近年、地震や水害などで広域にわたる災害が発生する例が増えている。サプライチェーンの強靭化にも関心が高まっているが、そこで重要なのは、在庫の積み増しや調達先の複数化といった対策にとどまらず、サプライチェーンを構成する各サプライヤーのBCM(事業継続マネジメント)のレベルを向上させることだ。2024年10月18日(金)~25日(金)にわたってオンラインで開催されたJBpress/Japan Innovation Review主催 「バックオフィス・イノベーションWeek 2024 <秋>」では、「[特別編] 危機管理・リスクマネジメントフォーラム」も企画され、その中でサプライヤーにおけるBCM構築支援のポイントを解説した。

サプライヤーは中小企業が多くBCM構築が進んでいない

MS&ADインターリスク総研
リスクマネジメント第四部長
政策研究大学院大学 非常勤講師
山口 修 氏

「サプライヤーにおけるBCM取組に対する支援のポイント~BCM取組の自走化支援でサプライチェーンの強靭化を実現~」と題するセッションを行ったのは、MS&ADインターリスク総研 リスクマネジメント第四部長の山口修氏だ。同社は、MS&AD インシュアランス グループのリスク関連サービス事業の中核を担うプロフェッショナル集団である。

「BCM(事業継続マネジメント)」という言葉を聞きなれない人もいるかもしれない。山口氏は、内閣府の「事業継続ガイドライン(2023年5月)」に記載されているBCP(事業継続計画)の策定プロセスをPDCAサイクルで回すことがBCMである、と定義する。

「BCPの策定だけでなく、何のために、何を・いつまでに、どうやって行うのかといった『前工程』、策定後の課題のつぶし込みと計画の浸透、計画のブラッシュアップといった『後工程』を含んだ取り組みが重要です」

図1:内閣府「事業継続ガイドライン(2023年5月)」に示されたBCPの策定プロセスをPDCAサイクルで回すことがBCM(事業継続マネジメント)と言える。
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 セッションの冒頭で山口氏は、国内サプライヤーにおけるBCM構築の実態について紹介した。前提として、日本ではサプライヤーの数が非常に多く、その多くが中小企業であることが大きな特徴だという。

「当社の調査によれば、ティア1と呼ばれる1次サプライヤーの数が100社を超えると回答した企業が全体の70%近くに達しています。またティア1の78%、ティア2の81%が従業員数100人以下だと回答しています」

 企業規模が小さな企業ではBCMの構築も遅れがちだという。

「BCP策定に関する複数の調査で、中小企業は大手企業に比べて、策定率が約半分にとどまっているという結果になっています。さらに策定プロセスごとに見ると、やはり『前工程』『後工程』で推進割合が低く、『前工程』は深く検討していない、『後工程』は事前対策を実施しただけで見直しや改善も行われていない、というところが多いようです」

サプライヤーのBCM構築支援のカギは「策定」と「育成」

 企業規模の小さなサプライヤーでは経営リソースも限られるため、BCM構築が進んでいないのだろう。バイヤーである大手企業側からの支援が求められるところだが、どのような支援を行えばいいのだろうか。

「方向性は大きく2つあります。1つは『策定』、もう1つが『育成』です。『策定』とは『0から1』を目指す支援であり、『育成』とは『1から10』を目指す支援です」と山口氏は説明する。

「策定」すなわち「0から1」を目指す支援では、0からの脱却が何よりも重要だが、自治体などから提供された雛形のブランクを埋めるといった短期的かつ均一的な対応でも一定効果を出すことが可能だという。

「当社では、“策定は一瞬、育成は一生”と言っていますが、BCPを組織に根付かせるためには「策定」に加えて『育成』も大切です。臨機応変な対応のためには実効性の向上が不可欠ですが、そのために『育成』が重要になります」

 自治体などから提示された「やり方」などに沿って個別具体的な対応を長期に渡って遂行することが必要だという。

 セッションでは、2011年に発生した東日本大震災時に同社でヒアリングを実施した中小企業等の取り組み事例も紹介された。

 ある産業廃棄物処理業者は、企業として守るべき重要な中核事業を明確化のうえ、自社単独での復旧が困難であることを見越し「同業他社と連携」して復旧する戦略を立て事前に準備をしていたため、想定外の事象が発生した際にも臨機応変に対応できた。また、ある情報通信器具製造業では、工場の設備や銃器など1万2000カ所について耐震補強などの対策を実施していたため、被害が軽微ですんだ。さらに、ある窯業・土石製品製造業では、地震・津波発生時の行動基準を定め、繰り返し訓練を行っていたため死傷者はなかったという。

「ただし、大量のサプライヤーについて、個別具体的に長期間にわたる対応を行うことは困難であり、現実的ではありません。そこでキーになってくるのが、サプライヤー自身でBCMを自走できる仕組みを構築することです」と山口氏は語る。

図2:サプライヤーのBCM構築支援のカギは「策定」と「育成」。しかし、個別具体的な長期に渡る対応は困難となるため、「自走化」が重要となる。
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BCM自走化のために「自分事化」と「育成の習慣化」を

 BCMを育てていく取り組みを自走化させるためには何が必要なのだろうか。

「大きく2つあります。『自分事BCP』、そして『育成の習慣化』です」と山口氏は答える。

「BCPを自分事化するためには”魂を入れる”ことが重要です。” 魂を入れる” ポイントとして、『BCPの策定意義が明確』、『目指すべき目標が明確』、『その目標に腹落ちしている』、『目標の達成戦略が明確』、『その戦略に腹落ちしている』、『事前対策が計画に関連』などがあります」

 魂を入れるための具体的なプロセスとしては、意義の明確化、目標の設定、経営資源の脆弱性分析、現地復旧戦略の構築、現地復旧戦略以外の戦略の構築などがあるという。

「ただし、これらを実際に行うには大量の分析が必要であり、中小企業のサプライヤーが行うのは困難です。またバイヤー側の企業がすべてのプロセスを支援するのも無理です。そこで最低限、意義の明確化、目標設定だけでも明示することが重要です」

 単に、BCPを策定してくれと依頼するのでは具体的に何をすればいいのか分かりにくい。例えば特定の調達品に絞り期限を設けるなど、具体的な目標を設定することにより、やるべきことが明確になる。

「協力会で一緒に『レジリエンス認証』を取得しませんかと働きかけた企業もあります。動機付けにもなるでしょう」(山口氏)。

「育成の習慣化」についても次のように解説する。

「『育成の習慣化』のポイントは『自分事BCPを実現』、『とりまとめ部門を明確化』、『役割分担を明確化』、『実施計画を立てる』、『計画の進捗を管理・更新』などです。いずれも長期的な対応が求められます。これもサプライヤーだけで実施するのは容易ではありませんが、バイヤー企業が優先する事前対策や訓練対象に絞り込んで明示することで、理解しやすく、取り組みも進むでしょう」

システムで見える化を行うことがBCMの自走化を促進する

 サプライチェーンを強靭にするためには、サプライヤーの自走化が重要だと山口氏は強調した。そのために、バイヤー企業も支援を行う必要があるが、限界もあるという。

「あらゆる支援を行うことはできません。できるのは、動機付けなど、プロセスの一部の支援に限られます。また、支援結果が自走化につながっているか検証まではできないという課題もあります」

 その課題を解決するソリューションも登場し注目されている。MS&ADインターリスク総研が提供する「レジリード」である。

「システムによって進捗の見える化を実現することにより、検証が可能になります。また、BCMサイクルの半自動化を実現し、『前工程』、『後工程』も含めた全プロセスの支援が可能になります」という。

 サプライヤー任せの自走化ではなく、バイヤー企業が、サプライチェーン全体の自走化を管理できる仕組みまで構築できるわけだ。サプライチェーンの強靭化を目指す企業にとって、大いに頼もしいソリューションといえる。

システムの見える化で自走化を支援
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