利益圧迫の原因となっていた「不動在庫」を減らし、併せてこれまで不十分だった「原価管理」を徹底する―。こうした取り組みで成長を遂げたのが、『ガリガリ君』などに代表される老舗中堅アイスメーカーの赤城乳業だ。同社は2011年、大規模な経営改革を進めていた。この改革で定めた目標が「売上拡大と利益率の改善」だ。利益目標は食品業界ではかなりハードルの高い水準だという。その目標を達成するために、同社は長年の経営課題だった不動在庫の削減と原価管理の徹底に着手する。一体何をしたのか。赤城乳業 財務本部 情報システム部部長 吉橋高行氏の講演内容から、改革の中身に追っていく。

赤城乳業のビジネスモデルが抱える課題

 赤城乳業は埼玉県深谷市に本社を置き、420名ほどの正社員が在籍する、老舗中堅企業の一つだ。同社における長年の経営課題は「大量の不動在庫」だった。というのも、アイス市場は4月〜9月の売り上げが全体の約7割に及ぶ。7、8月にピークが集中し、その後は急降下するのが常だ。こうした需要の波になるべく一定の生産量で対応するため、春先から備蓄在庫をためて需要の集中する夏場に備えていた。

 これにより、春〜夏の在庫保管料は大きなコストになる。不動在庫の削減は必須だった。「アイスなので冷凍保存が必要であり、毎月の在庫保管料は大きなコストになっていました」。赤城乳業 財務本部 情報システム部部長の吉橋高行氏は、2024年7月31日に行われたイベント「SAP NOW Japan」でこう語る。

赤城乳業 財務本部 情報システム部 部長 吉橋高行 氏

 同社は2011年当時、売上高・利益率ともに食品会社としては高い目標を目指す中期計画を立てていた。前年の売上高は297億円。それをさらに拡大していく方針だった。新工場も竣工し、生産能力も倍増したという。「新工場の償却ものしかかる中、この利益率目標はかなりハードルの高いものでした」(吉橋氏、以下同)。

 同社が利益率アップを目指すには、在庫を適正量にすることが求められる。そのためには、生産(Production)・販売(Sales)・在庫(Inventory)というPSI管理を最適化する必要があった。そうして不動在庫を減らし、コスト削減や利益率向上につなげるのである。

 そしてもう一つ、利益率アップに向けて行ったのが「原価管理の徹底」だ。こちらも、同社が解決しなければならない長年の経営課題だった。当時、原価管理を年一回しか出来ておらず、商品ごとの原価や利益を正確に出せていなかったという。そこでこれらを徹底し、利益を高めることを目指した。

PSI管理強化とSAPの導入

 PSI管理による不動在庫の削減、そして原価管理の徹底。これらを達成するため、赤城乳業では経営改革を敢行していった。IT部門のリーダーである吉橋氏は、システム面からの課題解決を包括的に考えたという。そこで進めたのがERPの導入だった。というのも、同社はそれまで会計管理、工場管理、販売管理といったシステムがそれぞれ独立していた。各管理データの整合性が取れておらず、またそれらのデータを最後に手入力で一箇所に集めるため、ミスも生じやすい環境だった。PSI管理を強化するには、最初から各データを集約する必要があった。一年かけてITグランドデザインを描き、ERPを導入する決断をしたという。

 ではどの会社のERPを導入するか。同社が選択したのはSAPであった。「当初はSAPではなく、国産ERPを考えていました」と吉橋氏。国産の方が価格やシステムで優れているという見立てだった。

 一方、SAPのイメージは「大企業が使うシステム」であり、「当社には“高嶺の花”だと思っていました」と話す。導入コストも高く使いづらい先入観があり、候補に入っていなかったという。

 そうして、国産ERPの比較・選定を進めるために各社へサービス情報の提供を依頼した。ただしこのとき、国産の優位性を裏付ける目的でSAPにも情報提供を依頼したという。「その後、実際にSAPの説明を受け、デモを確認したところ、思いのほか社内から高評価でした」。最初のイメージや先入観は大きく変わったと話す。



 それからはSAPを含めた3社のERPに絞り、より細かな比較を行ったという。具体的には「ユーザー評価」「価格」「情報集約」の3点で経営側の評価を仰いだ。

 特に懸念していたSAPの価格については、「高嶺の花だと思っていましたが、最後まで候補に挙がっていた国産ERPより低いコストでした」と話す。ユーザー評価も問題なく、またこの取り組みで重要な情報集約については、SAPは統合データベース(※異なる業務の情報が一つのデータベースに統合されていること)で管理されている。これまでのようなシステム間のデータ転記によるヒューマンエラー、データの不整合、タイムリーさの欠如もない。この点も高評価を得た。

 経営側だけでなく、開発本部・営業本部・生産本部・管理本部にもそれぞれ比較評価を依頼した。「製品」としてどれが優れているかに加え、導入時の「人」の軸でも率直な声を聞いた。「システム導入はSIerや当社メンバーの意思疎通が十分でなければうまくいきません。各ERPに携わる“人”も評価してもらいました」。こうしたプロセスを経て、SAPの導入が決まった。

不動在庫を大幅削減、原価管理が生んだ「直感的リスク把握」

 導入初年度から効果も明確に出ている。吉橋氏はまず「ビッグデータが蓄積されたことが大きい」という。多種大量の業務データがERPに集約され、分析できるようになった。「今後AIによるデータ分析を見据える上でも、ビッグデータの基盤を手に入れたのはうれしいですね」。1年間のシステム稼働率も99.89%と、ほぼ停止せず動き続けた。 

「一番大きな効果は原価管理ができるようになった点です。これまでの年一回の原価管理から、月次かつ自動処理でつねに標準原価が見えるようになりました」

 しかしこれで全てがうまく行ったわけではない。ERP導入直後の2014年、大きな事件に見舞われた。同年3月に発売した『ガリガリ君 リッチナポリタン味』の売れ行きが悪く多くの不動在庫を生んだのである。「ERPさえ入れれば会社が好転するわけではなく、BPR(※ビジネスプロセスエンジニアリング:業務改革)との両輪を回さなければ成果は出ないことを痛感しました」。

 その後、BPRにも力を入れると、経営にも本格的な効果が現れた。大きな経営課題だった不動在庫は4分の1から5分の1程度に削減したという。億単位の効果があり、PSI管理強化の実績といえる。

「原価管理によって従業員の視点も変わりました。これまで在庫は『何百万ケース』など数のボリュームで見ていたのが、標準原価が見えることで『何十億、何百億』という金額で捉えられるように。経営リスクの直感的な把握が可能になりました」

 さらに同社は2023年、SAPのパブリッククラウド導入を決断した。パブリッククラウドを選んだ背景として大きかったのは、同社のホールディングス化(2024年9月〜)だ。複数の事業会社がホールディングス内に立ち上がるため、ある会社のSAPで標準化された業務を他の各社にコピーできれば理想的だ。その点、パブリッククラウドは少ない費用でコピーができるという。

 加えてパブリッククラウドになると、日常的な業務を実行する「標準化領域」の機能はSAP側のアップデートにより自動で進化していく。コストをかけて自社でアップデート作業を行う必要はない。これらもメリットだという。

 2023年には売上570億円を達成し、ERP導入前のほぼ2倍に拡大した赤城乳業。次の目標として、更なる売上増を目標に掲げている。不動在庫の削減と原価管理の徹底を進めた同社。一連の改革はまだ続いていく。

中堅・中小企業が抱える課題を低コスト・短期間で解決

 赤城乳業をはじめ、経営管理に悩む中堅・中小企業でSAPを導入するケースは非常に多い。実際SAPの導入企業は80%が中堅・中小企業だという。中でも同社は、中堅・中小企業に最適なERPソリューションとして「GROW with SAP」を提供している。

 このソリューションの特徴は、ERPを導入する際に企業が悩むポイント、特に中堅・中小企業がネックに感じるポイントをSAPとして支援する仕組みがあることだ。

 例えば「ERPの導入は時間がかかる」という企業の声も少なくない。SAPでは導入に際して「FIT TO STANDARD」を提唱している。具体的にはテンプレートとして「GROW with SAP」に25業種分のベストプラクティスも用意されており、これにより導入スピードが迅速になり、コストの軽減につながるのはもちろん、業務体系の効率化や全体最適化の実現からの脱属人化も可能になったという。

 一方、システム導入後の「社内定着率」を高めることも重要になる。導入しても従業員が十分に活用しなければ効果は生まれにくい。そこでGROW with SAPでは、自己学習のためのコミュニティや学習コンテンツなども提供する。コミュニティではSAPエキスパートやパートナー、ユーザーが集まる。学習コンテンツも併用することで、より社内定着率を高められるという。

 SAPは大企業向けというイメージが大きいが、この考えはもう古いようだ。経営改善に取り組む中堅・中小企業にとって、GROW with SAPは心強い味方になるだろう。

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