従来、日本の製造業は自然災害のような局地的被害をリスクとして想定してきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の流行で、より全体を俯瞰してリスク対応する必要性が浮き彫りになったのは記憶に新しいところです。今回は経済産業省の『ものづくり白書2022』にも取り上げられた「ダイナミックケイパビリティの強化」をテーマに、製造業の競争力向上についてNTTデータ グローバルソリューションズ EA&PS事業部 EA統括部 シニアソリューションアーキテクトの北川 浩美氏に伺いました。
本コンテンツは、2023年3月31日に開催されたJBpress主催「第16回 DXフォーラム~デジタルテクノロジーの活用による企業変革の実現 DAY2」のセッション3「製造業ビジネスのダイナミックケイパビリティ強化に向けて(IBP S&OP)」の内容を採録したものです。
SAP製品によるシステム導入支援を担うNTTデータ グローバルソリューションズ
本日は製造業のダイナミックケイパビリティ強化をテーマとして、IBP S&OPすなわち「統合事業計画における需給計画管理」を中心にご紹介していきたいと思います。
まず、当社はNTTデータのグループ内法人であり、長年培ってきたSAPシステムの知見と実績をもとに、SAPを中核とした基幹システムおよび周辺システムの構想策定を支援しています。特に近年は、SAP S/4HANA® によるデジタルコアと周辺エンタープライズ・エコシステムを組み合わせた「新時代のシステムランドスケープ」の提案にも注力しています。
ダイナミックケイパビリティを構成する3つの要素
今回のテーマである「ダイナミックケイパビリティの強化」は、経済産業省の『ものづくり白書2022』でも、企業の競争力を向上させるために不可欠であり、その具体的な目標は「基幹システムとMES(製造実行システム)の連携強化」を例として記されています。
当社ではこれに加えて、WMS(倉庫管理システム)やS&OPといった周辺システムと基幹システムとを密につなぐことが、真のダイナミックケイパビリティの強化に必要だと考えています。
では、ダイナミックケイパビリティ強化に必要なアプローチとは、実際にどういったものでしょうか。そもそもダイナミックケイパビリティとは、①Sensing(感知:ビジネス環境を観察・分析する能力)、②Seizing(捕捉:自社の既存の資源を応用・再利用する能力)、③Transforming(変革:多種多様な資産を再構築・再構成する能力)の3要素で構成されています。
私たちはこの一連の能力を実現する上で、基幹システムの最適化と拡張が有効だと考えています。まず構想策定に基づき既存資源の活用最適化、さらに基幹システムの拡張が行われ、その結果として感知と分析の能力が高まる。このサイクルを積み重ねていくことで、ダイナミックケイパビリティの強化が確実に進んでいきます(図1)。
次章では、3つの中でもひときわ重要な「Sensing」にフォーカスしてお話しします。
需給計画管理とサプライチェーンの最適化を可能にするSAP IBP
「SAP IBPによる需給計画管理」を例にSensingを説明していきます。基幹システムにおけるIBP S&OPには、いわゆる横軸としてSCMの基幹システム(調達管理、生産管理、在庫管理、販売管理など)が配置されています(図2)。
ダイナミックケイパビリティを強化するには、これらのサプライチェーンが密に連携しながら、お互いの変化に動的に対応していける仕組みが求められます。それを総合的な視点から計画し、全体の動きをつかさどる機能配置が「需給計画」であり、それを動かすために必要なデータを生み出すのが「Sensing=感知と分析」なのです。両者は言うなれば人の身体と脳のような関係にあります。
今回、この需給計画管理を実現するソリューションとしてご紹介するのが「SAP IBP(Integrated Business Planning)」です。これは需要予測や販売計画、在庫の最適化、供給計画・生産計画およびサプライチェーンの可視化・監視などの機能で構成された、SAPの サプライチェーン計画ソリューションです。このSAP IBPをSAP S/4HANA® と統合することで、マーケティングや販売、調達、さらには生産、物流の各分析システムからリアルタイムに需給実績データを取得し、サプライチェーン全体の需給バランスを最適化する仕組みが実現します。
基幹システムと各業務システム間のデータ連係が可能にするもの
次に、この需給計画管理を実現するソリューションがどのようなものか。いわゆるAs-Is(現状)とTo-Be(目指すべき状態)の視点から見ていきましょう(図3)。
図の左側(As-Is)にもあるように、従来は基幹システムと各サプライチェーンのシステムが、それぞれ独立したソリューションとして構築されている例がほとんどでした。双方のデータを連係させる仕組みがないため、例えば販売や生産、在庫それぞれに計画を立て、人手を介して基幹システムに渡す。また実績値も各システムから抽出し、それを人が転記して基幹システムに入力しながら計画を維持・管理するという状態です。せっかく計画を立てても、スピード感のある計画の進捗分析ができないのが悩みでした。
そこでSAP IBPを導入して、基幹システムと各システム間のデータ連係を実現したのが右側(To-Be)です。基幹システムのデータをリアルタイムで抽出・参照できるため、最新の情報に基づく計画策定はもちろん、販売や生産、在庫の実績情報を明細単位でつなぎ「今、何が起こっているのか?」を感知(Sensing)しつつ、変化に合わせて刻々と計画をアップデートすることが可能です。
SAP IBPで部門間連携による情報共有と合意形成を実現
SAP IBPによる感知(センシング)の仕組みを構築した結果、実際にどのようなことが感知できるのでしょうか。大きく5つが挙げられます(図4)。特に5つ目の「アラートモニタリング」は、SAP IBPによる分析系機能の中でも、よりプロアクティブなデータ活用を可能にするものとして注目されます。
例えばSAP IBPでは、サプライチェーンを横断して計画と実績の対比やKPIの状況を把握し、それをダッシュボード上にグラフや図版などで「見える化」できるため、データ分析の専門知識がない担当者でも、直感的に最新の状況を理解できます。その結果を受けて、データの分析軸の変更や集約・ドリルダウンなどを実行しながら、迅速で的確な意思決定も行えます。よく使われるKPIはSAP IBPに標準搭載されており、カスタマイズが必要なものは独自に計算式を設定・登録しておくことも可能です。
こうしたSAP IBPがもたらす最大のメリットは、部門間連携による情報共有と合意形成の仕組みが実現する点です。各事業部門の担当者が最新のデータをもとに計画の進捗や実績との乖離を分析し、オペレーションを見直していくサイクルが、組織および部門間の最適化を加速していくことは間違いありません。
最後になりますが、NTTデータ グローバルソリューションズでは、需給計画管理にとどまらず、DX推進に取り組まれる製造業の皆さまに、業務・業種向けのデータ活用テンプレートを多数ご用意しています。
これらを活用して、例えば現状のAs-Is分析以降のプロセスにおけるDX推進のポイントを洗い出し、お客さまの基幹システムの最適化・拡張によるダイナミックケイパビリティ強化につなげることが可能です。こうした取り組みに関心をお持ちの方は、ぜひ一度ご相談ください。
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