の大きくなっている部署を他部署が手伝うなどの協力体制が生まれた結果として、大幅な納期短縮を実現した。

「皆がどれくらいの仕事を抱えているかがきちんと把握できる分、むだな余裕をもたせずに、正確に納期を見積もることができるようになりました。その分、これまではお断りせざるを得なかったような納期の短い注文が入った時も『この期間ならできます』とお受けできるケースがグッと増えました。業務時間もずいぶん短縮できて、以前は夜中の12時過ぎまで残って仕事をしていたこともあったくらいだったのですが、今ではどの部署の従業員もほとんど17時には終業していますね」

 また、余計な在庫を持っておく必要がなくなったことで、これまで在庫のストックのために使っていた縫製所のスペースが半分になった。そのぶん作業場として使えるスペースが広くなったため、これまで別々の場所で作業していた各部署のスタッフが、ひとつの作業場で業務ができるようになった。

「キントーン上のグラフや進捗を見ながら、『今ここでタスクが滞っているけれど、後工程をどうしますか』というような部署をまたいだ話し合いが、すぐにできるようになりました。システム上での情報共有が、対面でのコミュニケーションにも良い影響を与えました」

共有された情報をもとに、コミュニケーションも円滑化
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 在庫の適正化によるキャッシュフロー改善も相まって、キントーン導入後の繁忙期の売上は例年の1.5倍、創業以来最高の売上を達成したそうだ。

「今まででは考えられない収益でした。この経験により、当社のポテンシャルがわかりましたね。部署毎でバラバラに仕事をして、全体の状況が見えていなかった時には、こんな収益を上げられなかったと思います」

 今後の活用の展望としては、キントーンに蓄積したデータを活用した売上分析への注力を視野に入れている。

「売上分析を商品ごと、カテゴリー毎にどれだけ売れているのかなども分析していきたいです。あとは商品ごとの粗利と、給与などの月の固定費とをグラフ表示にして、『この月はあとこれだけお仕事を頂ければ、利益が出せるね。』といったことをみんなで共有していきたい。キントーンは蓄積したいデータの項目を必要な時にいつでも付け足すことができますから、いくらでも分析の幅が広がります(蜂谷氏)」

「仕事は自ら沸き起こる『もっとこうしたい』という思いを着火剤にすることが大事で、そのためには皆で今の状況をきちんと把握できていて、どこに向かっているのかをわかっていることが大切なんです。キントーンは京屋染物店さんにとって、従業員一人一人の主体的な行動を促し、自主性を高めるツールなんです(熊谷氏)」

これからも、キントーンを中心としたIT活用で日本の伝統産業を盛り上げていく同社の発展に注目していきたい。

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