多くの企業が様々なスタイルで推進しているDX。北海道全域で店舗や宅配による食品や日用品を販売する生活協同組合コープさっぽろでは、すでに多くの成果をあげている。牽引役は、ハンズ(旧東急ハンズ)やメルカリでもDXを推進してきた執行役員の長谷川秀樹CIOだ。その長谷川CIOと、企業のDXを支援するウイングアーク1st執行役員の大澤重雄氏が「DXの実戦で注意すべきこと」について語り合った。

かっこよくなくても成果の出るDXがある

大澤 重雄氏(以下敬称略) 弊社ではDXを実践するにあたり「守り」と「攻め」の2ステップを提唱しています。「守り」のDXは業務効率化やコスト削減を実現すること、「攻め」のDXはデータを分析・活用した経営における意思決定のスピード向上や新しいビジネスチャンスの創造だと考えています。長谷川さんの考えるDXはどのようなものですか。

長谷川 秀樹氏(以下敬称略) DXの定義は人によって異なり正解はないと思っていますが、僕自身は、昔から取り組んできた業務のIT化とあまり変わらないと思っています。

大澤 コープさっぽろでのDXの取り組みを教えていただけますか。

生活協同組合コープさっぽろ
執行役員 CIO デジタル推進本部 本部長
長谷川 秀樹氏

長谷川 コープさっぽろでは、お客様である組合員のみなさんのご自宅へ商品を届けるのですが、その配送ルートの最適化が一例です。これは、北海道大学発のベンチャー株式会社調和技研と一緒に、地図情報や季節ごとの道路事情といったデータを元に、配達員のルートをAIで最適化するというものです。これによって、1人の配達員が一日で配達できる件数が、50件から60件に増えました。20%の改善で、これは“かっこいいDX”の例だと思います。

ほかにも、単にSlackを導入しただけで現場の運用が改善されたというケースもあります。なぜか、見た目が黒っぽい唐揚げが各店舗に配布されてしまい、その販売をストップさせなければならない“事件”がありました。従来であれば、デリカバイヤーが何店舗かを担当しているスーパーバイザーを経由して、各店舗にそれを知らせるのですが、それでは時間がかかってしまいます。しかしSlackを使えば、デリカバイヤーもスーパーバイザーも、瞬時に各店舗と情報共有ができます。テクノロジーが大好きな人は「それだけ?」と思うかもしれませんが、現場にしてみれば、使うテクノロジーが最新式のAIだろうが一般的によく使われているSlackだろうが関係がないと思います。

Slack導入によって現場の運用が改善された
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大澤 成果は、使う技術では決まらないということですね。私もよく感じますが、DXについては技術論が先行しがちで、目的と手段が逆転してしまっていることもあります。弊社も「現場の体験」が変わるDXをご提案させていただいているのですが、現場が変わると統合的な結果としてのインパクトが強いのですが、技術優先となり予算がつかないこともあります。

DXの時代に突入して実現可能になったこと

長谷川 「DXはIT化と変わらない」というのは、どちらも、それによって現場と現場の先にいる組合員が嬉しくなるかどうかが重要だからです。ただ、IT化と言っていた頃にはなかったAIの技術やSlackが今はあります。ハードウェアも同様で、たとえばバーコードリーダーも、かつての専用端末より今のスマホの方が優れているので、昔は難しくてできなかったことが、今は簡単にできるようになっています。ただ、僕は社内には徹底的な合理化を求めますが、組合員には求めません。たとえば今、コープさっぽろでは注文内容の変更を電話でも受け付けています。電話のユーザーがまだまだ多いからです。この状況で、非合理的だからとオンラインに集約させたりはしません。組合員に対しては、むしろ選択の幅を広げたいと思っています。CIOとしてデジタルを通じて組合員と従業員の双方が気持ちよい環境を提供することが重要だと考えています。

生活協同組合コープさっぽろが掲げるCIOのミッション
ウイングアーク1st株式会社
執行役員 Data Empowerment事業部長
大澤 重雄 氏

大澤 どこをDX、デジタルトランスフォーメーションで変革させていくのか?は、企業文化が強く反映される部分ですね。DXの中でもデータ活用は重要なポジションを占めます。先ほどは配送ルートの見直しの話を伺いました。私たちも、蓄積されたデータから需要を予測し、自動発注をする仕組みの導入を支援したケースがあります。販売システムもデータの保存先もさまざまだったお客様の業務を理解しながら進めた案件です。

長谷川 データには、人が見て判断するしかない領域と機械に見せて機械に判断させる領域とがありますが、機械に判断させるものについてはグイグイ進めていいと思いますね。

大澤 そうですね。私は、DXを社内で推進するためのコツとして、社内での文化醸成があると思っています。ただ、データ活用基盤を整備して、新しい仕組みを導入しようとしても社内から「使いたくない」などと反対の声が聞かれることもあると思います。そうした場合、長谷川さんはどうしますか。

長谷川 仕組みによっても違います。スーパーバイザーや店舗は、Slackを使わなくても業務を回せていました。そこにSlackを導入するときには合意形成が重要で、まずは使ってみたい人にどんどんとアカウントを発行して「これ、便利だね」という人を増やし、「〇〇さんも△△さんも、みんな便利だと言っています」という空気を作ります。

一方で、データ活用基盤のようにもっと大掛かりなシステムを導入するような場合は合意形成はしません。「明らかに合理的で、楽になるとCIOの僕が思うから導入する」で押切ります。

ただ、もし反対の声があるなら「営業力強化のために明日から、このシステムに営業スタッフの日々の商談について入力してください」というように、新たな負荷が生じるケースではないかと思います。すでにGoogleワークスペースカレンダーでスケジュールを管理していて、そこから自動で商談情報を抜き出してまとめるだけなら反対はされないと思います。

用途が決まらなくてもデータはどんどん溜める

大澤 今のお話で、営業担当時代を思い出しました。データエントリーを課すのであれば、エントリーする人にもメリットがある、還元される仕組みでなければなりません。データを入力する本人が、データが溜まって現状が分析でき改善に繋げられると実感できなければ、使われないシステムになってしまいます。長谷川さんは今後、どのようにデータを活用した業務改善を進めていきますか。

データエントリー:コンピューターにデータを入れること。表計算ソフトなどにキーボードから直接データを入力したり、各種記憶媒体からデータを読み込んだりすることを指す。データ入力。

長谷川 リアルタイムデータを使った業務改善ができるなと思っています。何のためのという部分は後回しではありますが、商品に製造時間を記録した二次元バーコードをつけて、それをレジで読み取って、レシートに記載されるようなデータと一緒にリアルタイムにどんどんとサーバーに上げます。すると、何時何分に作った何という惣菜が何時何分に売れましたということまで、その場でわかるようになりますよね。賞味期限切れで廃棄すべき商品もレジでチェックできるようになります。JANコードに製造日時情報を加えてもらえれば、こちらで二次元バーコードを付ける必要がなくなって楽なのですが。

大澤 データエントリーの必要がないと、無意識のうちに、自然とデータが溜まっていきますね。お話を通して改めて大切なのは現場がデータを使える環境整備であり、その実現に向けて出てくる課題はITに対する嫌悪感の払拭だと実感しました。私たちが提供しているデータ分析基盤『Dr.Sum』は、データの抽出や加工に手間を掛けなくても、現場のみなさんでデータ分析ができるプラットフォームです。これからデータを収集する企業だけでなく、すでに溜まっているデータがあるという企業の方々にもぜひご活用いただきたいです。

Dr.Sum』はDWH構築に初めて取り組む方から、多機能・高性能を求めるベテランまでが満足できる「分析用データベースエンジン」 と、連携して使用できる「ユーザーインターフェイス」「データ分析基盤」から構成されています。それらの組み合わせにより、幅広いデータ活用に関するニーズに対応可能です。 企業の成長にあわせて継続してご利用いただけます。

長谷川 データをとにかく溜めるとなると、少し前であれば、サーバーの容量が少ないとかネットワークが細いとかいろいろな問題がありましたが、今は溜めておくことができます。それからデータの蓄積に関しては、どのデータを見て何を決めていくのか使うかは後で考えることにして、とにかくデータをどんどんデータレイクに溜めていくのがいいと思っています。

大澤 その通りですね。そしてそのデータを、社内の誰もが必要なときに参照して分析できる、そうするのが当たり前という文化と環境をつくっていくことで、DXが推進されるのだと思います。お話を伺っていて、お客様の業務の改善や高度化のため私たちにはまだまだやるべきことがあるなと実感できました。今日はありがとうございました。

データレイク:利用目的が未確定で、まだ解析がなされていない未加工の非構造化データを蓄積したデータベース。メタデータなどによる、データの属性や出所による分類はある程度行われたビッグデータなどを指し、主にデータサイエンティストが取り扱う。

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