不思議な空気感
三浦は、「自分の実力なのは分かっているんですけど」としたうえで、取り巻く雰囲気の違いをあげた。
「空気感が不思議な感じでした」
それはフリーだけではなかったと言う。
「ショートのときからみんなおかしかった。いつもの感じじゃなかったです。ふつうに考えたら、ショートの(佐藤)駿のルッツの失敗をみたことないし、(鍵山)優真のアクセルの失敗もみたことないし、ほかの選手もそうですし。みんなほんとうに練習の状態がよかったので、今年もいい大会になるな、と思っていたんですけど」
にもかかわらず、選手たちに失敗が相次いだ空気感の理由をこのように感じていた。
「空回りしている、力が前に出過ぎていると感じました。みんな、狙ってたんだな、と思います」
狙ってたんだな、というのは「結果」にほかならない。
「(宇野)昌磨君が引退されて、優勝したい、成績を残したいというのが、自分も含めてあるなと思います」
と、三浦は言う。
一昨年と昨年は、宇野が連覇を果たしている。優勝候補筆頭とも目される中で勝ちきっている。いわば、皆の追いかける目標であった。宇野の存在は大きかった。
しかし宇野は引退し、今大会にはいない。鍵山は数々の国際大会で実績を残してきているとはいえ、全日本選手権の優勝は今回が初めてだ。推測ではあるが、意識して、あるいは意識していなくても、優勝、それに準ずる成績を、という意識はより強かったかもしれない。佐藤も優勝を目指していたという。それを現実にしたいという意識は、昨年までとは異なるだろう。推測ではあれ、少なくとも、三浦が空気感を感じ取っていたのは事実だ。
また、鍵山は別として、2位に入ったのはジュニアでただ挑むだけでよかった中田璃士、3位になったのはショートプログラムで伸びなかったことから前半のグループで滑った壷井達也、4位の織田と、ある意味、後半のグループが包まれた空気や、結果への過剰な意識を持たない立ち位置にいた選手であることも、象徴的だ。
三浦は取材をこう締めくくった。
「僕はスケートが好きなのでここであきらめるようじゃ好きと言えないです」
失敗から学べることも大きい。選手それぞれに苦い思いを味わった経験は、きっと、次にいかすことができるはずだ。