文=福留亮司
グランドセイコーが1960年代に生まれた名作をベースにした、記念モデルを発表した。この『44GS』は現在のグランドセイコーデザインのベースとなるもの。そんな名品の記念モデルとなれば、自ずと期待感が膨らむのである。
スイス時計に追いつきたい
時計先進国スイスの腕時計を凌駕すべく、グランドセイコーが誕生したのは1960年のこと。そこには59年に製造された『セイコークラウン』をベースモデルとして、さらなる高性能化が施されていた。その証拠に、搭載のCal.3180は、もっとも優れた精度規格とされていたスイス・クロノメーター検定局と同じレベルの精度を実現していたのである。
もちろん、それはスイスの検定局に通したわけではなく、あくまでもセイコー独自の検査によるものだが。でも、その実力は間違いないもので、セイコーはその証として、文字盤には「Chronometer」の文字を刻み、裏蓋に獅子マークのメダリオンを刻印している。
64年からは、精度を競う最高峰の場、ニューシャテル天文台コンクールに参加。スイス勢に勝るとも劣らない成果をあげている。グランドセイコーが誕生した60年代は、その実力が世界レベルにあることを証明した飛躍の時代であった。
そして、その最中の67年に登場したのが手巻きの『44GS』。グランドセイコーの外装デザインを確立したとされるモデルである。丁寧な仕上げ、加工によってつくりだされるコントラストがもたらす立体感。。。光と影を巧みにデザイン要素に取り入れたセイコースタイルは、現在に至るまで、このモデルをベースとしている。
ちなみに、この“44”は誕生年にもデザインにも関係なく、Cal.4420を搭載してたことによるネーミング。当時は『57GS』がCal.5722を搭載していたように、キャリバーから名前を取っていたようだ。
その『44GS』が、今年、ちょうど55周年を迎えた。これまでにも『44GS』現代デザインのモデルはいくつか登場しているが、2022年はより多くの『44GS』現代デザインモデルがリリースされた。
ムーブメントはスプリングドライブ
その中のひとつが、『44GS 55周年記念限定モデル SBGY009』である。まさに55周年ならではのモデルなのだが、注目すべきは、ムーブメントがスプリングドライブという点である。
スプリングドライブは、機械式の仕掛けを持ちながら、クォーツの精度をもったハイブリッド機構。セイコーが開発した唯一無二のムーブメントである。
つまり、動力源はゼンマイで、ほぼ機械式ムーブメントの構造だが、心臓部ともいえる調速機構のみをクォーツ式にしたものということになる。外観はほとんど機械式ムーブメントである。
デザインは『44GS』を継承しながら、現代的要素、そして55周年の特別感を加えた静寂な雰囲気。ダイヤルは放射線状の繊細な型打ち模様が、ほのかに浮かび上がる深いネイビーカラーで、澄んだ夜空を表現する。12時位置に配されたGSのロゴが、満月を思わせる。
そんな中で、滑らかさに定評のあるスプリングドライブの運針が、その気分をさらに高めてくれる。精度ばかりに目が行きがちだが、このデザインだからスプリングドライブを選択したのか!と、全体の構成力の秀逸さに驚かされる。
ディテールを見ると、ザラツ研磨が施された美しいケース、緩やかなカーブを描いた分針と秒針、オリジナル同様のボックスガラスなど、抜かりはない。細部まできっちりと行き届いているのだ。
60年代、セイコーには多くの名作が誕生したが、その中でも『44GS』はグランドセイコーにとって非常に重要な腕時計である。そのDNAを正統に受け継いだ、新しい『44GS』もまた、特別なモデルのようである。
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