2人が好意的に描いている貴公子たち

 二人の異性の好みを反映しているか否かは別として、それぞれの作品の中で好意的に描いている人物をご紹介しよう。

 

●紫式部 実資と頼通

 ドラマでは接点が少ないが、紫式部は秋山竜次が演じる藤原実資を、かなり好意的に描いている。

『紫式部日記』によれば、敦成親王(一条天皇と中宮彰子の皇子、道長の外孫)の五十日の祝いの席で、実資は女房の裾や袖口に覗く衣の枚数を数えていた。

 おそらく贅沢禁止令に違反していないか確認していたと思われるが、それは実資の部署の仕事ではない。不純な動機で行なわれた可能性もなきにしもあらずだが、紫式部は、「他の人と違って素敵」、「今風におしゃれな人よりもご立派」と賞賛している(服藤早苗 東海林亜矢子『紫式部を創った王朝人たち――家族、主・同僚、ライバル』所収 東海林亜矢子「第十二章 公卿たちとの交流――紫式部の男性の好みとは」)。

 実資も紫式部に好感を抱いていたのか、紫式部を取次ぎにしている。

 また、紫式部は道長の嫡男・渡邊圭祐が演じる藤原頼通を、「こちらが恥ずかしくなるほどご立派」、「物語のなかで、ほめそやしている男君のよう」と称している(宮崎莊平『新版 紫式部日記 全訳注』)。

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●清少納言 行成と斉信

 こちらもドラマではあまり接点がないが、清少納言と渡辺大知が演じる藤原行成と大変に気が合っていたようである。『枕草子』には、行成とのエピソードがいくつも綴られている。

『枕草子』「頭弁の職にまゐりたまひて」における、清少納言の「夜をこめて鳥のそら音にはかるとも世に逢坂の関は許さじ」の歌に対し、行成が軽妙洒脱に返したエピソードは有名だ。

『枕草子』「職の御曹司の西面の立蔀のもとにて」には、清少納言が主である高畑充希が演じた定子に、行成は「ただ者ではありません」と伝えていたこと。また、行成は取次ぎに清少納言を必ず指名したことが綴られている。

 金田哲が演じる藤原斉信も、『枕草子』「心にくきもの」に、5月の長雨の頃、宮中の部屋の小戸の簾に寄りかかっていた時の移り香は、本当に素晴らしかった。翌日、若い女房などが匂いたつ斉信の残り香に色めき立ったのも、無理はないなどと、描かれている。

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